この記事のポイント
- 支払の時までに受給申告書がないと、所得税等は支払額の20.42%で天引きします
- 住民税は支払を受けるべき日の属する年の1月1日の住所地へ、原則翌月10日までに納めます
- 令和8年1月1日以後に支払うべき退職金は、源泉徴収票を全員分税務署へ出します
- その特別徴収票は市区町村への提出を当分の間省略でき、受給申告書は求めがあるまで会社が保存します
まず結論:退職金の税金は、会社が受給申告書をもとに天引きして納めます
社員や役員に退職金を払う会社は、原則として所得税と住民税を天引きして納めます。
この天引きを、所得税では源泉徴収、住民税では特別徴収と呼びます。
所得税の天引きの額は、「退職所得の受給に関する申告書」の有無で大きく変わります。
支払日までに申告書を受け取り、原則として翌月10日までに納めるのが基本です。

最初の仕事は、支払日までに受給申告書を受け取ることです
退職する人は、支払を受ける時までに会社経由で申告書を出します(所得税法203条1項)。
国税庁の様式は住民税の申告書を兼ね、令和8年1月1日以後用があります(手続案内 A2-29)。
申告書が支払の時までにないと、所得税は支払額の20%です(所得税法201条3項)。
復興特別所得税を合わせた「所得税等」では、20.42%です(タックスアンサー No.2732)。
令和9年分以後は防衛特別所得税が加わりますが、合計の税率は変わりません(No.1420)。
計算例
例:勤続19年8か月の社員に、退職金1,500万円を払う場合
勤続年数 1年未満の端数を切り上げて20年 退職所得控除額 40万円 × 20年 = 800万円 課税退職所得金額 (1,500万円 - 800万円)× 1/2 = 350万円 申告書あり (350万円 × 20% - 427,500円)× 102.1% = 278,222円 申告書なし 1,500万円 × 20.42% = 3,063,000円差は2,784,778円です。ほかに退職金がない場合の、一定の前提を置いた目安です。
差額は、本人が退職金の確定申告で精算します。
役員等の勤続年数が5年以下の役員退職金は、2分の1をしません(所得税法201条1項1号ハ)。
これを特定役員退職手当等といいます。
会社の要点は、支払日より前に申告書を回収することです。

住民税は、その年1月1日に住んでいた市区町村へ納めます
納め先は、支払を受けるべき日の属する年の1月1日の住所の市区町村です(地方税法328条)。
総務省は、支払を受けるべき日を「通常は、退職した日」と説明しています。
住民税は、ほかの所得と分けて計算し、会社が天引きします(同法328条・328条の4)。
税率は市町村民税6%と道府県民税4%の合計10%です(同法328条の3・50条の4)。
先ほどの例なら、所得税と同じ350万円に掛けて合計350,000円です(同法328条の2)。
住民税は、申告書がなくても通常の計算で天引きします(同法328条の6第2項)。
納めるときは、税額などを書いた納入申告書も出します(同法328条の5第2項)。
納付期限は原則翌月10日。納期の特例は所得税と住民税で別です
期限の基本は、所得税も住民税も、天引きした月の翌月10日です。
給与を受ける人が常時10人未満の事務所には、半年分をまとめて納める特例があります。
| 項目 | 所得税等 | 住民税 |
|---|---|---|
| 原則の期限 | 翌月10日(所得税法199条) | 翌月10日(地方税法328条の5第2項) |
| 納期の特例 | 1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日(所得税法216条) | 6〜11月分は12月10日、12〜翌年5月分は6月10日(地方税法321条の5の2) |
| 特例の承認 | 事務所の所在地の税務署長 | 納入先の市区町村長 |
住民税の特例は、退職金の分にも使えます(地方税法328条の5第3項)。
所得税の特例の承認だけでは、住民税の期限は延びません。
特例の要件は、源泉所得税の納期の特例の記事にまとめています。

令和8年1月1日以後に支払うべき分は、源泉徴収票を全員分、税務署へ出します
税務署へ出す範囲は、役員だけから全員に広がりました。
退職所得の源泉徴収票等は、退職手当等を支払ったすべての方について作成し、提出する必要があります。
(タックスアンサー No.7421)
それ以前に支払うべき分は、役員(相談役・顧問などを含む)の分だけでした(同)。
源泉徴収票は、退職の日以後1か月以内に税務署へ出し、本人にも渡します(所得税法226条2項)。
