この記事のポイント
- 第三者からの賠償に備える基本の部分は、会社が払っても給与課税されません
- 株主代表訴訟の部分も、会社法430条の3の決議に基づく負担なら給与課税は不要です
- 手続を経ずに会社が負担すると、株主代表訴訟の部分は給与課税が必要とされています
- 給与にならない保険料は保険期間の経過に応じて損金に。1年超の一括払いに短期前払の扱いはありません
まず結論:決議を経て会社が払うD&O保険の保険料は、役員の給与になりません
会社役員賠償責任保険(D&O保険)は、役員が職務上の責任を問われたときの損害に備える保険です。
会社が保険料を払うと、役員の給与として所得税がかかる「給与課税」が問題になります。
第三者からの賠償請求に備える基本の部分は、会社が払っても給与課税されません。
株主代表訴訟で負けたときの部分も、会社法430条の3の決議に基づく負担なら給与課税は不要です。
手続を経ずに会社が負担すると、この部分は給与課税が必要とされています。
定期保険などは、法人保険と税金の記事をご覧ください。

基本の部分は、平成6年の通達から給与課税をしない扱いです
平成6年1月20日の通達は、保険料を2つに分け、基本の部分を給与課税しないとしました。
基本契約に係る保険料を会社が負担した場合の当該保険料については、役員個人に対する給与課税を行う必要はないものとする。
(平成6年1月20日 課法8-2ほかの照会文。国税庁は「貴見のとおり」と回答)
基本契約には、第三者からの賠償請求に備える部分があります。
役員が勝訴したときの争訟費用(裁判などの費用)の部分も含みます。
第三者からの請求の部分の理由は、所得税基本通達36-33と法人税基本通達9-7-16の趣旨です。
業務に関連し、故意や重い過失のない行為の賠償を会社が負っても、役員の得にはならないという考え方です。
株主代表訴訟は、株主が会社のために役員の責任を追及する裁判です(会社法847条)。
この訴訟で負けたときの部分は特約とされました。
これを会社負担とした場合には、役員に対して経済的利益の供与があったものとして給与課税を要する。
(同じ照会文)
株主代表訴訟の部分も、決議に基づいて会社が負担すれば給与課税されません
平成28年2月24日の情報は、特約に分けない保険について、次の手続を経れば給与課税は不要としました。
- 取締役会の承認
- 社外取締役が過半数の任意の委員会の同意、または社外取締役全員の同意
令和元年の会社法改正で430条の3が設けられ、令和3年3月1日に施行されました。
株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。
(会社法430条の3第1項)
取締役会を置く会社は取締役会、置かない会社は株主総会で、保険の内容を決めます。
この規定に基づく負担を、令和2年9月30日の情報は次のように扱います。
当該負担は会社法上適法な負担と考えられることから、役員個人に対する経済的利益の供与はなく、役員個人に対する給与課税を行う必要はない。
(令和2年9月30日の情報の別添)
この情報には、社外取締役の同意は書かれていません。
令和3年3月1日以後に結んだ契約は、430条の3の決議に基づく負担かを確かめます。
補足
決議が要るのは、役員等を被保険者とし、職務上の責任を問われたときの損害を補う保険です。会社自身の賠償責任を主に補う保険などは除かれます(会社法施行規則115条の2)。名前でなく中身で決まり、株式会社についての規定です。

手続を経ずに会社が負担した株主代表訴訟の部分は、役員の給与として扱います
手続を経ない負担について、平成28年の情報は次のとおりです。
従前の取扱いのとおり、役員に対する経済的利益の供与があったと考えられることから、役員個人に対する給与課税を行う必要があります。
(平成28年2月24日の情報)
ここでいう従前の取扱いは、株主代表訴訟の部分を給与課税する平成6年の扱いです。
この部分は、源泉徴収(会社が所得税を差し引いて納めること)の対象です(所得税法183条1項)。
法人税では、役員給与に経済的な利益も含まれます(法人税法34条4項)。
定期同額給与など3つの形に当たらない役員給与は、損金になりません(同条1項)。
損金は、税金の計算で差し引ける費用です。
平成6年の通達は、特約の保険料を役員が払うか、報酬から差し引く形を想定していました。
