法人税・節税

奨学金の代理返還で社員の所得税は非課税になる?
手当との違いと会社の経費

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 社員の奨学金を日本学生支援機構へ直接送り、給与に上乗せするなら所得税は非課税となり得ます
  • 給与を減らして充てる形は非課税にならず、健康保険・厚生年金の報酬等にも入ります
  • 役員の分と、社長の家族だけを対象にした分は、給与として課税されます
  • 社員への代理返還は賃上げ促進税制の給与等に入ります(役員の親族などは除く)

まず結論:機構へ直接送金し、給与に上乗せする形なら非課税となり得ます

社員の奨学金を、会社が肩代わりして返す制度があります。

日本学生支援機構(JASSO)の「企業等の奨学金返還支援(代理返還)制度」です。

会社が返還残額の一部または全額を、社員に代わって機構へ直接送金します。

対象は機構の貸与奨学金(第一種・第二種)です。

通常の給与に上乗せして直接送金する形なら、社員の所得税は非課税となり得ます。

給与を減らして充てる形、役員の分、社長のご家族だけを対象にした分は給与として課税されます。

手当として本人に渡す形も、非課税とするのは難しいとされています。

会社が機構へ直接送金するのが基本の形です
会社が機構へ直接送金するのが基本の形です

非課税の根拠は「学資金」の規定と国税庁の質疑応答事例です

直接送金の代理返還は、非課税の学資金として扱える場合があります。

所得税法9条1項15号は、学資に充てるため給付される金品を、一定のものを除き非課税とします。

国税庁は、返済に充てる給付は直接学資に充てられないため、原則は学資金に当たらないとします。

そのうえで、県が財団へ直接送金する事例で、次の考え方を示しました。

奨学金の返済に充てるための給付は、その奨学金が学資に充てられており、かつ、その給付される金品がその奨学金の返済に充てられる限りにおいては、通常の給与に代えて給付されるなど給与課税を潜脱する目的で給付されるものを除き、これを非課税の学資金と取り扱っても、課税の適正性、公平性を損なうものではないと考えられます。

(国税庁 質疑応答事例「奨学金の返済に充てるための給付は『学資に充てるため給付される金品』に該当するか」)

日本学生支援機構は、企業の代理返還の所得税も「非課税となり得ます」と案内しています。

会社が払う場合は、次の2つも条件です(タックスアンサーNo.2588)。

  • 通常の給与に加算して支給すること
  • 役員や、役員・社員の親族など「特別の関係がある者」の学資でないこと(例外は後述)

手当で渡す形や、給与を減らして充てる形は扱いが変わります

給与を減らし、その分を返還に充てる形は給与として課税されます(タックスアンサーNo.2588)。

通常の給与に代えて給付されるものは、非課税とならないためです(所得税基本通達9-14)。

手当として本人に払う形も、日本学生支援機構は「所得税非課税とするのは難しい」と見ています。

健康保険・厚生年金の保険料のもとになる「報酬等」も、払い方で分かれます。

払い方所得税社会保険の報酬等
給与とは別に、会社が機構へ直接送金非課税となり得る該当しない
手当として社員に支給非課税とするのは難しい該当する
給与規程等で給与に代えて直接送金課税される該当する

社会保険の欄は、次の事例集によります。

なお、給与規程等に基づき、事業主が給与に代えて直接返還金を送金する場合は、労働の対償である給与の代替措置に過ぎず、事業主が被保険者に対して直接返還金を支給しない場合であっても「報酬等」に該当する。

(日本年金機構掲載「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」)

払い方で税金と社会保険の扱いが変わります
払い方で税金と社会保険の扱いが変わります

会社では給与として損金になり、賃上げ促進税制の給与等にも入ります

日本学生支援機構は、社員への代理返還は給与として損金(法人税の計算で差し引ける費用)になるとします。

賃上げ促進税制(給与の増加額の一部を法人税から差し引ける制度)の計算にも入ります。

事業者が従業員の貸与型奨学金の代理返還に充てる経費は給与等に含まれます。

(中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」)

