この記事のポイント
- 在庫の廃棄損は、廃棄を終えて損失が生じた事業年度の損金です
- 期末日に倉庫に残っている在庫は、その期の廃棄損になりません
- 残した在庫の値下がりは、原則として評価損の要件か低価法によらなければ損金になりません
- 廃棄の日・品目・数量を、棚卸表や処分業者の書類・写真で示せるようにします
まず結論:在庫の廃棄損は、廃棄を終えた事業年度の損金です
商品・製品・原材料など、棚卸しをする資産を、法人税では棚卸資産と呼びます(法人税法2条20号)。
売れ残った棚卸資産を捨てたときの損失は、損金(税金の計算で差し引ける費用)になります。
損金になるのは、廃棄を終えて損失が生じた事業年度です。
倉庫に残したまま帳簿の金額だけを下げる処理は、廃棄損ではなく評価損の問題です。
期末日(事業年度の最後の日)に倉庫に残っている在庫は、その期の廃棄損になりません。

根拠は「その事業年度の損失」と「期末に持っている在庫」です
廃棄損の時期は、法人税法の2つの条文で決まります。
ひとつめは、損金に入る損失を定めた22条3項です。
当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
(法人税法22条3項3号)
資本等取引とは、増資や配当などの取引です(同条5項)。
ふたつめは、期末の在庫の評価を定めた29条1項です。
評価の対象は「当該事業年度終了の時において有する棚卸資産」です。
期末日までに廃棄した物は期末の在庫に入らず、その分がその期の損金に入ります。
国税不服審判所(税務署の処分への不服を審査する機関)の裁決も同じ考え方です。
資本等取引以外の取引に係る損失の額は発生した事業年度の損金の額に算入すべきものと解される
(平成18年11月21日裁決)
計算例
例:3月決算の会社が、帳簿価額1,200,000円の売れ残り商品を廃棄する場合
ケースA 3月28日に廃棄を終えた → 3月31日の在庫に入らない → 当期の損金1,200,000円 ケースB 4月8日に廃棄した → 3月31日の在庫に1,200,000円が残る → 損金は翌期 当期の所得の差 1,200,000円 - 0円 = 1,200,000円 ケースAで処分時に30,000円で売れた場合 1,200,000円 - 30,000円 = 1,170,000円(所得の減少)金額は一定の前提を置いた目安です(評価損や低価法は使っていない前提)。
処分のときに売れた代金は、収益として計上します(法人税法22条2項)。
11日の違いでも、期末日をまたぐと損金の事業年度が変わります。
評価損との違いは、在庫が手元に残っているかどうかです
廃棄損はもう持っていない損失、評価損は持ったまま帳簿価額を下げる処理です。
評価換えとは、帳簿価額を時価などに引き直すことです。
評価換えで下げた分は、原則として損金になりません(法人税法33条1項)。
| 区分 | 廃棄損 | 評価損 |
|---|---|---|
| 在庫 | 廃棄して手元にない | 手元に残っている |
| 根拠 | 法人税法22条3項・29条1項 | 法人税法33条2項・施行令68条1項1号 |
| 損金の時期 | 廃棄を終えた事業年度 | 評価換えをした日の属する事業年度 |
| 主な条件 | 期末日までに廃棄を終えていること | 災害による著しい損傷・著しい陳腐化などの事実と、損金経理 |
| 金額 | 廃棄した在庫の帳簿価額(売れた代金は別に収益) | 評価換えの直前の帳簿価額と期末の時価との差額まで |
損金経理とは、確定した決算で費用や損失として処理することです(法人税法2条25号)。
評価損が認められる事実と金額の上限は、在庫の評価損の記事にまとめています。
返品された雑誌に古紙の価値しかないとして、評価損を主張した出版業者の裁決があります。
計上できる状態だった証拠も損金経理もなく、認められませんでした(平成23年3月25日裁決)。
低価法は、原価と期末の時価の低いほうで評価する方法です(法人税法施行令28条1項2号)。
選定と届出は棚卸資産の評価方法の記事をご覧ください。
倉庫に残した在庫の値下がりは、原則として評価損の要件か低価法によらなければ損金になりません。
廃棄の記録は「いつ・何を・いくつ」を示せる形で残します
廃棄損を説明する材料は、廃棄した日・品目・数量と、期末の在庫との関係です。
青色申告の法人は、期末に棚卸しをして棚卸表を作ります。
