この記事の答え
- 非常勤の家族の役員にも退職金は払えます。本当に退職したかと金額が問われます
- 辞任後も実印の管理や融資の交渉を続ける人は、退職金が損金にならないことがあります
- 相当額を超える部分は損金になりません。監査役の例では3,000万円中1,830万円が否認されました
家族の役員にも退職金は払えますか
社長の妻など家族の役員にも、退職金は払えます。非常勤でも同じです。法人税法の定めに、常勤の役員に限るという条件はありません。
ただし、払った退職金を損金(税金の計算で差し引ける費用)にするには、2つの点が問われます。本当に退職したかと、金額が相当かの2つです。

役員を続ける場合は、地位や仕事が大きく変わり、実質的に退職したのと同じなら、退職金と扱えます。
本当に退職したと言えますか

退職金として扱われるには、退職の事実が要ります。国税不服審判所は、税務署の処分への不服を審査する機関です。審判所の判断(裁決)では、次の考え方が示されています。
退職金という名目でも、退職の事実がなければ、原則として臨時の役員給与として扱います。臨時の役員給与は、毎月同額の報酬などの決まった形に当たらなければ、損金になりません。
家族だけで不動産賃貸を営む会社の裁決があります。元取締役のAさんは、辞任した後も実印の管理や融資の交渉を続けていました。
Aさんの子2人は、代表取締役などの職にはありました。しかし、重要な業務に常時従事していたとは認められませんでした。審判所は、Aさんを経営に従事する役員のままと判断し、退職金は損金になりませんでした。
退職金と認められた例
- 辞任後に給与を受け取っていない
- 融資の連帯保証人が、後任の妻に変わった
- 辞任後に経営の指示をした客観的な証拠がない
- 後任の妻が職務を全く行っていなかった証拠がない
退職金と認められなかった例
- 賃貸の条件を決め続けた
- 実印と銀行印を管理し続けた
- 融資の交渉と契約を続けた
- 決算、申告、税務調査の対応に関わり続けた
順に令和2年12月15日、平成24年9月3日の裁決です。どの事実があれば足りるという基準ではありません。
役員を続けたまま地位や仕事を大きく変えて払う形は、分掌変更と呼びます。報酬を下げただけでは足りません。この形の判断は役員退職金の記事をご覧ください。
家族の例では、夫が会長に退き、妻が代表に就いた裁決があります。夫婦の報酬の合計は前と同じで、夫は常勤で営業に関わり続けていました。この退職金は損金になりませんでした。
補足
退職と認められないと、受け取る側にも響きます。長女に代表を任せて会長になった役員の裁決では、退職金が給与所得とされました。会社は法人税に加え、源泉徴収の不足分と加算税も課されました。
金額はどこまで認められますか

相当な金額を超える部分は、損金になりません。物差しは、業務に従事した期間、退職の事情、同業で規模の近い会社の退職金の状況などです。
家族の役員では、次の3点の裏付けを確かめてください。
- 働いた実態 無報酬の名目的な役員2名の裁決があります。業務に従事した事実がなく、会社の財産を分けるための支給とされました。退職金の全額が損金になりませんでした。
- 勤続年数 個人経営の時代の期間や、別の会社の在任期間を足せなかった裁決があります。
- 報酬 非常勤で退職時に無報酬だった役員の裁決があります。最後の月額報酬がないため、同業の会社の勤続1年あたりの平均額で計算する方法が合理的とされました。月額の報酬の裏付けは家族の非常勤役員の報酬の記事をご覧ください。
肩書きだけでも足りません。創業者の妻で前代表者だった役員の裁決があります。会社は、功績倍率(最後の月額報酬×勤続年数に掛ける倍率)を3.3倍と主張しました。
審判所は、名目だけでなく実際の貢献度などの実質も考えるべきとしました。そして、同業3社の平均の1.9倍を採りました。1.9倍はこの事案の数字で、相場ではありません。計算方法は役員退職金規程の記事をご覧ください。
相当額は、最後の月額報酬30万円×13年×3倍です。差額の1,830万円が損金になりませんでした。倍率3倍は、この事案で争いがなかった数字です。
注意
形を整えても、実態がなければ認められません。ある裁決では、前代表者の妻は勤務実績のない名目上の取締役でした。その退職金は、本人の知らないところで計上された架空のものとされました。会社は、源泉徴収をして本人の口座に振り込んだと主張しましたが、退けられました。
どこまで自社で確かめられますか