中小企業向けは令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象です。根拠は租税特別措置法42条の12の5第2項です。

計算例

例:前期の給与等が30,000,000円の中小企業が、社員3人(役員の親族以外)の代理返還を始めた場合

代理返還の額 15,000円 × 12か月 × 3人 = 540,000円 代理返還を除く当期の給与等 30,300,000円(前期比1.0%増) 代理返還を含む当期の給与等 30,300,000円 + 540,000円 = 30,840,000円(2.8%増) 控除額の目安 (30,840,000円 - 30,000,000円)× 30% = 252,000円

2.5%以上の増加で控除率は30%です。入れ忘れると1.0%増で、1.5%の要件に届きません。

青色申告で明細書を添付し、法人税額の20%の上限内とした目安です。自治体の補助は、給与等の額から差し引くことがあります。

教育訓練費の上乗せは令和8年4月1日以後に開始する事業年度にはないため、入れていません。

役員の分と、社長のご家族だけを対象にした分は給与として課税されます

役員への代理返還と、社長のご家族だけを対象にした代理返還は、非課税になりません。

所得税法9条1項15号イ・ロは、役員の学資と、役員や社員の親族などの学資を非課税から除きます。

ただし、その人自身が社員で、制度がその人たちだけを対象にしないなら別です。

この場合は同号ロに当たらないものとして扱えます(所得税基本通達9-16)。

ご家族以外の社員も使える制度にすることが分かれ目です。

注意

役員への代理返還が損金になるかは、役員給与の規定で判断します(法人税法34条)。定期同額給与(毎月同額の給与)などに当たらないと、損金になりません。役員の親族である社員への給与(代理返還を含む)は、高すぎる部分が損金になりません(同法36条)。役員とその親族などは、賃上げ促進税制の集計にも入りません(措置法42条の12の5第4項2号)。ご家族だけを対象にした分は、誰の給与として扱うかを含めて個別判断です。

特定の人だけが対象だと課税の問題が生じる点は、福利厚生の記事でも扱っています。

役員やご家族が入るときは制度の作り方から確かめます
役員やご家族が入るときは制度の作り方から確かめます

失敗パターン:この5つの形は、課税や集計漏れにつながります

次の5つは、どれも事前の確認で防げる形です。

  • 給与を月15,000円減らし、代理返還に回す ― 給与に代えた支給として課税され、報酬等にも該当します。
  • 「奨学金手当」を本人の口座に振り込む ― 非課税は難しく、報酬等にも該当します。
  • 社長の長男である社員だけを対象にする ― 特別の関係がある者だけへの給付として課税されます。
  • 取締役の代理返還を非課税で処理する ― 役員の学資は非課税の対象外で、損金の判断も別に要ります。
  • 代理返還を給与等に入れずに集計する ― 増加割合が低く出て、要件に届かないことがあります。

払い方と対象者は、社内規程を作る段階で決まります。

会社が学費を出す形や、貸して返還を免除する形は資格取得費と研修費の記事で扱っています。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

ご自身で進められるのは、次の4点です。

  1. 対象にする社員の範囲と、支援の月額・期間・上限額を決める
  2. 社員本人に、奨学生番号と返還残額を確かめてもらう
  3. 日本学生支援機構へ、電話かFAXで利用を申し込む
  4. 社内規程に「通常の給与に上乗せ」「対象者の範囲」「休職・退職で中断」を書く