役員の間の分け方は、次の3つが例示されています。
- 人数で均等に分ける(無報酬などで均等の負担が適当でない取締役は、減らす・外す方法を含む)
- 役員報酬の額に比例して分ける
- 代表取締役・取締役・監査役の役割に応じて額を決める
注意
配分は、その法人にとって合理性があり、課税上の弊害も生じない場合に限り認められます(同通達の回答)。根拠なく特定の役員に寄せる配分は、この条件を満たしません。
役員の得になる支出は、経済的な利益の記事もご覧ください。
保険料は、保険期間の経過に応じて損金にします
給与課税されない保険料は、会社の費用として損金にします(法人税法22条3項2号)。
D&O保険は、損害保険会社が販売してきた保険です。
損金の時期は、国税庁が次のように説明しています。
損害保険契約にあってはその契約を締結しただけでは債務が確定したということはできず、保険期間の経過に従って債務が確定すると考えられること。
(国税庁 質疑応答事例「短期の損害保険契約に係る保険料を分割で支払った場合の税務上の取扱い」)
例外は、支払日から1年以内の保険期間の分の前払いです。
継続して払った期の損金にしていれば認められます(法人税基本通達2-2-14)。
1年を超える期間の分をまとめて払うと、この条件に当たりません。
分割払いでは、まだ払っておらず期間も来ていない分を損金にできません(同事例)。
計算例
例1:3月決算の会社が、10月1日開始の1年分の保険料360,000円を同日に払う
期間で分ける 360,000円 × 6/12 = 180,000円(残り180,000円は前払費用) 支払日から1年以内の扱い(継続適用) 360,000円を当期の損金例2:同じ会社が、10月1日開始の3年分の保険料1,080,000円を一括で払う
1年を超える分を含むため期間で分ける 1,080,000円 × 6/36 = 180,000円前払費用は、翌期以降の分として資産に残す額です。金額は月割りの、一定の前提を置いた目安です。
3年分を一括で払っても、その期の損金は経過した期間の分だけです。
長期一括払いの按分は、損害保険料の記事もご覧ください。

申告の誤りにつながるのは、次の5つの処理です
- 決議を経ずに契約・更新する ― 給与課税を不要とする前提を欠きます。
- 議事録に、保険の内容を決めた記録がない ― 決議を経たことを後から示せません。
- 特約の保険料を、根拠なく特定の役員に寄せる ― 合理性のない配分は認められません。
- 給与課税の部分を、ふつうの保険料にする ― 源泉徴収と役員給与の判定が漏れます。
- 数年分の一括払いを、払った期に全額損金にする ― 経過した期間の分だけが損金です。
保険証券・約款・議事録をそろえ、決議の日付と保険期間を確かめることが出発点です。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご自身で確かめられるのは、次の4点です。
- 保険証券で、被保険者・保険期間・保険料の払い方を確かめる
- 約款で、株主代表訴訟で負けたときの損害が補償に入るかを確かめる
- 取締役会(ない会社は株主総会)の議事録で、保険の内容を決めた記録を確かめる
- 役員が払う保険料や報酬から差し引く額があれば、その根拠を確かめる
給与課税が要る部分があるか、法人税でどう扱うかは、契約ごとの個別判断です。
国税庁の3つの文書は保険料の扱いで、保険金を受け取ったときの扱いは書かれていません。
保険金や、株式会社以外の法人も、個別の確認が要ります。

税理士が入ると変わるのは、給与課税の判定と決算への反映です
小松公認会計士・税理士事務所では、保険の契約や更新の前から次の作業を行います。
ひとつめは、保険証券・約款・議事録をそろえ、給与課税が要る部分を確かめることです。
ふたつめは、保険の内容を決めた決議が議事録に残っているかの確認です。
みっつめは、給与課税が要る場合の源泉徴収と役員給与の整理です。
よっつめは、保険期間と払い方から、当期の損金と前払費用を計算することです。
いつつめは、申告書への反映と、税務調査に備えた根拠資料の整理です。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. D&O保険の保険料を会社が全額払うと、役員に給与課税されますか?
