この記事のポイント
- 掛金は払った事業年度の損金です。未払計上はできず、要件に反して加入させた役員の分なども除かれます
- 払い込んだ掛金は会社に返還されず、解約手当金も従業員に払われます
- 法人の役員は使用人兼務役員を除き加入できません(社長は不可)
- 一時金は退職所得、年金は公的年金等。役員の分など、一定の要件違反の掛金を含む一時金は一時所得
まず結論:掛金は払った期の損金。ただし会社には戻りません
特定退職金共済(特退共)は、商工会議所などが運営する従業員の退職金の制度です。
会社が団体に掛金を納め、従業員が辞めると団体から本人に退職金が支払われます。
掛金は、払った事業年度の損金(税金の計算で差し引ける費用)です(法人税法施行令135条1号)。
従業員の給与所得の収入金額にも含まれません(所得税法施行令64条1項1号)。
ただし、払い込んだ掛金は、どんな理由があっても会社に返還されません。
受け取る従業員は、一時金なら退職所得、年金なら公的年金等です。いずれも要件に沿った加入が前提です。

特退共は、税務署長の承認を受けた団体が運営します
運営できるのは、商工会議所・商工会・市町村などで、税務署長の承認を受けた団体です。
主な要件は次のとおりです(所得税法施行令73条1項)。
| 主な要件 | 所得税法施行令73条1項 |
|---|---|
| 掛金は事業主だけが負担する | 1号 |
| 同じ人を他の特退共と重ねて入れない | 2号 |
| 役員(部長などを兼ねる使用人兼務役員を除く)などを被共済者(退職金を受け取る人)にしない | 3号 |
| 掛金は事業主に返還しない | 4号 |
| 掛金の月額は1人3万円以下 | 6号 |
| 特定の人を不当に差別しない | 10号 |
掛金は事業主だけが負担し、1人の月額は3万円までです。
会社の税金:掛金は現実に納付した期の損金です
損金になるのは、被共済者のために支出した掛金です(法人税法施行令135条1号)。
決算日までに現実に納付していない分は、未払金として損金にできません。
根拠は法人税基本通達9-3-1です。詳しくは中小企業退職金共済(中退共)の記事をご覧ください。
計算例
例1:従業員8名を1人月5,000円で加入させた場合
1年間の掛金 8名 × 5,000円 × 12か月 = 480,000円(納付した期の損金) 途中で解約しても、会社に戻る額は 0円です金額は一定の前提を置いた目安です。

従業員の税金:一時金は退職所得、年金は公的年金等です
退職で受け取る一時金は退職手当等とみなされ、退職所得になります。
根拠は所得税法31条と同法施行令72条3項1号です(タックスアンサーNo.2725)。
勤続年数は、一時金の計算の基礎になった期間で数えます(所得税法施行令69条1項2号)。
会社の退職金と同じ年に受け取ると、合計額から1つの退職所得控除額を引きます(所得税法30条2項)。
勤続年数は長いほうの期間を使い、重ならない期間があれば足します(所得税法施行令69条1項3号)。
計算例
例2:勤続25年、会社の退職金1,000万円と特退共の一時金250万円を同じ年に受け取る
勤続年数 25年(加入期間15年は勤続期間と重なるため足さない) 退職所得控除額 800万円 + 70万円 ×(25年 - 20年)= 1,150万円 退職所得の金額 (1,000万円 + 250万円 - 1,150万円)× 1/2 = 50万円別々に控除を引くと、どちらも0円に見えます。前年以前の退職金がないなど、一定の前提を置いた目安です。
「退職所得の受給に関する申告書」には、同じ年の支払済み退職金を書きます(所得税法203条1項2号)。
出し忘れたときは、退職金の確定申告の記事をご覧ください。
補足
規約で年金を選べる団体もあります。年金は公的年金等に係る雑所得です(所得税法35条3項3号・所得税法施行令82条の2第2項1号)。解約手当金は、運営団体の案内では一時所得とされています。
役員と家族は入れるか:使用人兼務役員かどうかで決まります
結論として、社長は入れず、役員は使用人兼務役員だけが入れます。
被共済者のうちに加入事業主である個人若しくはこれと生計を一にする親族又は加入事業主である法人の役員(法人税法第三十四条第六項(役員給与の損金不算入)に規定する使用人としての職務を有する役員を除く。)を含まないこと。
(所得税法施行令73条1項3号)
使用人兼務役員は、部長など使用人としての地位を持つ役員です。常時その職務に従事していることも要件です(法人税法34条6項)。
社長・専務・常務・監査役などは当たりません(同項・法人税法施行令71条1項)。
