この記事のポイント
- 現物で渡す退職金も、渡す資産の時価で退職給与と退職所得を数えます
- 会社は資産を時価で手放したものとして、譲渡損益を計上します
- 資産で渡した分も源泉徴収と住民税の特別徴収の対象です。税額分の現金を先に手当てします
- 消費税は土地が非課税。車や建物は、渡し方で当てはまる規定が変わります
まず結論:現物で渡す退職金は、帳簿の金額ではなく時価で数えます
社用車や不動産で退職金を渡すとき、税務では帳簿の金額(帳簿価額)で数えません。
渡す時の時価(通常売り買いされる値段)で数えます。
会社は、資産を時価で手放したものとして、譲渡損益(売った場合の利益や損失)を出します。
その時価が、会社の退職給与と、役員の退職所得の収入金額に入ります。
現金を払わない部分にも、源泉徴収(払う側が税金を差し引いて納める仕組み)が要ります。
時価と違う帳簿価額のまま退職金に振り替えると、会社と役員の両方で金額がずれます。

会社は、資産を時価で手放したものとして譲渡損益を出します
渡した資産の時価と帳簿価額の差が、会社の譲渡益または譲渡損です。
法人税では、有償でも無償でも、資産の譲渡の収益を所得の計算に入れます(法人税法22条2項)。
収益の額は、次の価額で測ります。
その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額
(法人税法22条の2第4項)
帳簿価額より時価が高い資産を帳簿価額のまま振り替えると、譲渡益の計上が漏れます。
退職給与の額も時価で数え、相当な額かを判定します
現金と資産の時価を合わせた額が、その役員への退職給与の額です。
役員の給与には、経済的な利益も含みます。
前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。
(法人税法34条4項)
退職給与のうち不相当に高額な部分は、損金(税金の計算で差し引ける費用)になりません(同条2項)。
相当額の判定(法人税法施行令70条2号)と功績倍率の考え方は、役員退職金の記事にまとめています。
ポイント
同じ時価を、譲渡損益・退職給与・退職所得の3か所で使います。
帳簿価額で数えると、相当額を超えるかを正しく判定できません。

役員側では、受け取った時の価額が退職所得の収入金額です
退職により一時に受ける給与は、退職所得になります(所得税法30条1項)。
物で受け取った場合の収入金額は、その物の価額です(同法36条1項)。
前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
(所得税法36条2項)
会社の帳簿の金額ではなく、受け取った時の時価が収入金額です。
退職所得の金額は、原則として(収入金額-退職所得控除額)×1/2です(同法30条2項)。
退職所得控除額は、主に勤続年数で決まる、収入金額から差し引ける額です(同条3項)。
役員の期間が5年以下の人がその期間に対応して受ける退職金は、2分の1が使えません(同条2項・5項)。
生命保険の契約を渡す場合の評価は、保険の名義変更の記事で解説しています。
計算例
例:勤続30年(役員期間も5年超)の社長に、現金3,800万円と社用車を渡す場合
社用車 帳簿価額60万円/時価200万円 会社の譲渡益 200万円 - 60万円 = 140万円 退職給与の額 3,800万円 + 200万円 = 4,000万円 退職所得控除額 800万円 + 70万円 ×(30年 - 20年)= 1,500万円 退職所得の金額 (4,000万円 - 1,500万円)× 1/2 = 1,250万円 帳簿価額で処理した場合 (3,860万円 - 1,500万円)× 1/2 = 1,180万円会社の所得は、退職給与が全額損金になる範囲なら、どちらの処理でも同じです。
しかし役員の退職所得は70万円少なく計算され、源泉所得税も不足します。
数字は、消費税を考えない一定の前提を置いた目安です。
資産で渡した分も、支払の時に源泉徴収が要ります
居住者の役員に退職金を払う会社は、支払の際に所得税などを源泉徴収します(所得税法199条)。
納付は、原則として支払った月の翌月10日までです。
この「支払」は、現金に限りません。
現実に金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払の債務が消滅する一切の行為が含まれる
