この記事のポイント
- 引き継いだ敷金は預り金で、返さないと確定するまで原則として収入になりません
- 契約で買主の分とした日割りの家賃は、不動産所得の収入と考えられます
- 固定資産税の精算金は取得価額に入り、全額を買った年の経費にはできません
- 精算のない敷金は、競売で買った会社の事案で取得価額に足せないとした判決があります
まず結論:買った年は、精算書を「収入・預り金・取得価額」に分けます
入居者がいるまま物件を売買することをオーナーチェンジといいます。
決済の精算書(お金の受け払いの明細)に載る敷金・家賃・固定資産税は、申告での置き場所が違います。
| 精算するもの | 買った年の申告での扱い |
|---|---|
| 引き継いだ敷金 | 預り金。原則として収入にしない |
| 買主の分の日割りの家賃 | 不動産所得(家賃などのもうけ)の収入と考えられる |
| 固定資産税の精算金 | 取得価額(物件を手に入れた金額)に入れる |
決済で払った額をそのまま取得価額にすると、申告の数字がずれます。

貸主の立場と敷金を返す義務は、原則として買主に移ります
入居者が引渡しを受けた建物なら、貸主の立場は原則として買主に移ります。
一時使用の賃貸借は除きます(民法605条の2第1項、借地借家法31条・40条)。
敷金を返す義務も、買主が引き継ぎます(民法605条の2第4項)。
敷金が残っている限り、売主との引継ぎがなくても同じです(国税庁の質疑応答事例が紹介する判例・通説)。
敷金を受け取っていなくても、退去時に返すのは原則として買主です。
引き継いだ敷金は、原則として買った年の収入になりません
精算で受け取った敷金は、入居者に返す預り金と考えられます。
敷金や保証金は本来は預り金ですから、受け取っても収入にはなりませんが、返還を要しないものは、返還を要しないことが確定した日にその金額を収入に計上する必要があります。
(国税庁 タックスアンサーNo.1376)
貸付けの終了で返さないと確定した額は、終了した日の収入です(所得税基本通達36-7)。
受け取った敷金を返すお金は、預り金の返還なので経費にならないと考えられます。

敷金の精算のしかたで、取得価額の考え方が変わります
精算の有無で、取得価額の考え方が分かれます。
基本は、購入の代価に費用などを足した額です(所得税法施行令126条)。
| 敷金の精算のしかた | 申告での考え方 |
|---|---|
| 精算がある(代金から差し引く・別に受け取る) | 契約書の売買代金で確かめる。敷金は預り金 |
| お金の精算がない | 敷金の額を取得価額に足さない(下の判決) |
1行目は、敷金を受け取ったのと同じお金の動きになるという考え方です。
買主の側を直接定めた通達などは、確認した範囲で見当たりません。
2行目は、競売で建物を買った会社の判決によります。
東京高裁の令和4年12月22日判決(確定)は、敷金の額を取得価額に足すことを認めませんでした。
返す額は退去時の未払いなどで変わり、年度末までに確定していないという理由です。
注意
法人税の競売の事案で、個人の売買を直接判断したものではありません。ただ、所得税法施行令も同じ「購入の代価」の文言です。敷金の額を足して償却すると、指摘を受けるおそれがあります。
売主の側には敷金を売却の収入に加えた裁決があり、買主と同じとは限りません(売るときの記事)。
日割りの家賃は、契約で買主の分なら収入と考えられます
契約で引渡日以後を買主の分とすれば、不動産所得の収入と考えられます。
家賃は民法上、権利の期間に応じて日割りで取得します(88条2項・89条2項)。
買主が日割りの家賃を収入に入れず、更正処分(税務署が税額を直す処分)を受けた事案があります。
契約書は、引渡日以降の収益を買主の分としていました。
東京地裁の平成24年12月13日判決(確定)は、清算しない別の合意を認めて収入から外しました。
個別の事実による判決で、同じ結論になるとは限りません。
家賃を入れる年は、契約などで定めた支払日の年が原則です(No.1376)。
毎月末に翌月分を受け取る契約なら、支払日が12月末の1月分は、原則として買った年の収入です。
一定の要件で、貸付期間に応じて計上する方法もあります(昭和48年の個別通達)。
固定資産税の精算金は、買った年の経費にできません
質疑応答事例は、精算金は取得価額に入り、全額をその年の経費にできないとしています。
固定資産税等は1月1日の所有者に課され、精算金は売主との合意による購入代価の一部だからです。