持株割合の要件をすべて満たす同族会社の役員も、使用人兼務役員になれません(同条1項5号)。
中退共は違います。こうした役員も、事実上使用人の職務に従事していれば対象です(国税庁の質疑応答事例)。
法人の場合、役員でない家族従業員は、この号では除かれていません。
注意
要件に反して役員を加入させた掛金は、損金算入の規定(法人税法施行令135条1号)から外れます。給与所得に含めない扱い(所得税法施行令64条1項1号)からも外れます。受け取る一時金は退職手当等とみなされず、一時所得の収入金額になります(同令76条1項2号ハ・4項)。
中退共との違い:併用できますが、加入できる会社や掛金が違います
運営する商工会議所の案内では、中退共との重複加入は認められています。
| 項目 | 特退共 | 中退共 |
|---|---|---|
| 加入できる会社 | 地区内の事業所など(規約による) | 中小企業者だけ(一般業種は従業員300人以下または資本金3億円以下など) |
| 掛金月額(1人) | 3万円以下 | 5,000円以上3万円以下(短時間労働者は2,000円以上) |
| 国の掛金助成 | 中退共の助成の対象外 | 新規加入は加入後4か月目から掛金月額の2分の1(上限5,000円)を1年間など(対象外の事業主あり) |
| 加入できる役員 | 税法上の使用人兼務役員だけ | 使用人兼務役員(実態で判断) |
他の特退共との重複はできません(所得税法施行令73条1項2号)。
補足
会社が保険金の受取人になる養老保険は、保険料を資産に計上します(法人税基本通達9-3-4(1))。特退共とは逆に、払った期の損金にならない代わりに保険金は会社が受け取ります。詳しくは養老保険で従業員の退職金を準備する記事をご覧ください。

失敗例:加入させる人と掛金の決め方に注意します
要件に反して加入させた役員の分や月3万円を超えて払った掛金は、損金算入と退職所得から外れます。
- 社長や、役員である家族を加入させた ― 使用人兼務役員でなければ要件違反です。
- 掛金を月3万円より多くした ― 超えた掛金も同じ扱いです(所得税法施行令76条1項2号ニ)。
- 従業員にも掛金を負担させた ― 事業主だけが負担する要件に反します。その掛金が含まれる一時金は、全額が退職手当等とみなされません(所得税法施行令76条1項2号イ)。
- 基準なしに掛金の額に差を付けた ― 不当な差別は要件に反します(所得税法施行令73条1項10号)。掛金の口数(単位の数)は、勤務年数などの客観的な基準で決めます(京都商工会議所の案内)。
- 一部の従業員だけを加入させた ― 商工会議所の資料では、全従業員の加入が原則です。
- 資金繰りのために解約した ― 掛金は会社に戻らず、解約手当金は従業員に支払われます。
- 決算月の掛金を未払計上した ― 現実に納付するまで損金になりません(法人税基本通達9-3-1)。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
加入の前に、ご自身で整えられるのは次の4点です。
- 従業員名簿で、加入させる人と、期間雇用など加入させなくてよい人を分ける
- 役員ごとに、職制上の地位・常時の勤務の有無・持株割合を一覧にする
- 地元の商工会議所などの規約で、口数・加入年齢・地区の条件を確かめる
- 掛金の引落日と決算日を並べ、決算までに納める月数を確かめる
使用人兼務役員に当たるかと口数の決め方は、事実に応じた個別判断です。
退職金規程との関係や中退共との組み合わせも、会社ごとに答えが変わります。

税理士が入ると変わるのは、加入できる人の判定と数字の裏づけです
小松公認会計士・税理士事務所では、加入前から次の作業を行います。
ひとつめは、役員とご家族の判定です。法人税法34条6項と同法施行令71条に当てはめます。
ふたつめは、特退共と中退共の比較です。掛金月額・助成・加入できる人を一覧にします。
みっつめは、掛金の年額と納付時期の確認です。当期の損金の額を試算します。
よっつめは、退職時の試算です。会社の退職金と一時金を合算した退職所得を出します。
いつつめは、決算書と申告書への反映です。未払計上や計上漏れを防ぎます。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
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初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 特定退職金共済の掛金は、全額が損金になりますか?
