この記事のポイント
- 損害保険料は保険期間の経過に応じて損金にするのが原則です
- 5年などの長期一括払いは短期前払費用の対象外で、期間按分します
- 満期返戻金のある積立型は積立保険料の部分が資産になります
- 社長の自宅の保険料を会社が払うと給与になることがあります
まず結論:保険料は「払った年」ではなく「保険期間」に合わせて経費にします
事務所や倉庫の火災保険を、5年分などまとめて払う会社があります。
長期一括払いの保険料は、払った期に全額を損金にはできません。
損金とは、法人税の計算で利益から差し引ける費用のことです。
保険料は保険期間の経過に合わせて、各期に分けて損金にします。
積立型は一部が資産になり、社長の自宅の保険料は給与になることもあります。

損害保険料は、保険期間が過ぎた分だけ損金になります
費用が損金になるのは、期末までに債務が確定した分だけです。
前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
(法人税法22条3項2号)
国税庁の質疑応答事例は、次のように説明しています。
損害保険契約にあってはその契約を締結しただけでは債務が確定したということはできず、保険期間の経過に従って債務が確定すると考えられること。
(国税庁 質疑応答事例「短期の損害保険契約に係る保険料を分割で支払った場合の税務上の取扱い」)
この事例は、1年契約の保険料を10回の分割払いにしたものです。
まだ払っていない残りの保険料は、契約した期の損金にできないとされました。
まだ役務(保険による補償)を受けていない分を前払費用といいます。
前払費用は原則、支出時に資産にし、役務を受けた時に損金にします(タックスアンサー No.5380)。
5年などの長期一括払いには、短期前払費用の特例が使えません
前払費用には、1年以内の分に限って支払時に損金にできる取扱いがあります。
法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(法人税基本通達2-2-14)
条件は「支払った日から1年以内」の役務であることと、毎期継続して同じ処理をすることです。
5年分などの一括払いは1年を超えるため、この取扱いの対象になりません。
決算前の対策としての使い方は、決算前3か月の対策の記事で扱っています。
計算例
例:3月決算の会社が、掛け捨ての火災保険5年分1,500,000円を一括で払った場合
保険期間 令和8年10月1日〜令和13年9月30日(60か月) 1か月あたり 1,500,000円 ÷ 60か月 = 25,000円 令和9年3月期 25,000円 × 6か月 = 150,000円 令和10年3月期〜令和13年3月期 25,000円 × 12か月 = 各期300,000円 令和14年3月期 25,000円 × 6か月 = 150,000円 初年度末の前払費用 1,500,000円 - 150,000円 = 1,350,000円月割で按分した、一定の前提を置いた目安です。6期の合計は1,500,000円で、総額は変わりません。

満期返戻金のある積立型は、積立保険料の部分が資産になります
保険期間3年以上で満期返戻金のある契約は「長期の損害保険契約」と呼ばれます。
その支払った保険料の額のうち、積立保険料に相当する部分の金額は保険期間の満了又は保険契約の解除若しくは失効の時までは資産に計上するものとし、その他の部分の金額は期間の経過に応じて損金の額に算入する。
(法人税基本通達9-3-9)
積立保険料とは、満期に戻ってくるお金に充てられる部分です。
金額の区分は、保険料払込案内書や保険証券の添付書類によります(同通達の注)。
計算例
例:保険期間5年・年払200,000円、うち積立保険料120,000円の場合
資産に計上する額(毎年) 120,000円 損金になる額(毎年) 200,000円 - 120,000円 = 80,000円 5年間の資産計上の累計 120,000円 × 5年 = 600,000円事業年度と保険の年度が一致する前提の目安です。
注意
保険金を受け取っても、契約が続くなら積立保険料は損金になりません(法人税基本通達9-3-12)。受け取った保険金の扱いは保険差益の圧縮記帳の記事をご覧ください。
社長や従業員の自宅、賃借建物の保険料は扱いが分かれます
長期の損害保険契約では、建物の持ち主と契約者で扱いが変わります。
| 建物 | 契約の形 | 保険料の扱い |
|---|---|---|
| 会社が借りている建物 | 会社が契約者、所有者が被保険者 | 9-3-9と同じ(積立部分は資産、残りは期間按分) |
| 会社が借りている建物 | 所有者が契約者かつ被保険者 | 全部を建物の賃借料とする |
| 役員・使用人の建物 | 会社が契約者、本人が被保険者 | 積立部分は資産、残りは本人への給与 |
| 役員・使用人の建物 | 本人が契約者かつ被保険者 | 全部を本人への給与とする |
(法人税基本通達9-3-10・9-3-11)
役員や従業員から借りて本人に使わせる社宅は、役員・使用人の建物として扱います。
所得税で課税されない分は、給与と経理しなければ給与として扱いません(9-3-11(1)ただし書)。
所得税では、会社が契約者の家屋の保険は、原則として課税しなくて差し支えないとされます。
満期返戻金がある契約なら、その受取人が会社である場合に限られます(所得税基本通達36-31の7)。
ただし、役員又は特定の使用人のみを対象として当該保険料を支払うこととしている場合には、その支払った保険料の額(その契約期間の満了に際し満期返戻金、満期共済金等の給付がある場合には、支払った保険料の額から積立保険料に相当する部分の金額を控除した金額)に相当する金額は、当該役員又は使用人に対する給与等とする。
(所得税基本通達36-31の7)
社長の自宅だけを会社の保険に入れると、社長への給与になり得ます。
社長が自分で契約した保険の保険料を会社が払っても、給与等です(所得税基本通達36-31の8)。
役員給与になったときの法人税の扱いは、社長の私的な支出と役員給与の記事にまとめています。