(所得税基本通達181~223共-1)
資産を渡して退職金の債務が消えれば、この「支払」に当たります。
退職所得の住民税も、支払の際に会社が差し引いて納めます(地方税法328条の5第2項)。資産だけで渡すと差し引く現金がないため、税額分を現金で払う内訳などを決議の前に決めます。
注意
源泉所得税を期限までに納めないと、会社に不納付加算税がかかることがあります。納付が遅れた税額に上乗せされる税です(国税通則法67条1項)。
消費税は、土地と、車・建物とで扱いが分かれます
土地の譲渡は、消費税がかからない非課税の取引です(消費税法6条1項・別表第二第1号)。
車や建物は、渡し方で当てはまる規定が変わります。
- 金銭で決めた退職金の代わりに渡す:代物弁済(お金の代わりに物で払うこと)に当たります。課税の対象で、対価は原則として消える債務の額です(同法2条1項8号・同法施行令45条2項1号)。
- 役員に資産を贈与する:時価で譲渡したものとみなされます(同法4条5項2号・28条3項)。
一方、通達は次のとおりです。
いわゆる現物給与とされる現物による給付であっても、その現物の給付が給与の支払に代えて行われるものではなく、単に現物を給付することとする場合のその現物の給付は、代物弁済に該当しないことに留意する。
(消費税法基本通達5-1-4)
はじめから資産を渡すと決めた退職金は、この通達の考え方では代物弁済に当たりません。ただし、役員への無償の譲渡として時価で課税される可能性があります(同通達5-3-5(注))。

申告や源泉徴収の誤りにつながるのは、次の処理です
現物の退職金では、次の処理が誤りにつながります。
- 帳簿価額のまま退職金にする:時価のほうが高いと、譲渡益の計上が漏れ、退職所得と源泉徴収が不足します。
- 時価の根拠を残さない:会社と役員で使う時価を、査定書などで説明できなくなります。
- 現物分を源泉徴収の計算から外す:源泉所得税が不足し、不納付加算税の対象になりえます。
- 車や建物の分を消費税の申告から外す:代物弁済やみなし譲渡に当たる分の消費税が漏れます。
注意
国税を滞納した会社が、不動産などで退職金を払っていた事案があります。相当額を超える部分について、受け取った元役員に第二次納税義務が告知されました。第二次納税義務は、会社の滞納税を一定の限度で代わりに負う義務です(国税徴収法39条)。会社の財産で滞納税を払いきれない場合の規定です。その原因が、法定納期限の1年前の日以後の無償や著しく低い対価での譲渡などにある場合です。審判所はこの告知を適法としました(令和5年12月14日裁決・当時の規定による事案)。この事案の支給額は、審判所が認めた相当額の7倍を超えていました。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
支給を決める前に、ご自身で整えられるのは次の4点です。
- 渡す資産の帳簿価額を、固定資産台帳で確かめる
- 車は買取査定、不動産は鑑定評価など、時価の資料を集める
- 現金と資産の内訳を決め、源泉徴収と住民税の税額を現金で払えるか確かめる
- 「退職所得の受給に関する申告書」を、支払の時までに本人から受け取る
取締役の金銭でない報酬等は、具体的な内容を定款か株主総会の決議で定めます(会社法361条1項6号)。
どの時価を使うか、相当額を超えないか、消費税がどれに当たるかは個別判断です。
決議の日と引渡しの日が離れる場合や、土地と建物への時価の分け方も、事実で判断が分かれます。

税理士が入ると変わるのは、時価の根拠と3つの税目の計算です
小松公認会計士・税理士事務所では、次の作業を行います。
- 時価の確認:資料を確かめ、会社と役員で同じ時価を使えるよう根拠を整えます。
- 相当額と議事録:現金と資産の合計で相当額を検討し、議事録の内訳をそろえます。
- 法人税:譲渡損益と退職給与を分けて仕訳し、申告書に反映します。
- 源泉徴収:受給に関する申告書と勤続年数を確かめ、税額を計算します。
- 消費税:土地と車・建物を分け、代物弁済などの当てはめを検討します。
決議の前に試算すれば、現金と資産の内訳を選び直せます。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 社用車を退職金として渡すとき、帳簿価額で処理してもよいですか?
