この記事のポイント
- 対抗要件を備えた賃貸借なら、原則として貸主の立場と敷金を返す義務が買主に移ります
- 引き継いだ敷金を譲渡収入金額に加えた裁決があります。直接定めた通達は確認できません
- 家賃は民法上、日割りで分けます。収入にする時期は契約などで定めた支払日が原則です
- 固定資産税の精算金は譲渡所得の収入金額。課税事業者は消費税も確認します
まず結論:入居者付きで売ると、3つの精算の扱いを分けて考えます
入居者がいるまま賃貸物件を売ることを、オーナーチェンジといいます。
買主は原則として、貸主の立場と、預かった敷金を返す義務を引き継ぎます。
決済では、売買代金のほかに敷金・家賃・固定資産税を精算することがあります。
3つの精算は、税金での扱いと根拠がそれぞれ違います。
譲渡所得は売ったもうけ、不動産所得は家賃などのもうけです。
| 精算するもの | 税金での扱い |
|---|---|
| 買主に引き継ぐ敷金 | 裁決は譲渡収入金額に加算(個別判断) |
| 家賃の日割り | 不動産所得で確かめる |
| 固定資産税の精算金 | 譲渡所得の収入金額 |
| 建物分の代金と精算金 | 消費税の課税売上(納税は課税事業者) |

貸主の立場と敷金を返す義務は、原則として買主に移ります
入居者が住んでいる建物を売ると、貸主の立場は原則として買主に移ります。
その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
(民法605条の2第1項)
前提は、借りる権利をほかの人に主張できること(対抗要件)です。
建物なら、一時使用の賃貸借を除き、入居者が引渡しを受けていれば足ります(借地借家法31条・40条)。
敷金を返す義務も、買主が引き継ぎます(民法605条の2第4項)。
国税庁の質疑応答事例は、判例・通説を次のように紹介しています。
敷金が残っている限り、売主と買主の間で引継ぎがなくても、新所有者が当然に引き継ぎます。
買主が貸主だと入居者に主張するには、移転登記が要ります(民法605条の2第3項)。
ポイント
対抗要件を備えた賃貸借なら、売却後に敷金を返すのは原則として買主です。売主と買主の間では、売買代金から差し引くか、別に渡すかなどを契約で決めます。

引き継ぐ敷金は、譲渡収入金額の計算に関わります
売買価格とは別に買主が引き継いだ敷金を加えて、譲渡収入金額とした裁決があります。
譲渡収入金額は、売ったもうけを計算するときの収入の額です。
次の裁決(国税不服審判所の判断)は、店舗兼共同住宅と土地の事案です。
本件物件の譲渡に係る被相続人の譲渡収入金額は、本件物件の売買価格57,000,000円に買主に引き継がれた預り敷金の額1,640,000円を加算した58,640,000円であると認定せざるを得ない。
(国税不服審判所 平成6年7月8日裁決・裁決事例集No.48 54頁)
被相続人は亡くなった売主です。敷金を加えることは納税者側と税務署側の共通の前提で、争われたのは売買価格と敷金の額でした。
預り敷金は4,040,000円でした。うち2,400,000円は、取引前に退去した入居者の分と納税者側が主張しました。
資産を譲り渡すことによって、その他経済的な利益を受けた場合は、その経済的な利益も収入金額に含まれます。
(国税庁 タックスアンサー No.3214)
自分の債務を他人が負担した利益も、経済的利益の例です(所得税基本通達36-15(5))。
ただし、売買での敷金の引継ぎを直接定めた通達や質疑応答事例は、確認した範囲では見当たりません。
返さない敷金と家賃の日割りは、不動産所得で確かめます
敷金のうち返さない部分と家賃は、不動産所得の収入として確かめます。
敷金や保証金は本来は預り金ですから、受け取っても収入にはなりませんが、返還を要しないものは、返還を要しないことが確定した日にその金額を収入に計上する必要があります。
(国税庁 タックスアンサー No.1376)
収入にする日は、所得税基本通達36-7が3つに分けています。
| 敷金のうち返さない部分 | 収入にする日 |
|---|---|
| 貸付期間に関係なく返さない部分 | 貸す物件を引き渡した日など |
| 貸付期間に応じて返さなくなる部分 | 契約で返さないこととなった日 |
| 貸付けの終了で返さないと確定する部分 | 貸付けが終了した日 |
売却より前に収入になった部分は、引き継ぐ敷金と分けて確かめます。
家賃は、民法の法定果実(物を使わせた対価)です(88条2項)。
法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。