記録をそろえるところまでは、ご自身で進められます。
- 家族の役員が担当した仕事を、時期ごとに書き出す
- 就任と辞任の時期、毎年の報酬の額を確かめる
- 辞めた後も続けてもらう仕事を書き出す
ここから先の相当な金額と辞め方は、個別の判断になります。同業の会社との比較、後任への引き継ぎ、決議と支給の時期は、会社ごとに答えが違います。
小松公認会計士・税理士事務所では、代表の公認会計士・税理士が直接担当します。報酬の推移と勤続年数から適正額を試算します。支給の時期は、決算の期限から逆算してご案内します。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 退職金を払った家族に、そのまま働いてもらえますか?
続ける仕事の中身で判断が分かれます。実印の管理や融資の交渉、決算への関与などを続けた元取締役は、役員のままと判断され、退職金が損金になりませんでした。続ける仕事は、支給の前に整理してください。
Q2. 受け取った家族の税金はどうなりますか?
原則として退職所得になり、控除額を引いた額の2分の1に税金がかかります。役員の期間が5年以下の人は、その期間に対応する部分に2分の1の計算がありません。役員勤続5年以下の退職金の記事をご覧ください。
Q3. 退職金はいつ損金になりますか?
原則として、株主総会の決議などで額が具体的に確定した事業年度です。実際に支払った事業年度に費用として処理した場合は、その年度でも認められます。取締役会の内定額を未払金にしても、その時点では損金になりません。
Q4. 常勤か非常勤かは、何で判断されますか?
裁決は、確定申告書の添付書類の表示だけでなく、勤務の実態で判断すべきとしています。入退院を繰り返した会長でも、病室で報告を受けて指示をしていた事実などから、常勤と判断された例があります。
免責事項
本記事は令和8年11月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法2条15号・34条1項から3項、法人税法施行令7条・70条2号、法人税基本通達9-2-27の3・9-2-28・9-2-32、タックスアンサーNo.1420・No.5203・No.5208、国税不服審判所の裁決(平成11年3月10日、平成14年6月13日(裁決事例集No.63 309頁)、平成14年12月10日、平成15年8月4日、平成19年11月15日、平成20年1月25日、平成20年6月16日、平成24年9月3日、平成29年7月14日、令和2年12月15日)の内容を扱っています。紹介した裁決は個別の事案の判断で、当時の条文によるものを含みます。裁決事例集に登載のない裁決は、審判所の裁決要旨で確認した範囲で書いています。適正な退職金の額の計算方法、功績倍率の水準、比較する会社の選び方、退職金規程の作り方、株主総会の決議の手続、分掌変更の判断の細目、家族の報酬の過大判定の細目、みなし役員の判定の細目、使用人兼務役員の退職金、死亡退職金と弔慰金、退職所得の税額の計算、同族会社の行為計算の否認、社会保険の扱いは扱っていません。記事中の金額は裁決の事案の数字であり、一般の基準ではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索 法人税法(第2条第15号・第34条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索 法人税法施行令(第7条・第70条第2号)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第2節 第7款 退職給与(9-2-28・9-2-32)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
- 国税不服審判所 公表裁決事例要旨 役員退職給与(平成19年11月15日・平成29年7月14日・令和2年12月15日の裁決)https://www.kfs.go.jp/service/MP/03/0204070500.html
- 国税不服審判所 裁決要旨の検索(裁決事例集に登載のない裁決の要旨)https://www.kfs.go.jp/service/RS/index.html
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