建物の分は減価償却(何年もかけて経費にすること)で経費になります。土地は減価償却資産ではありません(No.2100)。
翌年1月1日に持っていれば翌年度分から買主に課され、業務用なら必要経費です(所得税基本通達37-5)。
購入の年の諸費用は不動産投資を始めた年の記事にまとめています。

計算例:精算書を申告の数字に振り分けます
計算例
例:令和8年9月11日に引渡しを受けたアパート
代金3,000万円から敷金40万円を差し引きます。家賃は月21万円で、毎月末に翌月分を受け取る契約です。9月分は売主が受取り済みです。固定資産税等は年146,000円、1月1日起算です。引渡日以後は家賃も税も買主の分です。
家賃の日割り 210,000円 × 20日 ÷ 30日 = 140,000円 固定資産税等の精算金 146,000円 × 112日 ÷ 365日 = 44,800円 買主が払う額 30,000,000円 - 400,000円 - 140,000円 + 44,800円 = 29,504,800円 取得価額の基礎(土地と建物) 30,000,000円 + 44,800円 = 30,044,800円 預り金(収入にしない) 400,000円 令和8年分の家賃の収入 140,000円 + 210,000円 × 4回(支払日が9月末〜12月末)= 980,000円金額は一定の前提を置いた目安です。仲介手数料などの費用と償却費は含めていません。
間違えると、税金の不足や払いすぎが何年も残ります
上の例で、次の処理をすると申告がずれます。
- 敷金40万円を収入に入れる ― 所得が40万円多くなり、税金の払いすぎにつながります。
- 払った29,504,800円を取得価額にする ― 取得価額が54万円不足し、家賃14万円も漏れると考えられます。
- 支払日が12月末の1月分を翌年に回す ― 原則どおりなら、収入が21万円不足します。
- 精算金44,800円を全額経費にする ― 質疑応答事例と違い、経費が多すぎます。
取得価額の誤りは、毎年の償却費と、売るときの取得費に残ります。
税金が不足したときは修正申告をして、延滞税も納めます(No.2026)。
調査の事前通知の前に自主的に直せば、過少申告加算税(不足額に課される税)はかかりません。
払いすぎたときの更正の請求(戻す手続き)は、原則として法定申告期限から5年以内です。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
精算の中身を書き出すまでは、ご自身で進められます。
- 売買契約書で、敷金・家賃・固定資産税の精算の定めを確かめる
- 精算書を、受け取った額と払った額に分けて書き出す
- 賃貸借契約書と敷金の一覧で、支払日と返さない敷金の定めを確かめる
次の点は、契約の文言や事実で結論が変わります。
- 代金に敷金が含まれるのか、契約書から読み取れないとき
- 精算を受けていない敷金を、入居者に返したとき
- 最初から返さない敷金が、精算額に含まれているとき
- 区分マンションの管理費・修繕積立金の日割りの精算
税理士に頼むと変わるのは、精算書の振り分けです
小松公認会計士・税理士事務所では、買った年の申告で次の作業を行います。
- 売買契約書と精算書から、収入・預り金・取得価額を振り分ける
- 購入代金を土地と建物に分け、減価償却費を計算する
- 家賃と経費を集計し、買った年の家賃の範囲を確かめる
- 確定申告書・決算書を作成し、電子申告する
全国どこからでも、オンラインで完結します。
料金の目安
基本料金32,000円(税込35,200円)に、当てはまる所得・控除ごとの単価を足した額が料金です。個人の確定申告は最低料金65,000円(税別・税込71,500円)からお引き受けしています。
通常料金での計算例です。会社員で、家賃収入300万円までの物件が1つの場合です。給与所得とその他控除セット(社会保険料など)は各6,000円、不動産所得は35,000円です。合計は32,000円+6,000円×2+35,000円=79,000円(税込86,900円)です。消費税の申告と記帳代行がない場合の、一定の前提を置いた目安です。
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この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. オーナーチェンジで引き継いだ敷金は、買った年の収入になりますか?