誤ると税務調査で修正を求められる4つの処理
- 長期一括払いを全額当期の経費にする ― 翌期以降の分は前払費用として資産に戻されます。
- 積立型の保険料を全額経費にする ― 積立保険料の部分は、満期や解約まで資産です。
- 分割払いの年間保険料を初回に全額計上する ― 未払の分は損金になりません。
- 社長の自宅の保険料を会社の経費にする ― 社長への給与として扱われ得ます。
国税庁の質疑応答事例「短期前払費用の取扱いについて」も参考になります。
1年以内の前払いでも、利益操作のための支出は排除する必要があるとしています。
利益が出た年だけまとめて払う形は、短期前払費用でも問題になり得ます。
ポイント
長期一括払いは、今期の損金を増やす手段にはなりません。払い方は、資金繰りと保険料の総額で決めます。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
更新の前に、ご自身で確かめられるのは次の4点です。
- 保険証券で、保険期間の始まりと終わりの日を確かめる
- 払込案内書で、満期返戻金と積立保険料の有無を確かめる
- 保険の対象の建物が、会社・社長・従業員・家主の誰のものかを確かめる
- 契約者と被保険者が、会社か本人かを確かめる
一部の役員だけが対象か、社宅に当たるかは、事実関係で判断が分かれます。
途中解約や契約の見直しの処理も、契約ごとに確認が要ります。

税理士が入ると変わるのは、按分の計算と帳簿への落とし込みです
小松公認会計士・税理士事務所では、保険の更新や加入の前後に次の作業を行います。
ひとつめは、保険証券と払込案内書の読み取りです。保険期間と積立保険料の額を確かめます。
ふたつめは、各期の損金額と、前払費用・積立保険料の残高の計算表の作成です。
みっつめは、毎期の決算で振り替える仕訳の設定です。按分の入れ忘れを防ぎます。
よっつめは、社長や従業員の建物の保険の確認です。給与に当たるかと源泉徴収の要否を整理します。
いつつめは、賃借建物の保険の確認です。家主との契約書から、契約者と被保険者を確かめます。
むっつめは、税務調査の想定問答の準備です。保険証券と計算表を説明できる形でそろえます。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 火災保険を5年分まとめて払えば、今期の経費を増やせますか?
増やせません。1年以内の前払いを支払時に損金にできる取扱い(法人税基本通達2-2-14)は、支払った日から1年以内の役務に限られます。5年分の保険料は、保険期間の経過に応じて各期に按分して損金にします。
Q2. 自動車保険や1年契約の火災保険を年払いしたら、全額を経費にできますか?
1年以内の役務に係る前払いで、毎期継続して同じ処理をしているなら、支払時の損金算入が認められます(法人税基本通達2-2-14)。ただし分割払いの未払分は、契約した期の損金になりません(国税庁の質疑応答事例)。
Q3. 満期返戻金のある積立型の火災保険は、どう処理しますか?
保険期間3年以上で満期返戻金のある契約は、積立保険料の部分を資産に計上し、残りを期間の経過に応じて損金にします(法人税基本通達9-3-9)。区分は保険料払込案内書などの記載によります。
Q4. 社長の自宅の火災保険料を会社で払ってもよいですか?
長期の損害保険契約で会社が契約者なら、積立部分は資産、残りは社長への給与とされます(法人税基本通達9-3-11)。役員だけを対象にした家屋の保険料は、所得税でも給与等とされます(所得税基本通達36-31の7ただし書)。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法22条3項2号、法人税基本通達2-2-14・9-3-9・9-3-10・9-3-11・9-3-12、所得税基本通達36-31の7・36-31の8、タックスアンサーNo.5380「短期前払費用として損金算入ができる場合」、国税庁の質疑応答事例「短期の損害保険契約に係る保険料を分割で支払った場合の税務上の取扱い」「短期前払費用の取扱いについて」の内容を扱っています。満期返戻金や解約返戻金を受け取ったときの処理、保険金を受け取ったときの保険差益と圧縮記帳、役員給与となった場合の損金算入の要件と源泉徴収税額、損害保険料の消費税の取扱い、地震保険料控除の金額と要件、契約者配当の処理、契約内容の変更や途中解約の処理、生命保険の保険料の取扱いは扱っていません。記事中の計算例は月割などの一定の前提を置いた目安であり、実際の損金額は保険期間の日付や事業年度によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第3節「保険料等」(9-3-9〜9-3-12)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第2章第2節第2款「販売費及び一般管理費等」(2-2-14)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_02_02.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5380「短期前払費用として損金算入ができる場合」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5380.htm
- 国税庁 質疑応答事例「短期の損害保険契約に係る保険料を分割で支払った場合の税務上の取扱い」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/02/01.htm
- 国税庁 所得税基本通達 法第36条関係(36-31の7・36-31の8)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/03.htm
- 国税庁 質疑応答事例「短期前払費用の取扱いについて」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/02/03.htm
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