税務署分にはマイナンバーを書き、本人に渡す分には書きません(No.7421)。
同じく令和8年1月1日以後に支払うべき分の特別徴収票は、当分の間、市区町村への提出を省略できます。
当分の間、第五号の十四様式による特別徴収票については、第二条の五の三第一項の規定にかかわらず、市町村長に提出することを要しない。
(地方税法施行規則附則2条の5の2)
eLTAX(地方税の電子手続)による簡便な提出方法が整うまでの措置です(総務省)。
注意
令和7年12月31日以前に支払うべき役員の退職金は、従来どおり特別徴収票を市区町村へ出します。
受給申告書は、税務署に出さずに会社で保存します
受け取った申告書は、税務署から求められるまで会社が保存します(所得税法施行規則77条6項)。
期限は、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年です(同項)。
確定拠出年金の一時金に当たる場合は、令和8年1月1日以後の支払分から10年です。
住民税の退職所得申告書も同じ期間です(地方税法施行規則2条の4第2項)。

失敗パターン:会社側で起こりうる5つのミスです
どれも、税額か納め先か期限を誤らせるミスです。
- 申告書を支払の後に受け取る ― 20.42%で天引きし、本人の確定申告で精算します。
- 勤続年数を数え誤る ― 1年未満の端数は1年に切り上げます(所得税法施行令69条2項)。前に払った退職金の計算のもとになった期間は、原則として除きます(同条1項1号ハ)。
- 申告書の誤りを放置する ― 会社が直ちに不足額を徴収し、納めます(所得税基本通達203-3)。支払済みの退職金の記載漏れも、確定申告では精算できません(国税庁 質疑応答事例)。
- 住民税を今の住所の市区町村に納める ― 納め先は、その年1月1日の住所地です(地方税法328条)。
- 納付が期限に遅れる ― 所得税には不納付加算税(原則10%)がかかります(国税通則法67条1項)。告知前の自主納付は5%で、1か月以内なら一定の要件で課されません(同条2項・3項)。住民税には延滞金がかかります(地方税法326条1項)。
計算例
例:先ほどの社員を、勤続19年と数えた場合
退職所得控除額 40万円 × 19年 = 760万円 課税退職所得金額 (1,500万円 - 760万円)× 1/2 = 370万円 所得税等 (370万円 × 20% - 427,500円)× 102.1% = 319,062円 所得税等の取りすぎ 319,062円 - 278,222円 = 40,840円 住民税の取りすぎ 370,000円 - 350,000円 = 20,000円金額は一定の前提を置いた目安です。
逆に長く数えて天引きが足りないと、不足分は会社から徴収されます(所得税法221条1項)。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご自身で進められるのは、次の4点です。
- 令和8年1月1日以後用の申告書を渡し、支払日より前に回収する
- 入社日・退職日・休職期間と、前に払った退職金を記録で確かめる
- 所得税と住民税の期限と、住民税の納め先を書き出す
- 源泉徴収票を作り、本人に渡す分と税務署に出す分を分ける
勤続年数の数え方と退職金の区分は、事実で結論が分かれる個別判断です。
使用人から役員になった人や、同じ年に2か所から受け取る人が例です。
前年以前の退職金などによる控除額の調整は、令和8年分以後見直されています(所得税法施行令70条)。
亡くなった方の退職金で相続税の対象になるものは、源泉徴収をしません(No.2732)。源泉徴収票ではなく、別の支払調書の対象です(No.7421)。
税理士が入ると変わるのは、計算の根拠と期限の管理です
小松公認会計士・税理士事務所では、退職金を払う前から次の作業を行います。
ひとつめは、勤続年数と区分の確認です。役員の就任日は登記簿と議事録で確かめます。
ふたつめは、税額の計算書の作成と、受給申告書との突き合わせです。
みっつめは、納付書と納入申告書の準備と、期限の管理です。
よっつめは、源泉徴収票の作成と提出です。
いつつめは、役員退職金の法人税の申告への反映です。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
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よくある質問(FAQ)
Q1. 退職する社員が「退職所得の受給に関する申告書」を出さないと、どうなりますか?
