この記事のポイント
- 相続登記は取得を知った日から3年以内に申請する義務があります
- 施行日前の相続も対象で、令和9年3月31日までに登記が必要です
- 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります
- 相続人申告登記では売れません。売却には相続登記が要ります
まず結論:相続した家は、登記を済ませないと売れません
相続した不動産を売るには、先に名義を相続人へ変える必要があります。
理由は、不動産登記法60条にあります。
権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。
(不動産登記法第六十条)
買主へ所有権を移す登記も、売主と買主が共同で申請します。
名義が亡くなった方のままでは、売主になれません。
民法896条は「相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。
所有権は亡くなった時点で移ります。それでも登記簿は自動では書き換わりません。
買主が決まってから、ここで止まる方が多くいます。

期限は3年。施行日前の相続は令和9年3月31日までです
相続登記は、令和6年4月1日から申請が義務になりました。
不動産登記法76条の2第1項の定めです。
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
(不動産登記法第七十六条の二第一項)
起算日は、亡くなった日ではなく「知った日」です。
施行日より前の相続も対象です。法務省の説明です。
施行日より前に開始した相続によって不動産を取得した場合であっても、相続登記をしていない場合には、相続登記の申請義務化の対象となり、令和9年3月31日まで(不動産を相続で取得したことを知った日が令和6年4月以降の場合は、その日から3年以内)に相続登記をしていただく必要があります
(法務省「相続登記の申請義務化について」)
| 義務の種類 | 起算日 | 期限 |
|---|---|---|
| 基本的義務(76条の2第1項) | 相続の開始と取得を知った日 | 3年以内 |
| 施行日前に知った相続 | ― | 令和9年3月31日まで |
| 遺産分割の追加的義務(同条2項ほか) | 遺産分割が成立した日 | 3年以内 |
祖父母の代の名義の土地も、対象です。
ポイント
法務省は、義務は不動産を相続で取得したことを「知った日」から始まるとしています。まず物件の洗い出しからです。
過料は10万円以下。いきなり科されるわけではありません
怠ったときの制裁は、不動産登記法164条1項が定めています。
…第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
(不動産登記法第百六十四条第一項)
法務省が示す流れは3段階です。登記官が催告書を送り、期限内に登記がなければ裁判所へ通知し、裁判所が過料を科するかを判断します。
催告を受けても、正当な理由があると認められれば通知は行われません。
法務省は、一般に正当な理由が認められる場合を5つ挙げています。
- 相続人が極めて多数で、戸籍の収集に時間を要する場合
- 遺言の有効性や遺産の範囲が争われている場合
- 重病その他これに準ずる事情がある場合
- 配偶者からの暴力の被害者等で、避難している場合
- 経済的に困窮して、費用を負担できない場合
この5つ以外でも個別の事情で認められることはありますが、「忙しかった」「知らなかった」は入っていません。
補足
催告の端緒は2つに限られています。①遺言に基づく移転登記をしたが、遺言書に別の不動産も同じ相続人に相続させる旨があったとき、②遺産分割に基づく登記をしたが、協議書に別の不動産も同じ相続人が相続する旨があったとき。一部だけ登記した場面です。

相続人申告登記は「義務を果たす」だけ。売却には使えません
相続人申告登記は、売却の準備にはなりません。
3年以内に分割がまとまらないときの受け皿が、不動産登記法76条の3です。
期間内に登記官へ自分が相続人である旨を申し出れば、同条2項により義務を履行したものとみなされます。
単独で申し出ることができ、法定相続分の確定も不要で、登録免許税もかかりません。
ただし、法務省は限界を明記しています。
不動産についての権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には、別途、相続登記の申請をする必要がある
(法務省「相続人申告登記について」)
申告登記を済ませても、その不動産は売れません。
注意
果たせるのは基本的義務だけです。遺産分割が成立した後の登記義務は履行できません(76条の3第4項。分割の日から3年以内)。また義務を果たしたとみなされるのは申し出た相続人だけで、全員分は自動では及びません。
税務の期限は、登記の期限より後に来ます
売却の税金には、登記とは別の期限があります。
ひとつは取得費加算の特例です。相続税の一部を取得費に足せます。
国税庁タックスアンサーNo.3267は、こう書いています。
その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。
(国税庁タックスアンサーNo.3267)
相続税の申告期限は、死亡を知った日の翌日から10か月です(同No.4205)。
合わせると、実質は相続開始からおよそ3年10か月です。
もうひとつは空き家の3,000万円特別控除です。要件は「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること」です(同No.3306)。
計算例
例:令和6年5月10日に相続が開始し、同じ日に取得を知った場合
相続登記の申請期限 = 令和9年5月10日(知った日から3年) 空き家特例の譲渡期限 = 令和9年12月31日 取得費加算の譲渡期限 = 令和10年3月10日(申告期限の翌日以後3年)一定の前提を置いた当事務所の試算です。期間の数え方で1日ずれる余地があるため、日の確定は個別にご確認ください。
登記の3年が先に来て、税務の期限が後から来ます。
期限からの逆算は相続した不動産の売却は「期限」から逆算しますで扱っています。