口座振替は毎月6日の引き落としで、1件135円の手数料は会社負担です。

口座振替の支援期間は開始から1年以内しか登録できず、続けるには登録し直します。

返還期限猶予中や減額返還中の社員は、原則として支援できません。

補足

日本学生支援機構は、会社が社員に返還額を求めること(求償)を想定していません。退職時に返してもらう定めは、置く前に検討します。

役員やご家族が入るとき、既存の手当から切り替えるときは、会社ごとの個別判断です。

口座振替の支援期間は、1年を超えると登録し直します
口座振替の支援期間は、1年を超えると登録し直します

税理士が入ると変わるのは、規程の文言と対象者ごとの課税判定です

小松公認会計士・税理士事務所では、制度を始める前から次の作業を行います。

ひとつめは規程案の確認です。給与への上乗せと対象範囲を、条文と通達に照らします。

ふたつめは判定表の作成です。社員・役員・役員のご家族に分け、課税の有無を整理します。

みっつめは給与計算と仕訳の区分です。課税になる人の分を給与に含め、科目を決めます。

よっつめは賃上げ促進税制の試算です。代理返還を含めて増加割合を出し、明細書に反映します。

いつつめは役員への支援の検討です。役員給与として損金になる形かを確かめます。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

小松公認会計士・税理士事務所 代表 小松優馬 登録者6,900人超

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よくある質問(FAQ)

Q1. 会社が社員の奨学金を代わりに返すと、社員に所得税はかかりますか?

会社が日本学生支援機構へ直接送金し、通常の給与に上乗せして払う形なら非課税となり得ます。根拠は所得税法9条1項15号と国税庁の質疑応答事例です。役員の場合や、社長のご家族だけを対象にする場合は課税されます。

Q2. 給与の一部を奨学金の返還に回す形にしてもよいですか?

給与を減らして、その分を返還に充てる形は非課税になりません。根拠は所得税基本通達9-14とタックスアンサーNo.2588です。健康保険・厚生年金でも、給与に代えて送金する形は「報酬等」に該当するとされています。

Q3. 代理返還した金額は、会社の経費になりますか?

社員への代理返還は、給与として損金算入されると日本学生支援機構は案内しています。役員への支援は、役員給与の規定(法人税法34条)で判断します。役員の親族である社員への支援は、過大な部分の規定(同法36条)なども確かめます。

Q4. 代理返還は、賃上げ促進税制の計算に入りますか?

中小企業庁のガイドブックは、奨学金の代理返還に充てる経費は給与等に含まれるとしています。ただし役員と役員の親族などは集計の対象外です。中小企業向けは令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象です。

免責事項

本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法9条1項15号、所得税基本通達9-14・9-16、タックスアンサーNo.2588「学資に充てるための費用を支出したとき」、国税庁の質疑応答事例「奨学金の返済に充てるための給付は『学資に充てるため給付される金品』に該当するか」、法人税法34条・36条、租税特別措置法42条の12の5第2項・第4項、中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」、日本学生支援機構の「企業等の奨学金返還支援(代理返還)への対応」とQ&A、日本年金機構が掲載する「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の内容を扱っています。雇用保険料・労働保険料の扱い、個人住民税、源泉徴収の手続、役員への代理返還が定期同額給与に当たるかどうか、役員やそのご家族の社会保険の扱い、退職時に返還を求める定めの課税関係、日本学生支援機構以外の奨学金、会社が貸して返還を免除する社内奨学金、地方公共団体による補助制度、個人事業主が行う代理返還、賃上げ促進税制の中堅企業向けの措置・認定による上乗せ・繰越控除は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の控除額は会社ごとの給与等の額と法人税額によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

奨学金の代理返還を始める前に、規程と対象者を確かめませんか

会社が日本学生支援機構へ直接送金し、給与に上乗せして払う代理返還は、所得税が非課税となり得ます。一方で、給与を減らして充てる形や役員への支援は、給与として課税されます。社長のご家族だけを対象にする形も同じです。代表税理士が、規程案の確認と対象者ごとの課税判定から始めます。給与計算と仕訳の区分、賃上げ促進税制の集計、役員への支援の損金の検討まで通して対応します。制度を社内に告知する前の段階でご相談ください。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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