支払の時までに出ていなければ、所得税等は支払額の20.42%で天引きします。根拠は所得税法201条3項とタックスアンサー No.2732です。差額は本人が確定申告で精算します。住民税は、申告書がなくても通常の計算で天引きします(地方税法328条の6第2項)。
Q2. 役員ではない従業員の退職所得の源泉徴収票も、税務署に出すのですか?
令和8年1月1日以後に支払うべき退職金は、役員に限らず全員分を出します(国税庁 No.7421)。期限は退職の日以後1か月以内で、年内の退職者分を翌年1月31日までにまとめても差し支えありません。それ以前に支払うべき分は、役員分に限られていました。
Q3. 退職金の住民税は、どこの市区町村に、いつまでに納めますか?
支払を受けるべき日の属する年の1月1日に住んでいた市区町村です(地方税法328条)。期限は原則として天引きした月の翌月10日で、納入申告書もあわせて出します(同法328条の5第2項)。給与を受ける人が常時10人未満の事務所は、市区町村長の承認を受けて納期の特例も使えます。
Q4. 受け取った受給申告書は、税務署に出しますか?
税務署から求められない限り、会社が保存します(所得税法施行規則77条6項・国税庁 A2-29)。保存の期限は、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年です。確定拠出年金の一時金に当たる場合は、令和8年1月1日以後の支払分から10年です。住民税の退職所得申告書も同じです。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法30条・89条1項・199条・201条・203条・216条・221条1項・226条2項、所得税法施行令69条・70条、所得税法施行規則77条・94条、所得税基本通達203-3・194〜198共-1、国税通則法67条、地方税法50条の4・321条の5の2・326条1項・328条・328条の2〜328条の7・328条の14、地方税法施行規則2条の4・2条の5の3・附則2条の5の2、タックスアンサーNo.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」・No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」・No.7421「「退職所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等」、国税庁の手続案内A2-29「退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」、国税庁の質疑応答事例「退職所得の受給に関する申告書に支払済の退職手当を記載しないで提出した場合の是正方法」、総務省の「平成25年1月1日以降の退職所得に対する住民税の特別徴収について」・「地方税法施行規則の一部を改正する省令の概要」(令和7年12月)・令和8年1月21日付事務連絡の内容を扱っています。短期退職手当等・特定役員退職手当等の計算の細目、同じ年に2か所以上から受け取る場合や前年以前に退職手当等・確定拠出年金の一時金を受け取った場合の退職所得控除額の調整の計算、障害者になったことによる退職の加算、退職金の分割払・概算払、死亡退職金の相続税と支払調書、非居住者に支払う退職手当等、役員退職給与の損金算入と過大役員退職給与、退職金を損金に算入する時期、延滞税・延滞金の割合と計算、住民税の過少申告加算金・不申告加算金・重加算金、不納付加算税が課されない場合の要件の細目、申告書の記載誤りによる徴収不足について支払者に過失がない場合の取扱い(所得税基本通達194〜198共-2)、納期の特例の申請と取消しの手続、法定調書の書面様式とe-Taxによる提出義務、源泉徴収票の電子交付の要件、退職所得の確定申告の手続、社会保険の手続は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、勤続年数や退職金の区分によって税額は変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.7421「「退職所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7421.htm
- e-Gov法令検索「所得税法」(199条・201条・203条・216条・226条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「地方税法」(321条の5の2・328条〜328条の14)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
- e-Gov法令検索「地方税法施行規則」(2条の4・2条の5の3・附則2条の5の2)https://laws.e-gov.go.jp/law/329M50000002023
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