よくある失敗は、この4つです
- 買主が決まってから名義に気づく ― 戸籍集めからやり直しで、決済日に遅れます
- 相続人申告登記で済ませたつもり ― 売却には相続登記が別に要ります
- 分割がまとまらないまま3年が過ぎた ― 分割前は全員が共有で、全員に義務があります
- 登記に時間をかけ、特例を逃した ― 空き家特例は3年目の12月31日で切れます
どれも、期限そのものより段取りの問題です。
放置中に相続人が亡くなると、話し合う相手が増えます。
取得費の資料も、時間が経つほど見つかりにくくなります。この点は被相続人の取得費をさかのぼって調べる方法で扱っています。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
ご自身で進められるのは、次の4点です。
- 亡くなった方の不動産を洗い出す(令和8年2月2日施行の所有不動産記録証明制度を使えます)
- 登記事項証明書を取り、名義が誰のままかを確認する
- 固定資産税の課税明細書で、評価額と物件の数を確認する
- 相続人の範囲を把握し、遺産分割の話し合いを始める
ここから先は個別判断です。
誰の名義にすると売却時の税負担が軽くなるかは、事案ごとに変わります。
空き家特例は、取得した相続人が3人以上だと控除額が2,000万円に下がります。
取得費加算とは選択の関係で、同じ資産に重ねては使えません。
試算の考え方は相続した実家を売却したら税金はいくらをご覧ください。

登記は司法書士、税務は税理士 ― 当事務所が担う部分
登記申請の代理は、司法書士の業務です。
法務省も、相談先として法務局と司法書士を案内しています。
税理士が担うのは、その手前と後ろです。ひとつめは、分け方ごとの譲渡所得の試算です。
ふたつめは、空き家特例と取得費加算のどちらを使うかの判定です。
みっつめは、登記・分割・譲渡・申告の期限をまとめた表の作成です。
よっつめは、必要資料の指示と確定申告です。譲渡所得の内訳書まで作成します。
売る前に試算すると、分け方そのものが変わることがあります。
小松公認会計士・税理士事務所では、司法書士と連携しながら、譲渡所得の計算から確定申告まで続けて担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
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初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続登記はいつまでにすればよいですか?
不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内です(不動産登記法76条の2第1項)。法務省は、施行日前に相続したことを知った不動産で登記がされていないものについて「令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります」としています。
Q2. 相続登記をしないと、いくら過料が科されますか?
不動産登記法164条1項は「正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する」と定めています。法務省は「過料は、10万円以下の範囲内で裁判所において決定されます」としており、催告を経ても申請がない場合に裁判所へ通知されます。
Q3. 相続人申告登記をすれば、相続した家を売れますか?
売れません。法務省は「不動産についての権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には、別途、相続登記の申請をする必要がある」としています。売却の予定があるなら、はじめから相続登記を目指してください。
Q4. 登記を急ぐと、税金の特例にも関係しますか?
関係します。取得費加算は「相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」の譲渡が要件です(No.3267)。空き家特例は相続開始から3年目の12月31日までです(No.3306)。登記が遅れると売却も遅れます。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。不動産登記法60条・76条の2・76条の3・119条の2・164条、民法896条、法務省「相続登記の申請義務化について」「相続登記の申請義務化に関するQ&A」「相続人申告登記について」、国税庁タックスアンサーNo.3267・No.3306・No.4205の内容を扱っています。登記申請の代理は司法書士の業務であり、当事務所が登記を代理するものではありません。具体的な登記手続は法務局または司法書士にご確認ください。記事中の期限の例は、一定の前提を置いて当事務所が計算した目安であり、期間計算の初日算入・不算入によって1日ずれる余地があります。民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第6項の条文そのもの、登記費用や司法書士報酬の額、相続人申告登記の処理期間、過料の運用実績、住所変更登記の義務化の施行日、相続放棄・数次相続の手続、空き家特例の耐震基準や被相続人居住用家屋等確認書の詳細は扱っていません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「不動産登記法」https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 法務省「相続登記の申請義務化について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- 法務省「相続人申告登記について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html
- 国税庁タックスアンサーNo.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
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