前項に規定するたな卸については、たな卸表を作成し、たな卸資産の種類、品質及び型の異なるごとに数量、単価及び金額を記載しなければならない。
(法人税法施行規則56条2項)
棚卸表と、取引の相手から受け取った契約書・送り状・領収書などは、保存の対象です。
青色申告の法人は同規則59条1項、青色申告でない会社は67条が定めています。保存の期間は帳簿の保存期間の記事をご覧ください。
残しておきたい記録の例です。
- 品目・数量・帳簿価額と、廃棄の日付・場所の一覧
- 廃棄を決めた社内の決裁の記録
- 処分業者の契約書・請求書・領収書と、処分済みが分かる書類
- 品目や数量が分かる、廃棄の前後の写真
- 売れた代金があれば、その記録
仕入れが架空かが争われた裁決では、送り状や期末の商品棚卸表が判断の材料になりました。
商品番号を写した写真も、その一つです(平成5年12月21日裁決)。
ポイント
記録は、廃棄したその日に作ります。廃棄の一覧に載せた品が、期末の棚卸表に残っていないかも確かめます。
廃棄の一覧・処分の書類・写真・棚卸表がそろうと、廃棄の時期を説明しやすくなります。

決算前の廃棄で問題になるのは、時期のずれと実態のない処理です
次の5つは、損金の時期や扱いを誤る場面です。
- 期末日の後に廃棄したのに、当期の廃棄損にする(損金は翌期です)
- 廃棄したのに、期末の在庫に数えたままにする(その期の所得が多く計算されます)
- 過去の期の在庫の誤りを、後の期にまとめて廃棄損にする(後の期の損金とは限りません)
- 「廃棄」として無償で渡し、実際には使われ続ける(廃棄損になりません)
- 処分のときに売れた代金を計上しない(収益の計上漏れになります)
3つめは、過去の期に在庫を過大に計上(粉飾)していた会社の裁決です。
後の期にまとめた廃棄損は、その期に生じた損失ではないとされました(平成18年11月21日裁決)。
注意
4つめは、東京高裁平成20年6月26日判決(確定)の事案です。パチンコ店が、帳簿に載せていた換金用の景品を「廃棄の委託」として卸売業者に無償で渡しました。
しかし翌日以降も、同じ景品を買い直して使い続けていました。裁判所は、廃棄ではなく卸売業者への寄附金に当たると判断しました。事実を偽ったとして、重加算税(重い加算税)も認めています。
補足
一般に、法人が資産を寄附すると、一般の寄附金として一定の限度額までしか損金になりません。
国税庁の質疑応答事例は、社内ルールで廃棄予定の食品をフードバンクへ提供する場合を示しています。実質的に商品廃棄の一環で、転売禁止や記録の保存などを合意書で定め、使途を確認できることが前提です。その場合は、提供に要する費用を提供時の損金にしてよいとしています。
実態のない「廃棄」は廃棄損にならず、寄附金とされた裁判例があります。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
期末日の前に社内で進められるのは、次の4つです。
- 売れ残りを、廃棄・値引き販売・保管の3つに分ける
- 廃棄するものの品目・数量・帳簿価額を一覧にし、社内で決裁する
- 期末日までに廃棄を終え、日付・場所・数量を記録して写真を撮る
- 期末の棚卸しで、廃棄した物が在庫に残っていないかを確かめる
ここから先は、事実によって判断が分かれます。
たとえば、業者に引き渡した日と処分が終わった日が、期末日をまたぐ場合です。
評価損の事実に当たるか、過去の期の在庫の誤りをどう直すかも、資料を見て決めます。
期末日をまたぐ廃棄と過去の期の誤りは、特に個別の判断が要ります。

税理士が入ると変わるのは、廃棄の時期の判断と記録の整え方です
小松公認会計士・税理士事務所では、決算の前に次の作業を行います。
- 在庫の一覧から、廃棄・評価損の検討・通常の評価に仕分ける
- 期末日から逆算して、廃棄の日程と記録の様式を決める
- 廃棄の一覧・処分業者の書類・写真を、期末の棚卸表と突き合わせる
- 無償で渡す予定の品があれば、寄附金に当たらないかを確かめる
- 税務調査に備えて、廃棄の経緯をまとめた説明資料をそろえる
やり取りは全国オンラインで完結します。
どの在庫をいつ廃棄し、どう記録するかの設計は会社ごとです。弊所で組み立てます。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 期末日の直前に廃棄を決め、処分は翌月になります。今期の損金にできますか?
