この記事のポイント
- 税金がかかるのは売れた金額ではなく「儲け(譲渡所得)」です。高く売れても税金ゼロも珍しくありません
- マンションは建物の値下がり分(減価償却費相当額)を買った値段から差し引いて計算します
- 税率は所有期間で決まります。長期20.315%/短期39.63%。判定は「売った年の1月1日」時点です
- この記事の例では長期4,402,260円、短期8,587,821円。418万円以上の差が出ました
まず結論:税金がかかるのは「売れた金額」ではなく「儲け」です
4,000万円で買ったマンションが5,800万円で売れても、税金の対象は売却額ではなく「儲け(譲渡所得)」の部分だけです。次の式で計算します。
譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
売れた金額から取得費と譲渡費用を引き、使える特別控除も引いた残りが税金の対象です。他の所得とは切り離して計算します(分離課税)。
計算は次の3ステップです。
- 取得費を出す(マンションは建物の値下がり分の計算が必須)
- 持っていた期間で税率を判定する
- 使える特例を当てはめる
ステップ1:取得費を出す(マンション特有の落とし穴)
まず建物と土地に分ける
マンションの購入代金には建物と土地(敷地利用権)の分が含まれます。値下がり分を差し引く対象は建物の分だけです。契約書に建物の値段の記載がなければ、合理的な方法で割り振ります。
建物の取得費は「買った値段」より小さくなる
建物は使うほど価値が下がり、この値下がり分(減価償却費相当額)を買った値段から引いた金額が建物の取得費です。
建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数 = 減価償却費相当額
償却率は構造ごとに決まり、耐用年数を1.5倍した年数(1年未満切捨て)に応じた旧定額法の率を使い、経過年数は6か月以上を1年に切り上げます。引ける金額は、建物の買った値段の95%が上限です。
| 構造 | 耐用年数(1.5倍後) | 償却率 |
|---|---|---|
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 70年 | 0.015 |
| れんが造・石造・ブロック造 | 57年 | 0.018 |
| 金属造(骨格材の肉厚4mm超) | 51年 | 0.020 |
| 金属造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | 40年 | 0.025 |
| 金属造(骨格材の肉厚3mm以下) | 28年 | 0.036 |
| 木造・合成樹脂造 | 33年 | 0.031 |
| 木骨モルタル造 | 30年 | 0.034 |
注意
この計算を忘れると取得費が大きくなりすぎ、儲けを実際より小さく見積もってしまいます。分譲マンションの多くは鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造で、償却率0.015を使います。
購入時の仲介手数料、登録免許税・登記費用、不動産取得税、印紙税なども取得費に含められます。契約書が見当たらない場合は不動産売却で取得費がわからない?概算取得費5%で損しないための合理的算定法をご覧ください。
ステップ2:持っていた期間で税率を判定する(1月1日基準)
税率は所有期間によって2段階に分かれます。
| 区分 | 所有期間 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 所得税額の2.1% | 5% | 約20.315% |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 所得税額の2.1% | 9% | 約39.63% |
注意
「5年」は実際の保有年数ではありません。長期か短期かは、売った年の1月1日時点で5年を超えているかで判定します。例えば令和3年6月の物件を令和8年8月に売ると実際は5年2か月所有していても、令和8年1月1日時点では4年7か月のため短期譲渡所得です。令和9年1月以降なら長期になり、税率は約39.63%から約20.315%に下がります。
ステップ3:使える特例を当てはめる
マンション売却でよく使う特例は、確定申告書を出さなければ適用されません。
居住用財産の3,000万円特別控除
自分が住んでいた家とその敷地を売った場合、儲けから最高3,000万円を差し引けます。住まなくなった家でも3年を経過する日の属する年の12月31日までなら対象です。要件はマイホーム売却の3,000万円特別控除と取得時期の落とし穴で解説しています。
10年超所有の場合の軽減税率
売った年の1月1日時点で10年超所有していればさらに下がります。3,000万円控除後、6,000万円以下の部分は所得税率が10%に軽減されます(超える部分は(A−6,000万円)×15%+600万円)。3,000万円控除と併用できます。
相続した空き家を売却した場合
亡くなった方が住んでいた家を相続して売った場合は、別枠の3,000万円特別控除(措置法35条3項)を検討します。要件は相続した実家を売却したら税金はいくら?空き家3,000万円控除と取得費加算の使い分けをご覧ください。
数字で見る:マンション売却の税額と手取り
具体例で確認します。
前提
- 鉄筋コンクリート造の分譲マンションを平成17年3月に購入。購入代金4,000万円(内訳:建物2,000万円・土地2,000万円)
