この記事のポイント
- 贈与でもらった不動産の取得費と取得時期は、親のものを引き継ぎます(所得税法60条1項)
- 贈与時の価額は取得費になりません。贈与税がゼロでも扱いは同じです
- 贈与税は、取得費に含まれる税金として国税庁が挙げるものに入っていません
- 取得費加算は親の存命中は使えず、死亡後の売却なら余地があります
まず結論:取得費と取得時期は、親のものをそのまま引き継ぎます
相続時精算課税で親から土地や建物をもらい、その後に売る。
このとき取得費と取得時期は、親が買ったときのものを引き継ぎます。
所得税法60条1項が、そう定めています。
居住者が次に掲げる事由により取得した前条第一項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
(所得税法60条1項。1号に贈与・相続・遺贈が掲げられています)
取得費とは、買ったときの代金や手数料など、売却益の計算で差し引く金額です。
もらった本人は買っていなくても、「親が買ったときから持っていた」ものとして計算します。
ここで大切なのは、贈与のときに評価した価額は取得費にならない点です。
贈与時の価額3,000万円で贈与税を計算していても、取得費は親の購入代金です。
贈与税がゼロでも、この扱いは変わりません。

相続時精算課税は、贈与税を相続税で精算する制度です
相続時精算課税とは、親からの贈与を、親が亡くなったときの相続税でまとめて精算する制度です。
原則として60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫への贈与で選べます(No.4103)。
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、相続時精算課税選択届出書を提出します。
一度選ぶと、暦年課税に戻ることはできません(相続税法21条の9第6項)。
贈与税は、次の順に計算します(令和6年1月1日以後の贈与)。
- その年に受けた贈与財産の価額から、基礎控除110万円を引く
- 特別控除(限度額2,500万円)を引く
- 残った金額に、一律20%の税率をかける
補足
基礎控除は、相続税法21条の11の2では60万円と定められています。租税特別措置法70条の3の2により、令和6年1月1日以後の贈与は110万円を控除します。特別控除2,500万円は、期限内申告書に記載がある場合に限り使えます(相続税法21条の12第2項)。
計算例
例:父が贈与時の価額3,000万円の土地を、令和6年に子へ贈与した場合
課税価格 = 3,000万円 - 110万円 - 2,500万円 = 390万円贈与税 = 390万円 × 20% = 78万円父の相続税の課税価格に加算される額 = 3,000万円 - 110万円 = 2,890万円同じ年の贈与がこの土地だけで、特別控除が未使用という前提の目安です。
父が亡くなると、2,890万円を相続財産に加えて相続税を計算します。
納めた贈与税78万円は、相続税額から差し引かれます(相続税法21条の15第3項)。
売却益は、親の購入代金を差し引いて計算します
売ったときの譲渡所得は、親の購入代金を取得費として計算します。
取得時期も引き継ぐため、売った年の1月1日で所有期間5年超なら長期譲渡所得です(No.3270)。
計算例
例:父が20年前に2,000万円で買った土地を、子が令和8年に3,500万円で売った場合
取得費 = 父の購入代金 2,000万円(所得税法60条1項)譲渡所得 = 3,500万円 - 2,000万円 - 譲渡費用100万円 = 1,400万円所得税 = 1,400万円 × 15% = 2,100,000円復興特別所得税 = 2,100,000円 × 2.1% = 44,100円住民税 = 1,400万円 × 5% = 700,000円合計 = 2,844,100円(1,400万円 × 20.315%)この税額は、譲渡費用などを仮に置いた目安です。
では、納めた贈与税78万円は差し引けるのでしょうか。
贈与税は、取得費に含まれる税金として国税庁が挙げるものに入っていません。
タックスアンサーNo.3252が挙げるのは、登録免許税・不動産取得税・特別土地保有税・印紙税です。
業務に使っていなければ、贈与時の登記費用や不動産取得税は取得費に含められます(No.3270)。
詳しくは贈与・相続時の登記費用等を取得費に入れる記事をご覧ください。