廃棄損は、廃棄を終えて損失が生じた事業年度の損金です(法人税法22条3項3号)。期末日に残っている在庫は、期末の棚卸資産として評価します(同法29条1項)。処分が翌月なら、廃棄損は翌期の損金です。売れなくなった事実があれば、評価損の要件を検討します。
Q2. 廃棄したことを示すには、どんな記録を残せばよいですか?
青色申告の法人は、期末に棚卸表を作り、種類・品質・型ごとに数量・単価・金額を記載します(法人税法施行規則56条)。棚卸表や処分業者の契約書・領収書などは保存の対象です。廃棄の日・品目・数量の一覧と写真もあわせて残すと、廃棄の時期を説明しやすくなります。
Q3. 売れ残りを倉庫に置いたまま、廃棄損にできますか?
廃棄損にはなりません。期末に残っている在庫として評価します。評価損には、災害による著しい損傷・著しい陳腐化などの事実と損金経理が要ります(法人税法33条2項)。評価の方法が低価法なら、時価が原価より低いときは時価で評価します。
Q4. 廃棄する代わりに、商品を無償で団体に渡してもよいですか?
一般に、法人が資産を寄附すると、一般の寄附金として一定の限度額までしか損金になりません。国税庁の質疑応答事例は、廃棄予定の食品をフードバンクへ提供し、実質的に商品廃棄の一環で、転売禁止などの合意があり使途を確認できる場合は、提供時の損金にしてよいとしています。
免責事項
本記事は令和8年11月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法2条20号・25号・22条2項・3項・5項・29条1項・33条1項・2項、法人税法施行令28条1項2号・68条1項1号、法人税法施行規則56条・59条1項・67条、国税庁の質疑応答事例「フードバンクへ食品を提供した場合の取扱い」、国税不服審判所の平成5年12月21日・平成18年11月21日・平成23年3月25日の各裁決、東京高等裁判所平成20年6月26日判決の内容を扱っています。業者に引き渡した日と処分が終わった日が期末日をまたぐ場合の扱い、評価損が認められる事実の判定と時価の求め方、評価方法の選定と届出、低価法による評価額の計算、補修用部品・単行本の在庫調整勘定、固定資産の除却損と有姿除却、廃棄物の処理に関する法令上の義務、廃棄証明書の要否、消費税の扱い、寄附金の損金算入限度額の計算、交際費・広告宣伝費との区分、帳簿書類の保存期間、過去の期の誤りを直す修正申告・更正の請求の手続と期間、法人税額への影響額と加算税・延滞税は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の損金の額と時期は会社の事実と処理によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(2条・22条・29条・33条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索「法人税法施行規則」(56条・59条・67条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340M50000040012
- 国税不服審判所 公表裁決事例(平成18年11月21日裁決・裁決事例集No.72 404頁)https://www.kfs.go.jp/service/JP/72/22/index.html
- 国税庁 税務訴訟資料 第258号-117(順号10975)東京高等裁判所 平成20年6月26日判決https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2008/pdf/10975.pdf
- 国税庁 質疑応答事例「フードバンクへ食品を提供した場合の取扱い」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/20/11.htm
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在庫を廃棄した損失は、廃棄を終えて損失が生じた事業年度の損金です。期末日に倉庫に残っている在庫は、その期の廃棄損になりません。値下がり分は、原則として評価損の要件か低価法によらなければ損金になりません。実態のない「廃棄」が寄附金とされた裁判例もあります。代表税理士が、在庫の仕分けから、期末日までの廃棄の段取り、廃棄の一覧・処分業者の書類・写真と棚卸表の突き合わせまで通して対応します。期末日の前の段階でご相談ください。
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