第三者からの賠償に備える基本の部分は、給与課税されません(平成6年の通達)。株主代表訴訟の部分も、会社法430条の3の決議に基づく負担なら不要です(令和2年9月30日の情報)。手続を経ない負担は、この部分に給与課税が必要とされています。
Q2. 取締役会のない小さな会社でも、決議は必要ですか?
必要です。会社法430条の3は、保険の内容を株主総会の決議で決めると定めています。取締役会を置く会社では取締役会の決議です。株式会社の規定で、会社自身の賠償責任を主に補う保険などは対象外です(会社法施行規則115条の2)。
Q3. 3年分の保険料をまとめて払いました。全額をその期の損金にできますか?
できません。国税庁は、損害保険料の債務は保険期間の経過に従って確定するとしています。支払日から1年以内の分を継続して払った期の損金にする扱い(法人税基本通達2-2-14)があります。ただし、1年を超える分を含む一括払いには当たりません。
Q4. 決議をしないまま、会社が保険料を払っていました。どうなりますか?
令和2年の情報で給与課税が不要なのは、会社法430条の3の規定に基づく負担です。手続を経ない負担は、株主代表訴訟の部分に従前どおり給与課税が必要とされています(平成28年の情報)。法人税でも役員給与として扱います(法人税法34条4項)。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。会社法430条の3・847条、会社法施行規則115条の2、法人税法22条3項2号・34条1項・4項、所得税法183条1項、法人税基本通達2-2-14、所得税基本通達36-33、法人税基本通達9-7-16の内容を扱っています。あわせて、国税庁の平成6年1月20日付課法8-2ほか「会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて」、平成28年2月24日付「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(情報)」、令和2年9月30日付「令和元年改正会社法施行後における会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(情報)」、質疑応答事例「短期の損害保険契約に係る保険料を分割で支払った場合の税務上の取扱い」を参照しています。保険金を受け取ったときの会社・役員の課税関係、平成28年の情報にある社外取締役の同意が現在も要るかの判断、会社補償契約(会社法430条の2)、株式会社以外の法人の扱い、決議で定める内容の項目と議事録の書き方、事業報告での開示、株主代表訴訟の部分の保険料の金額の区分方法、給与課税される保険料が定期同額給与に当たるかの判定、源泉徴収税額の計算、子会社を含む契約の保険料の配分、保険料の消費税は扱っていません。記事中の計算例は月割りで計算した一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は保険期間・支払日・決算期によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁「会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて」(平成6年1月20日 課法8-2・課所4-2)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/gensen/040120/01.htm
- 国税庁「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(情報)」(平成28年2月24日)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/160218/index.htm
- 国税庁「令和元年改正会社法施行後における会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(情報)」(令和2年9月30日)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/0020009-087.pdf
- e-Gov法令検索「会社法」(430条の3)https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 国税庁 質疑応答事例「短期の損害保険契約に係る保険料を分割で支払った場合の税務上の取扱い」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/02/01.htm
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役員賠償責任保険(D&O保険)で第三者からの賠償に備える部分は、会社が払っても給与課税されません。株主代表訴訟で負けたときの部分も、会社法430条の3の決議に基づく負担なら給与課税は不要です。手続を経ずに会社が負担すると、この部分は給与課税が必要とされています。給与にならない保険料は保険期間の経過に応じて損金にし、1年を超える一括払いは期間で分けます。代表税理士が、保険証券・約款・議事録の確認から、決算と申告への反映まで通して対応します。保険の契約や更新の前の段階でご相談ください。
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