敷金は本来は預り金で、受け取っても収入になりません(No.1376)。引き継いだ敷金も同じと考えられます。ただし、返さないと確定した金額は、確定した日の収入です。貸付けの終了で確定した分は、終了した日の収入です(所得税基本通達36-7)。
Q2. 敷金を売買代金から差し引かれました。取得価額は差し引いた後の金額ですか?
敷金を受け取るのと同じお金の動きなので、差し引く前の売買代金で確かめるのが基本と考えられます。差し引いた敷金は預り金です。買主の扱いを直接定めた通達は確認できないため、契約書の定めを見て判断します。
Q3. 売主から敷金の精算を受けていません。その額を取得価額に足せますか?
東京高裁の令和4年12月22日判決は、敷金の額を取得価額に足すことを認めませんでした。返す額が確定していないという理由です。競売で買った会社の事案で、個人の売買を直接判断したものではありません。返したときの扱いも含めて個別に判断します。
Q4. 固定資産税の精算金と日割りの家賃は、確定申告でどう扱いますか?
精算金は取得価額に入り、全額を買った年の経費にはできません(国税庁の質疑応答事例)。建物の分は減価償却費で経費になります。日割りの家賃は、契約で買主の分としていれば、不動産所得の収入と考えられます。金額は売買契約書と精算書で確かめます。
免責事項
本記事は令和8年11月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。民法88条2項・89条2項・605条の2第1項・4項、借地借家法31条・40条、所得税法38条、所得税法施行令126条1項1号イ、所得税基本通達36-7・37-5、昭和48年11月6日の個別通達(直所2-78)、タックスアンサーNo.1376「不動産所得の収入計上時期」・No.2026「確定申告を間違えたとき」・No.2100「減価償却のあらまし」、国税庁の質疑応答事例「賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて」・「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」、東京高裁令和4年12月22日判決(第一審:東京地裁令和2年9月1日判決)、東京地裁平成24年12月13日判決、国税不服審判所平成6年7月8日裁決(売主の側の紹介のみ)、弊所の料金表の内容を扱っています。買主の敷金の扱いを直接定めた通達や質疑応答事例は確認できていません。紹介した東京高裁の判決は法人税の競売の事案、東京地裁の判決は個別の事実認定によるものです。売主の側の税金、土地と建物の代金の分け方、精算金の土地と建物への分け方、中古の建物の耐用年数と減価償却費の計算、仲介手数料など購入の年の諸費用、ローンの利子、最初から返さないと決めた敷金(敷引き)の扱い、精算を受けていない敷金を返したときの必要経費の扱い、滞納家賃の引継ぎと敷金への充当、礼金・更新料、貸付期間に応じて家賃を計上する方法の要件、区分マンションの管理費・修繕積立金の精算の扱い、貸主の立場を売主に残す合意と登記の手続、事業的規模の判定、青色申告の承認申請と青色申告特別控除、収支内訳書・青色申告決算書の書き方、赤字の損益通算、帳簿の提示がない場合などの過少申告加算税の加算、延滞税の計算、無申告加算税、売るときの取得費の計算、消費税(建物の仕入税額控除や精算金の扱い)、不動産取得税、相続・贈与で取得した物件、法人で買う場合は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は契約の内容によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「民法」(605条の2)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 国税庁 タックスアンサー No.1376「不動産所得の収入計上時期」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1376.htm
- 国税庁 質疑応答事例「賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/04/29.htm
- 国税庁 税務訴訟資料 第272号(順号13794)東京高等裁判所 令和4年12月22日判決https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2022/pdf/13794.pdf
- 国税庁 税務訴訟資料 第262号-266(順号12116)東京地方裁判所 平成24年12月13日判決https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2012/pdf/12116.pdf
入居者付きで買った年の精算書を、申告の前に確かめませんか
オーナーチェンジで買った年は、決済の精算書に敷金・日割りの家賃・固定資産税の精算金が並ぶことがあります。敷金は原則として預り金、契約で買主の分とした日割りの家賃は収入と考えられ、精算金は取得価額に入ります。精算を受けていない敷金は、個別の判断が要ります。弊所が、売買契約書と精算書からの振り分け、減価償却費の計算、確定申告書の作成と電子申告まで対応します。全国どこからでもオンラインで完結します。精算書が手元にそろった段階でご相談ください。
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