この記事のポイント
- 保険金で同一種類の代替資産を取得すると圧縮記帳を検討できます
- 圧縮できるのは保険差益×圧縮基礎割合までです
- 期末に間に合わなければ特別勘定で翌期以降につなげます
- 課税の免除ではなく先送りです。後の償却費が小さくなります
まず結論:保険金で建て直すなら、保険差益に圧縮記帳を検討できます
火災や事故で建物や設備が壊れ、保険金を受け取ったとします。
受け取った保険金は、法人税の計算上は益金(税金の計算上の収益)です(法人税法22条2項)。
古い建物の帳簿価額より保険金が多いと、その差額に法人税がかかります。
そこで使うのが保険差益の圧縮記帳です(同47条1項)。
圧縮記帳とは、新しく買った資産の帳簿価額を減らし、その期の課税を抑える処理です。
期末までに同一種類の代替資産を取得し、損金経理で帳簿価額を減らすことが基本の形です。

保険差益は「保険金-経費-被害部分の帳簿価額」です
圧縮の対象は、保険金の全額ではなく保険差益です。
前項に規定する保険差益金の額とは、同項第一号に掲げる金額がその滅失又は損壊をした同号に規定する所有固定資産の被害直前の帳簿価額(当該所有固定資産が被合併法人等所有資産である場合には、同号に規定する被合併法人等における当該所有固定資産の当該直前の帳簿価額)のうち被害部分に相当する金額(保険金等の支払を受けるとともに同号に規定する代替資産の交付を受ける場合には、当該金額のうちその保険金等の額に対応する部分の金額)を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。
(法人税法施行令85条2項)
「第一号に掲げる金額」は、保険金から滅失・損壊で支出する経費を引いた額です(同条1項1号)。
経費に入るのは、取壊費、焼跡の整理費、消防費等です(法人税基本通達10-5-5)。
類焼者への賠償金、けが人への見舞金、弔慰金は、この経費に入りません。
対象の保険金は、滅失・損壊の日から3年以内に支払の確定したものです(施行令84条)。
圧縮できる額は、代替資産に充てた割合で決まります
保険差益に「圧縮基礎割合」を掛けた額が上限です(施行令85条1項)。
圧縮基礎割合は、1号の金額のうち代替資産の取得に要した額が占める割合です。
計算例
例:帳簿価額800万円の倉庫が全焼。焼跡整理費100万円、保険金2,100万円、代替の倉庫を1,500万円で取得
1号の金額 2,100万円 - 100万円 = 2,000万円 2号の金額 2,000万円と1,500万円の少ない方 = 1,500万円 圧縮基礎割合 1,500万円 ÷ 2,000万円 = 0.75 保険差益金 2,000万円 - 800万円 = 1,200万円 圧縮限度額 1,200万円 × 0.75 = 900万円 圧縮されずに残る差益 1,200万円 - 900万円 = 300万円一定の前提を置いた目安です。建て直しに使わなかった分の差益には、その期に課税されます。
保険金を全部使い切らないと、圧縮できる額はその割合だけ小さくなります。
補助金の場合の計算は補助金の圧縮記帳の記事で扱っています。

課税の免除ではなく、先送りです
圧縮した分だけ、代替資産の取得価額が小さくなります。
圧縮で損金になった額を引いた金額が、償却の基礎になる取得価額とみなされます(施行令54条3項)。
計算例
例:上の倉庫を仮に20年で均等に償却すると置いた単純計算
圧縮後の取得価額 1,500万円 - 900万円 = 600万円 圧縮しない場合の年償却費 1,500万円 ÷ 20年 = 75万円 圧縮した場合の年償却費 600万円 ÷ 20年 = 30万円 毎年の差 45万円 × 20年 = 900万円耐用年数と償却方法は資産ごとに異なります。一定の前提を置いた目安です。
その期に圧縮した900万円は、後の償却費の減少で取り戻される形になります。
赤字の期や繰越欠損金が多い期は、あえて圧縮しない選択も比較の対象です。
期末までに建て直せないときは、特別勘定でつなぎます
保険金を受けた期に代替資産を取得できないことは珍しくありません。
その場合は、確定した決算で特別勘定を設けます(法人税法48条1項)。
特別勘定とは、翌期以降の圧縮に備えて損金を先取りしておく勘定です。
期間は、その事業年度終了の日の翌日から2年を経過した日の前日までです。
繰入れの上限は、取得に充てようとする額で同じ計算をします(施行令89条)。上の例で1,500万円を充てる予定なら、900万円です。
取得した期に特別勘定を取り崩して益金に算入し、同時に圧縮記帳をします。
根拠は法人税法48条2項・3項と49条1項です。
ポイント
災害等で期間内の取得が困難なときは、税務署長の指定で期限を延ばせます。申請書は2年を経過した日の2か月前までに提出します(施行令88条1項)。
期間内に取得できず残った特別勘定は、取り崩して益金に戻ります。
根拠は法人税法48条2項・3項と施行令90条2号です。
元どおりに直すだけなら、圧縮記帳ではなく修繕費です
壊れた部分を直して使い続ける場合は、考え方が変わります。
被災資産の原状を回復するために支出した費用は、修繕費に該当します(法人税基本通達7-8-6(1))。
修繕費は、修繕をした期の損金です。保険金を益金にする期と同じになるとは限りません。
一方、復旧に代えて資産を取得すると、新たな資産の取得です(同(注)1)。こちらが圧縮記帳の出番です。
元どおりに直す費用は修繕費です。買い替えや、損壊した資産の改良は、圧縮記帳の対象になり得ます(法人税法47条1項)。
工事の区分は修繕費と資本的支出の記事をご覧ください。