(民法89条2項)
引き渡す前の果実は、売主のものです(民法575条1項)。
計算例
例:月額家賃30万円、9月21日に引渡し、引渡日以後を買主の分とする契約
買主の分 300,000円 × 10日(21日〜30日)÷ 30日 = 100,000円 売主の分 300,000円 × 20日(1日〜20日)÷ 30日 = 200,000円日割りの方法と起算日は契約で確かめます。一定の前提を置いた目安です。
家賃を収入にする時期は、契約などで定めた支払日が原則です(タックスアンサーNo.1376)。
要件を満たせば、貸付期間に対応する額でも計上できます(昭和48年の個別通達)。
日割りで買主に渡した家賃の扱いも、確認した範囲では直接の定めが見当たりません。
減価償却費などは賃貸物件を売った年の不動産所得の記事をご覧ください。
固定資産税の精算金は、所得税でも消費税でも代金の一部です
固定資産税の精算金は、譲渡所得の収入金額に入ります。
精算金は、売った日から年末までの固定資産税などに当たる額です。
支払を受けた未経過固定資産税等に相当する額は、譲渡所得の収入金額に算入されます。
(国税庁 質疑応答事例「未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合」)
計算のしかたは固定資産税の精算金の記事をご覧ください。
課税事業者(消費税の納税義務が免除されない事業者)は、消費税も確かめます。
住宅賃貸用や店舗賃貸用の建物を売却した場合も課税の対象となります。
(国税庁 タックスアンサー No.3240)
土地の譲渡は非課税なので、土地と建物の代金は合理的に分けます(消費税法基本通達10-1-5)。
精算金も資産の譲渡の金額に含まれるため、建物分の精算金も課税売上に入ります(同通達10-1-6)。

失敗パターン:精算書の読み違いで起きる4つのずれ
次の4つは、譲渡収入金額や消費税の課税売上がずれるおそれのある処理です。
- 敷金を差し引いた手取り額だけを、譲渡収入金額にした ― 裁決は、引き継いだ敷金を加えています
- 差し引く前の売買代金に、さらに敷金を足した ― 同じ敷金を二重に数えるおそれがあります
- 退去済みの入居者の敷金まで足した ― 裁決が加えたのは、引き継がれた敷金だけです
- 課税事業者が、建物分の精算金を課税売上から外した ― 資産の譲渡の金額に含まれます
注意
特例を使わず譲渡益が出る物件で、引き継いだ敷金200万円の分だけ譲渡収入金額が少なかったとします。長期譲渡所得(売った年の1月1日で所有期間5年超)なら、税額は計406,300円少なくなります。内訳は所得税300,000円・復興特別所得税6,300円・住民税100,000円です。税率は、所得税15%、住民税5%です。復興特別所得税は所得税の2.1%で、令和9年分から1.1%と防衛特別所得税1%に分かれます。一定の前提を置いた目安です。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
書類の確認はご自身でできますが、敷金と家賃の扱いは個別判断です。
- 売買契約書で、売買代金の額と、敷金の精算のしかたを確かめる
- 入居者ごとの敷金の一覧で、買主に引き継ぐ敷金の額を確かめる
- 決済時の精算書で、固定資産税と家賃の精算額と起算日を確かめる
- 賃貸借契約書で、敷金のうち返さない部分の定めを確かめる
ここから先は、敷金を譲渡収入金額に加えるか、日割りの家賃と消費税をどう扱うかを判断します。
取得費など譲渡所得の計算は賃貸用不動産の売却の記事で扱っています。

税理士が入ると変わるのは、精算書の振り分けと根拠の記録です
税理士が入ると、次の4つを契約書と精算書にもとづいて進めます。
- 精算書の1行ずつを、譲渡所得・不動産所得・消費税に振り分ける
- 敷金の精算のしかたから譲渡収入金額を組み立て、根拠の条項を残す
- 売った年の家賃と敷金の収入を、不動産所得の決算書に反映する
- 譲渡所得の内訳書の譲渡価額と第三表の収入金額を、振り分けとそろえる
小松公認会計士・税理士事務所では、精算書の確認から適正申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
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初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 売買代金から敷金を差し引いて受け取りました。譲渡価額は手取りの額ですか?
