この記事のポイント
- 買った後の造成・埋立て・盛土・擁壁の費用は、原則として土地の取得費です
- 専ら建物のための地盤改良や構築物とする擁壁は、減価の分を差し引きます
- 負担金は何に対する負担かと、金額・支払を示す資料で判断します
- 資料が足りなければ売った金額の5%と比べます。5%への上乗せはできません
まず結論:造成・擁壁などの費用は、原則として土地の取得費に入ります
土地を買った後に払った造成や擁壁の工事費は、売るときに差し引けることがあります。
譲渡所得(売ったもうけ)は、売った金額から取得費と譲渡費用を引いて計算します。
取得費は、土地を手に入れ、良くするためにかかった金額です。
譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。
(所得税法38条1項)
買った後の埋立て・盛土・擁壁などの費用は、原則として土地の取得費に入ります。
ただし、専ら建物のための地盤改良や、構築物とする擁壁は扱いが変わります。
造成して分譲するときの所得の区分は、造成分譲の記事で扱います。

所得税基本通達38-10:造成・改良の工事は土地に入ります
土地そのものを良くする工事の費用は、土地の取得費です。
国税庁の通達(税務署の取扱いの指針)は、次のとおりです。
埋立て、土盛り、地ならし、切土、防壁工事その他土地の造成又は改良のために要した費用の額はその土地の取得費に算入するのであるが、土地についてした防壁、石垣積み等であっても、その規模、構造等からみて土地と区分して構築物とすることが適当と認められるものの費用の額は、土地の取得費に算入しないで、構築物の取得費とすることができる。
上水道又は下水道の工事に要した費用の額についても、同様とする。
(所得税基本通達38-10)
構築物とは、土地に定着する土木設備や工作物です(所得税法施行令6条2号)。
| 費用 | 原則 | 例外・注意 |
|---|---|---|
| 埋立て・盛土・地ならし・切土 | 土地の取得費 | 専ら建物のための地盛り等は建物等へ |
| 擁壁(防壁・石垣積み) | 土地の取得費 | 規模・構造から構築物が適当なものは構築物にできる |
| 上水道・下水道の工事 | 土地の取得費 | 擁壁と同様に扱う |
| 地質調査・地盤強化(地盤改良) | 土地の改良のためなら土地 | 専ら建物のためなら建物等へ |
同じ盛土でも、何のための工事かで、土地か建物かが分かれます。
タックスアンサー No.3252も、造成費用を取得費に挙げています。
建物・構築物に入る工事費は、減価の分を差し引きます
建物や構築物に入る工事費は、減価の額を引いた残りが取得費になります。
使用や期間の経過で価値が減る資産だからです(所得税法38条2項)。
専ら建物、構築物等の建設のために行う地質調査、地盤強化、地盛り、特殊な切土等土地の改良のためのものでない工事に要した費用の額は、当該建物、構築物等の取得費に算入する。
(所得税基本通達38-10の注1)
専ら家のための地盤改良は建物の取得費で、更地で売るときは土地に含めません。
業務に使っていない期間は、耐用年数の1.5倍の年数で減価を計算します(所得税法施行令85条)。
ポイント
賃貸など業務に使った期間は、必要経費にした償却費の累積額を引きます(所得税法38条2項1号)。同じ擁壁でも、土地に入れるか構築物に入れるかで取得費の額が変わります。

下水道や道路の負担金は、中身と支払の証拠で判断します
負担金は名前だけでは決まらず、中身と証拠を確かめます。
上水道・下水道の工事費は、通達38-10の第2文で擁壁などと同様とされています。
道路などの負担金は通達38-10が挙げる工事になく、土地の改良費といえるかを個別に検討します。
下水道の負担金が争われた裁判例があります(税務訴訟資料第264号-86。控訴・上告棄却で確定)。
原告は、下水導入負担金225万円を取得費に入れるよう求めました。
原告が上記の金額の下水導入負担金を支払ったことを認めるに足りる的確な証拠はない。
(東京地方裁判所平成26年4月25日判決)
負担金は、市の書面から1㎡300円で計算した7万3,071円にすぎないと認定されています。
負担金は、市区町村の通知書や領収書で、金額と支払った事実を示せるようにします。
この負担金は、譲渡費用(売るために直接必要な支出)にも当たらないとされました。
資料が足りないときは5%と比べます。上乗せはできません
5%の方法(概算取得費)は、取得費の全体に代えて使うものです。
売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、買い入れた時期が古いなど、取得費が分からない場合には、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。
(国税庁 タックスアンサー No.3258)
実際の取得費が5%を下回るときも、5%を使えます。
租税特別措置法31条の4第1項は、5%を所得税法38条に代わる取得費とします。
比べる相手は「その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額」です。
条文は昭和27年以前からの土地が対象で、以後の取得も準じます(措置法関係通達31の4-1)。
5%に造成費は足せません。資料で示せる実際の取得費と比べて選びます。
先の判決も、概算取得費240万円で申告した以上、それを下回る改良費は引けないとしました。
計算例
例:3,000万円で売却。購入代金1,200万円、擁壁・盛土工事300万円、仲介手数料など100万円
資料がそろう 取得費 1,200万円+300万円=1,500万円 譲渡所得 3,000万円-(1,500万円+100万円)=1,400万円 工事費の入れ忘れ 3,000万円-(1,200万円+100万円)=1,700万円(300万円多い) 資料が何もない 5%=150万円 → 3,000万円-(150万円+100万円)=2,750万円 150万円+300万円=450万円とする足し算はできません数値は一定の前提を置いた目安で、特別控除と税額は含めていません。
購入代金が分からないときは、取得費が分からないときの記事もご覧ください。