圧縮記帳でつまずくのは、だいたいこの6つです
圧縮記帳を使うときに誤りやすい形です。
- 休業中の売上補塡の保険金まで圧縮した ― 収益や費用の補塡分は対象外です(通達10-5-1(2))
- 商品・在庫の保険金を含めた ― 棚卸資産の保険金も対象外です(同(1))
- 見舞金を経費に入れて1号の金額を計算した ― 直接関連しない経費は除きます(同10-5-5)
- 種類の違う資産を買った ― 同一種類かは耐用年数省令の区分で判定します(同10-5-3)
- 所有権移転外リースで導入した ― その取得は代替資産から除かれます(法人税法47条1項)
- 申告書に明細を記載していない ― 明細の記載がある場合に限り適用されます(同条3項)
注意
圧縮記帳を使うなら、保険金の額が確定するまで滅失損を損金にしないのが原則です(通達10-5-2)。焼失した資産の損失を先に全額落とすと、計算がずれます。
多くの失敗は、保険金の内訳を分けないまま一括で処理することから始まります。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
被災の直後にご自身でできるのは4点です。
- 保険会社の支払明細を取り寄せ、建物・設備・在庫・休業補償に分ける
- 取壊費や焼跡の整理費の請求書を、見舞金などと分けて保管する
- 焼失した資産を固定資産台帳で特定し、被害直前の帳簿価額を確認する
- 建て直しか修繕か、いつまでに何を買うかの見込みを書き出す
圧縮するか、いくら圧縮するか、特別勘定を使うかは個別判断です。
利益の見込みや繰越欠損金の残りで、答えが変わります。

税理士が入ると変わるのは、内訳の整理と取得の段取りです
小松公認会計士・税理士事務所では、次の順で進めます。
ひとつめは、保険金の内訳の整理です。固定資産分と休業補償・在庫分を分けます。
ふたつめは、1号の金額の計算です。取壊費などの経費と見舞金などを仕分けます。
みっつめは、代替資産の取得計画です。同一種類か、期末に間に合うか、リースにしないかを確かめます。
よっつめは、圧縮記帳の仕訳と別表13(2)の作成です。特別勘定を使う期も同じです。
いつつめは、圧縮する場合としない場合の比較です。その期と翌期以降の所得を試算します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
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よくある質問(FAQ)
Q1. 建物が全焼し、保険金を受け取りました。保険金の全額に法人税がかかりますか?
保険金は益金ですが、焼失した建物の被害直前の帳簿価額と、取壊費・焼跡の整理費等の経費を差し引いた保険差益が課税の中心です。同一種類の代替資産を取得すれば、保険差益の範囲で圧縮記帳を検討できます(法人税法47条1項、施行令85条)。
Q2. 期末までに代わりの建物が完成しません。圧縮記帳はあきらめるしかありませんか?
あきらめる必要はありません。確定した決算で特別勘定を設ければ、その期に損金算入できます(法人税法48条1項)。期間は事業年度終了の日の翌日から2年を経過した日の前日までで、災害等で困難なときは税務署長の指定で延ばせます(施行令88条)。
Q3. 休業中の売上を補う保険金も、圧縮記帳の対象になりますか?
なりません。所有固定資産の滅失等に伴う休廃業等で減少する収益や費用の補塡に充てる保険金は、圧縮記帳の適用がありません(法人税基本通達10-5-1(2))。支払明細で、固定資産分と休業補償分を分けて処理します。
Q4. 圧縮記帳をすれば、その分の税金はなくなるのですか?
なくなりません。圧縮後の金額が償却の基礎になる取得価額とみなされるため(施行令54条3項)、後の償却費が小さくなり、課税が先送りされる形です。赤字の期などは、圧縮しない場合との比較も検討します。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法22条2項・47条1項・3項・4項・48条1項から4項・49条1項、法人税法施行令54条3項・84条・85条・86条・88条・89条・90条、法人税基本通達10-1-1・10-5-1から10-5-7・7-8-6、国税庁タックスアンサーNo.5608「保険金等で取得した固定資産等の圧縮記帳」の内容を扱っています。保険金等の支払に代えて代替資産の交付を受けた場合の圧縮限度額(法人税法47条2項、施行令87条)の計算、代替資産等が前事業年度以前に取得した減価償却資産である場合の割合(施行令85条1項括弧書き)、特別勘定の取崩し額の具体的な計算、適格組織再編成や期中特別勘定に係る取扱い、施行令84条各号の共済の範囲、立竹木の取扱い(通達10-5-1の2)、耐用年数・償却率の具体的な数値、法人税率・地方税を含む税額の試算、消費税の取扱い、個人事業者の保険金の取扱いは扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は保険金の内訳・経費・帳簿価額・代替資産の取得価額によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「法人税法」(22条・47条・48条・49条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(54条・84条から90条まで)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
- 国税庁 法人税基本通達 第10章第5節「保険金等で取得した資産等の圧縮記帳」(10-5-1から10-5-7まで)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/10/10_05.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第7章第8節「資本的支出と修繕費」(7-8-6)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_08.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5608 保険金等で取得した固定資産等の圧縮記帳https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5608.htm
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火災や事故で受け取った保険金は益金です。同一種類の代替資産を取得すれば、保険差益の範囲で圧縮記帳を検討できますが、休業補償や在庫の保険金、見舞金などは計算から外す必要があり、期末に間に合わなければ特別勘定の経理も要ります。代表税理士が、保険金の内訳の整理、保険差益と圧縮限度額の計算、代替資産の取得計画、圧縮記帳の仕訳と別表13(2)の作成、圧縮する場合としない場合の比較まで、通して対応します。代替資産を買う前、決算を迎える前の段階でご相談ください。
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