申告で指摘を受けやすい4つの間違い
この売却の申告では、取得費のところで間違いが起きやすいです。
注意
①贈与時の価額を取得費にする。贈与税申告書の3,000万円をそのまま使う誤りです。②贈与税を取得費に入れる。国税庁の列挙にない税金を足すと、指摘を受けやすくなります。③贈与の日を取得日にする。所有期間を短く数えると、長期と短期の判定を誤ります。④親の購入資料を処分する。購入代金が分からないと、概算取得費に頼ることになります。
取得費が分からない場合は、売った金額の5%を取得費とすることができます(No.3270)。
さきほどの例では取得費が175万円になり、譲渡所得は3,225万円に増えます。
税額は6,551,587円となり、購入代金が分かる場合との差は3,707,487円です。
親が持っている売買契約書や領収書は、贈与のときに必ず受け取って保管してください。
親の存命中と死亡後で、取得費加算の扱いが変わります
取得費加算とは、納めた相続税の一部を取得費に上乗せできる特例です(措法39条)。
措法39条1項は、相続税法21条の14から21条の18までの規定にも触れています。
相続時精算課税で相続税の課税価格に算入された財産も、対象に含まれる書き方です。
親の存命中に売る場合は、相続税額がまだ無いため、取得費加算は使えません。
特例の要件は「その財産を取得した人に相続税が課税されていること」です(No.3267)。
親の死亡後は、贈与財産の価額から基礎控除を引いた残額が相続税の課税価格に加わります。
申告期限の翌日以後3年以内に売れば、対応する相続税額を取得費に加えられる余地があります。
要件と計算は相続した不動産を3年10か月以内に売るときの取得費加算の記事で解説しています。
| 項目 | 親の存命中に売る | 親の死亡後に売る |
|---|---|---|
| 取得費・取得時期 | 親のものを引き継ぐ | 親のものを引き継ぐ |
| 相続税額 | まだ無い | 贈与財産を加算して計算する |
| 取得費加算(措法39条) | 使えない | 申告期限の翌日以後3年以内なら余地あり |
同じ年に複数の財産をもらった場合、基礎控除は財産ごとではなく合計額から引きます。
質疑応答事例に、同じ年にA土地600万円とB土地500万円をもらった例があります。
A土地の課税価格への算入額は、600万円-110万円×600÷1,100=540万円です。
取得費加算の計算に使う相続税額は、贈与税額を差し引く前の額です(措法39条6項)。
ポイント
取得費加算の要件は「相続税が課税されていること」です。親の存命中の売却では相続税額が無いため使えません。親の死亡後、申告期限の翌日以後3年以内の売却なら、対応する相続税額を加算できる余地があります。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
資料を集めるところまでは、ご自身で進められます。
- 親が買ったときの売買契約書・領収書・仲介手数料の明細を探す
- 贈与税の申告書と相続時精算課税選択届出書の控えをそろえる
- 贈与のときに払った登記費用・不動産取得税の領収書を集める
- 売却の契約書・仲介手数料など、譲渡費用の明細をまとめる
親の購入資料が一部しか無い場合、何を取得費として説明できるかは資料次第です。
親の死亡後の売却では、相続税の申告内容と売却時期が税額に影響します。
贈与に住宅ローンなどの債務が付いていた場合は、負担付贈与として別の論点が生じます。
この段階は、贈与時と相続時の書類を突き合わせながら判断する個別の作業です。

税理士が入ると、申告のどこが変わるのか
税理士が関与すると、取得費の根拠づけと相続税との連動が申告書に反映されます。
- 親の購入資料から取得費を組み立て、根拠資料の一覧を作る
- 親の取得日から所有期間を数え、長期・短期を判定する
- 贈与時の登記費用・不動産取得税を取得費に入れられるか確認する
- 親の死亡後なら、相続税申告書から取得費加算の額を計算する
- 譲渡所得の内訳書を作成し、確定申告書に反映する
小松公認会計士・税理士事務所では、贈与時の申告書と親の購入資料を確認して申告まで対応します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
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よくある質問(FAQ)
Q1. 相続時精算課税でもらった土地を売ります。取得費は贈与時の価額ですか?
違います。所得税法60条1項により、親が買ったときの購入代金や手数料を取得費として引き継ぎます。贈与税の申告に使った贈与時の価額は取得費になりません。取得時期も親が買った日を引き継ぎます。
Q2. 贈与のときに納めた贈与税は、取得費に入れられますか?
贈与税は、タックスアンサーNo.3252が取得費に含まれる税金として挙げるものに入っていません。列挙されているのは登録免許税・不動産取得税・特別土地保有税・印紙税です。贈与時の登記費用や不動産取得税は取得費に含められます(No.3270)。
Q3. 親が元気なうちに売ります。取得費加算の特例は使えますか?
使えません。取得費加算(措法39条)の要件は相続税が課税されていることです(No.3267)。親の存命中は相続税額が無いため対象外です。親の死亡後、相続税の申告期限の翌日以後3年以内の売却なら、適用の余地があります。
Q4. 親が買ったときの契約書が見つかりません。どうなりますか?
取得費が分からない場合は、売った金額の5%を取得費とすることができます(No.3270)。ただし贈与時の登記費用などは含められません。記事の例では、購入代金が分かる場合との税額差が約370万円になりました。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法60条1項、相続税法21条の9・21条の11の2・21条の12・21条の13・21条の15・21条の16、租税特別措置法39条1項・6項・70条の3の2、国税庁タックスアンサーNo.3252・No.3267・No.3270・No.4103、国税庁質疑応答事例「同一年中に取得した相続時精算課税適用財産が複数ある場合における譲渡所得の取得費加算」を扱っています。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は個別の事情により異なります。相続時精算課税と暦年課税の有利不利の比較、暦年課税の贈与財産の相続税への加算、小規模宅地等の特例が相続時精算課税適用財産に使えるかどうか、贈与時の価額の評価方法、相続税の税率や計算方法、取得費加算の具体的な計算式、贈与者が年の中途に死亡した場合の届出の特則、負担付贈与や親族間売買の扱い、譲渡所得が合計所得金額に与える影響については扱っていません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索 所得税法(60条1項)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索 相続税法(21条の9、21条の11の2、21条の12、21条の13、21条の15、21条の16)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- e-Gov法令検索 租税特別措置法(39条、70条の3の2)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 国税庁 タックスアンサー No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 国税庁 質疑応答事例「同一年中に取得した相続時精算課税適用財産が複数ある場合における譲渡所得の取得費加算(令和6年1月1日以後の贈与により取得した場合の取扱い)」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/20/07.htm
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