- 令和8年に5,800万円で売却。譲渡費用(仲介手数料など)200万円
- 購入から売却までの経過年数:21年(購入時の諸費用は考えない)
取得費の計算
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 建物の減価償却費相当額 | 2,000万円×0.9×0.015×21年 | 5,670,000円 |
| 建物の取得費 | 2,000万円−5,670,000円 | 14,330,000円 |
| 土地の取得費 | — | 20,000,000円 |
| 取得費合計 | — | 34,330,000円 |
値下がり分5,670,000円は建物の値段2,000万円の95%(19,000,000円)の範囲内なので、そのまま使えます。
58,000,000円 −(34,330,000円 + 2,000,000円)= 21,670,000円
ケース別の税額
| 項目 | ケースA:賃貸に出していた (特別控除なし・長期) | ケースB:自宅だった (3,000万円控除・長期) | ケースC:仮に短期だった場合 (特別控除なし) |
|---|---|---|---|
| 譲渡所得 | 21,670,000円 | 21,670,000円 | 21,670,000円 |
| 特別控除 | — | △30,000,000円 | — |
| 課税譲渡所得 | 21,670,000円 | 0円 | 21,670,000円 |
| 所得税 | 3,250,500円 | 0円 | 6,501,000円 |
| 復興特別所得税 | 68,260円 | 0円 | 136,521円 |
| 住民税 | 1,083,500円 | 0円 | 1,950,300円 |
| 税額合計 | 4,402,260円 | 0円 | 8,587,821円 |
ケースAとケースCの差は4,185,561円。5年超か否かだけでこの差が出ます。ケースBのように税額ゼロでも確定申告書を出さなければ特例は使えません。
手取り(手残り)はいくらか
ケースAで手取りを計算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却代金 | 58,000,000円 |
| 譲渡費用(仲介手数料等) | △2,000,000円 |
| 所得税・復興特別所得税・住民税 | △4,402,260円 |
| 手取り | 51,597,740円 |
住宅ローンが残っていればここから返済額を引きます。
「手取り」で考えるときの3つの注意点
注意
1. 住民税は翌年に来る。所得税等は翌年3月15日までに納めますが、住民税は翌年6月以降に納税通知書が届いてから納付します(上の例1,083,500円)。売却代金を使い切ると資金が足りなくなります。
2. 社会保険料に影響することがある。国民健康保険料や後期高齢者医療保険料は前年の所得で計算されるため、売却翌年度の保険料が上がることがあります。
3. ネット上の簡易シミュレーターを鵜呑みにしない。建物の値下がり分を反映せず、実際より税額が小さく表示されがちです。特例まで織り込んだ数字で判断してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. マンションを売って利益が出なければ確定申告は不要ですか?
特例を使わず儲けがマイナスなら申告義務はありません。ただし3,000万円控除などの特例で税額がゼロになる場合は、確定申告書を出さないと特例が使えません。詳しくはマンションを売って損が出たら確定申告は必要?をご覧ください。
Q2. 住民税はいつ払いますか?
売った年の翌年に課税されます。所得税・復興特別所得税は翌年3月15日までに、住民税は翌年6月以降に納税通知書が届いてから納めます。
Q3. 購入時の売買契約書が見当たりません。取得費はどうなりますか?
契約書がなくても「売った金額の5%」と即決まるわけではありません。住宅ローンの契約書や登記記録、通帳の出金記録などが手がかりになります。こちらの記事で詳しく解説しています。
Q4. 所有期間5年の判定はいつを基準にしますか?
売った年の1月1日時点で判定します。実際の所有年数ではありません。時期を選べる場合は必ず確認してください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な解説です。記事中の税額は前提を置いた試算であり、実際の税額は取得費の内容・所有期間・特例の適用可否・他の所得の状況によって変わります。また、実際の納付額には100円未満の切捨てなどの端数処理があります。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3261「建物の取得費の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁タックスアンサー No.3305「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm
- 国税庁「減価償却費の計算について(非業務用資産の耐用年数・償却率)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/h30/0018008-045/05.htm
- 租税特別措置法31条・32条・31条の3・35条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/
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