つまずきやすいのは、この5つの場面です
注意したいのは、工事費の振り分けと、支払を示す証拠です。
- 造成・擁壁の工事費を入れ忘れる ― 購入代金だけだと、譲渡所得が過大になります
- 地盤改良を土地に入れる ― 専ら建物のための工事は建物の取得費で、減価を引きます
- 賃貸中に償却した擁壁を、償却前の額で入れる ― 必要経費にした償却費の累積額を引きます
- 5%に工事費や負担金を足す ― 5%と実際の取得費は、どちらか一方です
- 負担金の額を資料なしで主張する ― 判決では、主張225万円に対し認定は7万3,071円でした
注意
事業所得などの必要経費に入れた費用は、取得費に含まれません(タックスアンサー No.3252)。経費にした工事費を、取得費へ二重に入れていないか確かめます。
費用の線引きの全体像は、取得費と譲渡費用の線引きの記事をご覧ください。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
工事の棚卸しと資料集めはご自身でできますが、振り分けは個別判断です。
- 買った後に行った工事を、年ごとに書き出す
- 工事の請負契約書・請求書・領収書・図面を集める
- 市区町村からの負担金の通知書と領収書を探す
- 購入時の売買契約書と、売る金額の5%を並べる
ここから先は、資料と事情で結論が変わります。
擁壁を土地と構築物のどちらにするか、地盤改良の帰属、賃貸期間の償却費です。
負担金の中身や、資料が一部欠けるときの取得費の組み立ても同じです。
補足
相続(限定承認を除く)や贈与で取得した土地は、前の所有者の取得費と取得時期を引き継ぎます。根拠は所得税法60条1項です。前の所有者が払った造成費の資料も、取得費の根拠になります。

税理士が入ると変わるのは、工事費の振り分けと根拠です
税理士が入ると、工事費ごとに行き先と根拠を決めてから申告します。
ひとつめは、工事の資料から、土地・建物・構築物に振り分けることです。
ふたつめは、建物・構築物に入る分の減価の額や、賃貸期間の償却費の累積額を出すことです。
みっつめは、負担金の中身を確かめ、市区町村の資料で金額を裏づけることです。
よっつめは、実際の取得費と5%を比べ、確定申告書と計算明細に反映することです。
小松公認会計士・税理士事務所では、工事の資料の読み取りから適正申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
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よくある質問(FAQ)
Q1. 擁壁工事の費用は、土地と構築物のどちらに入れますか?
原則は土地の取得費です(所得税基本通達38-10)。ただし、規模・構造からみて構築物とすることが適当なものは、構築物の取得費にできます。構築物にすると、持っていた期間の減価の額を差し引きます(所得税法38条2項)。
Q2. 家を建てる前の地盤改良の費用は、土地の取得費ですか?
専ら建物を建てるための地盤強化など、土地の改良のためでない工事は建物の取得費です。根拠は所得税基本通達38-10の注1です。家も一緒に売るなら減価を引いて取得費にし、土地だけ売るなら土地に含めません。土地の改良のための工事なら、土地の取得費です。
Q3. 下水道の負担金は、取得費になりますか?
何に対する負担か、支払った事実と金額を確かめて個別に判断します。東京地裁平成26年4月25日判決は、主張額を支払った的確な証拠がないとしました。市の書面から、負担金は7万3,071円にすぎないと認定しています。申告した5%(240万円)を下回るため取得費として引けず、譲渡費用にも当たらないとされました。
Q4. 造成費の領収書はありますが、購入代金が分かりません。5%に足せますか?
足せません。概算取得費(売った金額の5%)は、所得税法38条の取得費に代えて使う方法です。根拠は租税特別措置法31条の4第1項です。資料で示せる実際の取得費と5%を比べて選びます。判決も、5%で申告した以上、それを下回る改良費は引けないとしました。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法38条1項・2項、60条1項、所得税法施行令6条2号・85条、租税特別措置法31条の4第1項、所得税基本通達38-10(注1を含む)、租税特別措置法関係通達31の4-1、国税庁タックスアンサー No.3252・No.3258、東京地方裁判所平成26年4月25日判決(税務訴訟資料第264号-86)の内容を扱っています。構築物の耐用年数と減価の額の具体的な計算、擁壁を土地と構築物のどちらとするかの具体的な判断基準、道路など公共施設の負担金の個別の扱い、事業や賃貸に使う土地の負担金の必要経費としての扱い、土地の測量費、借地の整地費用(借地権の取得費)、建物を取り壊して土地を売る場合の建物の損失と取壊し費用、造成して分譲する場合の所得区分、相続税の取得費加算、特別控除の要件、譲渡所得の税率と税額の計算は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は購入代金・工事の内容と金額・使い方・資料の有無によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索 所得税法https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 国税庁 所得税基本通達 法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》関係https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/18.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3252 取得費となるものhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3258 取得費が分からないときhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
- 国税庁 税務訴訟資料 第264号-86(順号12467)東京地方裁判所 平成26年4月25日判決https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2014/pdf/12467.pdf
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