掛金は、払った事業年度の損金です(法人税法施行令135条1号)。決算日までに現実に納付していない分は、未払金として損金にできません(法人税基本通達9-3-1)。要件に反して加入させた役員の分や、月3万円を超えて払った掛金も除かれます。
Q2. 社長の妻が取締役です。特退共に加入させられますか?
取締役は原則として加入できません(所得税法施行令73条1項3号)。例外は法人税法34条6項の使用人兼務役員だけです。持株割合の要件をすべて満たす同族会社の役員は、使用人兼務役員になれません。役員でない家族従業員は、この号では除かれていません。
Q3. 特退共と中退共は、両方に加入できますか?
商工会議所の案内では、中退共との重複加入は認められています。他の特退共との重複はできません(所得税法施行令73条1項2号)。中退共は中小企業者だけが加入でき、新規加入の掛金助成(対象外の事業主あり)があります。掛金月額の下限も違います。
Q4. 特退共を解約すると、掛金は会社に戻りますか?
戻りません。払い込まれた掛金を加入事業主に返還しないことが、承認の要件です(所得税法施行令73条1項4号)。解約手当金は従業員に支払われ、運営団体の案内では一時所得とされています。解約に被共済者全員の同意を求める団体もあります。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法30条・31条・35条3項・203条、所得税法施行令64条1項・69条1項・72条3項1号・73条1項・76条1項・4項・82条の2第2項、法人税法34条6項、法人税法施行令71条1項・135条1号、法人税基本通達9-3-1・9-3-4、国税庁タックスアンサーNo.2725「退職所得となるもの」、国税庁の質疑応答事例「退職金共済掛金等の損金算入」、中小企業退職金共済法2条・3条・4条・23条、中退共のQ&A、京都商工会議所・福山商工会議所の特定退職金共済制度の資料の内容を扱っています。団体ごとの口数・加入年齢・給付額、過去勤務期間の通算、中退共と特退共の通算と資産移換、要件に反した掛金のその後の法人税・所得税の処理と、その掛金に対応する年金の扱い、一時所得の金額の計算、公的年金等控除の額と令和9年1月1日施行の所得税法35条5項による調整、退職所得の税額と住民税、前年以前に退職金を受け取っている場合の控除額の調整、遺族一時金の相続税、個人事業主の必要経費、退職金規程の労務上の論点、確定給付企業年金と確定拠出年金は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安です。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」(64条・69条・72条・73条・76条・82条の2)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(71条・135条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第3節「保険料等」(9-3-1・9-3-4)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
- 中小企業退職金共済事業本部(中退共)「Q&A(よくあるご質問)」https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/faq/index.html
- 京都商工会議所「特定退職金共済制度(新企業年金保険)」契約内容重要事項記載資料https://www.kyo.or.jp/kyoto/mutualaid/pdf/mut_002.pdf
特退共に加入する前に、加入できる人と掛金の決め方を確かめませんか
特定退職金共済の掛金は、現実に納付した事業年度の損金になり、従業員の給与所得にもなりません。ただし、払い込んだ掛金は会社に返還されません。使用人兼務役員でない役員を加入させたり、月3万円を超えて掛けたりすると、要件違反です。その掛金は損金算入の規定から外れ、一時金は一時所得になります。代表税理士が、役員とご家族の加入可否の判定と、中退共との比較を行います。掛金の年額と納付時期の確認、退職時の試算、決算書と申告書への反映まで通して対応します。加入を申し込む前の段階でご相談ください。
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