税務では時価で数えます。会社は、時価と帳簿価額の差を譲渡損益にします(法人税法22条の2第4項)。時価は退職給与の額にも含めます(同法34条4項)。役員の退職所得の収入金額も、取得した時の価額です(所得税法36条2項)。
Q2. 退職金をすべて不動産で渡すと、源泉徴収はどうなりますか?
資産を渡して退職金の債務が消えれば、源泉徴収の「支払」です(所得税基本通達181~223共-1)。差し引く現金がないため、税額分を現金で払う内訳にするなど、決議の前に手当てを決めます。期限を過ぎると不納付加算税がかかることがあります。
Q3. 現物で渡した退職金に、消費税はかかりますか?
土地の譲渡は非課税です(消費税法6条1項・別表第二)。車や建物を、金銭で決めた退職金の代わりに渡すと、代物弁済として課税の対象です(同法2条1項8号)。はじめから資産を渡す場合も、時価で課税される可能性があります(消費税法基本通達5-3-5)。
Q4. 時価はどうやって決めればよいですか?
所得税法36条2項は、物を取得した時の価額で測るとしています。車は買取査定書、不動産は不動産鑑定評価書など、第三者の資料で価額を説明できるようにしておきます。どの資料を使うか、土地と建物にどう分けるかは個別判断です。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法22条2項・22条の2第4項・34条2項・4項、法人税法施行令70条2号、所得税法30条1項・2項・3項・5項、36条1項・2項、199条、所得税基本通達181~223共-1、消費税法2条1項8号・4条5項2号・6条1項・28条3項・別表第二第1号、消費税法施行令45条2項1号、消費税法基本通達5-1-4・5-3-5、会社法361条1項6号、国税通則法67条1項、国税徴収法39条、地方税法328条の5第2項、国税不服審判所の令和5年12月14日裁決の内容を扱っています。車や不動産の時価の具体的な評価方法、自社株や生命保険契約を渡す場合の評価、功績倍率など相当額の計算、退職給与の損金算入の時期、源泉徴収税額と住民税額の具体的な計算と税率(令和9年分以後の防衛特別所得税を含む)、納期の特例、退職所得の源泉徴収票、非居住者の役員、役員への低額譲渡、消費税の簡易課税・免税事業者・インボイス、不動産取得税・登録免許税、受け取った資産を後で売るときの取得費、死亡退職金と相続税、使用人への現物支給、会社法上の手続の詳細は扱っていません。紹介した裁決は、令和3年改正前の国税徴収法による第二次納税義務の事案です。記事中の計算例は、消費税を考えない一定の前提を置いた目安です。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(22条・22条の2・34条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索「所得税法」(30条・36条・199条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「消費税法」(2条・4条・6条・28条)https://laws.e-gov.go.jp/law/363AC0000000108
- 国税庁 消費税法基本通達 第5章第1節「通則」(5-1-4 代物弁済の意義)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/05/01.htm
- 国税不服審判所 令和5年12月14日裁決(公表裁決事例)https://www.kfs.go.jp/service/JP/133/09/index.html
退職金を資産で渡す前に、時価と税額を確かめませんか
社用車や不動産を退職金として渡すときは、帳簿価額ではなく時価で計算します。会社の譲渡損益と退職給与、役員の退職所得と源泉徴収を同じ時価でそろえます。消費税は、土地と車・建物に分けて確かめます。どれか1か所でも帳簿価額のままだと、源泉所得税の不足や申告の誤りにつながりかねません。代表税理士が、時価の資料の確認から相当額の検討、議事録の確認まで対応します。仕訳と申告書への反映、源泉徴収税額の計算、消費税の区分まで通して行います。支給の決議をする前の段階でご相談ください。
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