手取りの額とは限りません。平成6年7月8日裁決は、売買価格に、これとは別に買主が引き継いだ敷金を加えて譲渡収入金額としました。差し引く前の代金に足すと、二重に数えるおそれがあります。確認した範囲では直接の通達が見当たらず、契約書で判断します。
Q2. 入居者への敷金は、売主が返す必要がありますか?
対抗要件を備えた賃貸借なら、原則として敷金を返す義務も買主が引き継ぎます(民法605条の2第4項)。建物は、一時使用を除き、入居者が引渡しを受けていれば対抗要件を備えます(借地借家法31条・40条)。売主と買主の間の精算は、売買契約で決めます。
Q3. 固定資産税の精算金は、不動産所得の収入ですか?
違います。国税庁の質疑応答事例は、未経過固定資産税等に相当する額を譲渡所得の収入金額に算入するとしています。課税事業者なら、消費税でも資産の譲渡の金額に含まれます(消費税法基本通達10-1-6)。
Q4. 引渡日以後の家賃を買主に渡しました。どう扱いますか?
家賃のような法定果実は、民法上、日割計算で取得します(89条2項)。収入にする時期は、契約などで定めた支払日が原則です(タックスアンサーNo.1376)。買主に渡した家賃の扱いは、確認した範囲では直接の定めが見当たらず、個別判断です。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。民法88条2項・89条2項・575条1項・605条の2、借地借家法31条・40条、所得税法26条・36条1項、所得税基本通達36-5・36-6・36-7・36-15、昭和48年11月6日付の個別通達「不動産等の賃貸料にかかる不動産所得の収入金額の計上時期について」、消費税法6条1項・別表第二第一号、消費税法基本通達10-1-5・10-1-6、復興特別所得税と防衛特別所得税の税率を定める各特別措置法、国税庁タックスアンサーNo.1376・No.3208・No.3214・No.3240・No.6501、国税庁質疑応答事例「未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合」「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」、国税不服審判所平成6年7月8日裁決の内容を扱っています。売買で引き継いだ敷金を譲渡収入金額に算入する一般的な基準、引き継いだ敷金と消費税の課税標準の関係、日割りで買主に渡した家賃の具体的な処理、敷金のうち返さない部分の売却時の扱い、未収家賃と敷金の充当、賃貸人の地位を売主に留保する場合、建物の取得費・減価償却・長期と短期の判定と短期の税率、消費税の納税義務の判定(免税事業者が建物を売った年の2年後の判定を含む)と納付税額の計算方法、買主側の取得価額、贈与税・相続税、個人住民税の手続は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は契約の内容・敷金の額・家賃の額・所有期間によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税不服審判所 公表裁決事例(平成6年7月8日裁決・裁決事例集No.48 54頁)https://www.kfs.go.jp/service/JP/48/05/index.html
- 国税庁 質疑応答事例「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/14/08.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3214.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1376 不動産所得の収入計上時期https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1376.htm
- e-Gov法令検索「民法」(88条・89条・575条・605条の2)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
入居者付きで売る前に、敷金と精算金の扱いを確かめませんか
オーナーチェンジでは、敷金の引継ぎや家賃の日割り、固定資産税を精算することがあります。引き継ぐ敷金を譲渡収入金額にどう反映するかは、契約書の定めと精算のしかたで変わります。代表税理士が売買契約書と精算書を読み、各税目への振り分けから申告まで担当します。売買契約を結ぶ前に、契約書の案がそろった段階でご相談ください。
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