不動産譲渡所得

妻に持分を贈与してから売れば3,000万円控除は2人分?
おしどり贈与と売却

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

YouTubeチャンネルを見る →

この記事のポイント

  • 婚姻期間20年超なら最高2,000万円の贈与税の配偶者控除があります
  • 要件の1つは贈与の翌年3月15日以後も引き続き住む見込みです
  • 控除目的だけの入居は3,000万円控除の適用除外です
  • 贈与しても取得費は贈与した人から引き継ぎます

まず結論:制度はありますが、売るための贈与は要件とぶつかります

「妻に持分を贈与してから売れば、3,000万円控除が2人分になる」というお話があります。おしどり贈与(夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの贈与税の配偶者控除)は、たしかに存在する制度です。

ただし、この制度には要件があります。「贈与を受けた後も引き続き住む見込みであること」という要件が、売るための贈与と正面からぶつかります。

使えるかどうかは、個々のご事情で変わります。まず制度の中身を確かめてください。

ポイント

この記事は、おしどり贈与の要件と、その後に売ったときの取得費の扱いを整理したものです。有利か不利かの結論は、ご事情と時系列を拝見しないと決められません。

売るための贈与は、おしどり贈与の要件と正面からぶつかります
売るための贈与は、おしどり贈与の要件と正面からぶつかります

3,000万円の特別控除は、譲渡した人ごとに判定します

最初に、疑問の出どころを確かめます。マイホーム(居住用財産=ご自身が住んでいた家と土地)を売ったときの特例があります。所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。

この特別控除は、居住用財産を譲渡した人ごとに判定されます。共有で売ったときの考え方は共有名義の不動産を売却したときの3,000万円控除の記事にまとめています。

制度そのものの全体像はマイホームを売ったときの3,000万円特別控除の記事で説明しています。

なお、売ったときに2つ以上マイホームを持っていた場合は、主として住まいに使っていた家屋だけが対象です。

ここから「売る前に持分を分けておけば」という発想が出てきます。問題は、その分け方が贈与税の側の要件を満たすかどうかです。

おしどり贈与の要件は3つです

この制度は、婚姻期間が長いご夫婦のための特例です。贈与税の申告をすることにより、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できます。

対象になるのは、居住用不動産の贈与、または居住用不動産を取得するための金銭の贈与です。

金銭をもらった場合も、そのお金で居住用不動産を取得することが前提になります。要件は次の3つです。

  1. 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
  2. 贈与された財産が居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭であること
  3. 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその居住用不動産に現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

補足

この特例を受けるには、一定の書類を添えて贈与税の申告をすることが必要です(国税庁タックスアンサーNo.4452)。申告をしなければ、控除は受けられません。

おしどり贈与の要件は婚姻期間20年超・居住用不動産・居住の継続の3つです
おしどり贈与の要件は婚姻期間20年超・居住用不動産・居住の継続の3つです

3つ目の要件が「すぐ売る」と正面からぶつかります

ここがこの記事のいちばん大事なところです。3つ目の要件には「その後も引き続き住む見込みであること」と書かれています。

贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること(国税庁タックスアンサーNo.4452)

売るための贈与は、この一文とぶつかります。贈与の翌年3月15日の時点で、引き続き住む見込みが求められるからです。

譲渡所得の側にも、見落とせない定めがあります。No.3302は「この特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋」を適用除外としています。

一時的な仮住まいとして使用された家屋、別荘など趣味・娯楽・保養の目的で所有する家屋も対象外です。売手と買手が特別の関係にある人でないことも要件です。

売った年の前年および前々年に、この特例やマイホームの譲渡損失の特例を受けていないことも求められます。

贈与税の側の要件と、譲渡所得の側の適用除外は、別々に判定されます。片方を満たしても、もう片方で外れることがあります。

注意

売却の話が進んでいる状態で持分だけを移すと、「引き続き住む見込み」を説明できるかが問題になります。贈与の日と売買契約の日が近いほど、説明は難しくなります。

控除を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋は適用除外です
控除を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋は適用除外です

贈与しても、取得費は上がりません

もうひとつ、見落とされやすい点があります。贈与でもらった不動産の取得費は、贈与した人から引き継ぎます。

所得税法60条1項1号は、次のように定めています。

居住者が次に掲げる事由により取得した…資産を譲渡した場合における…譲渡所得の金額…の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
一 贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)(所得税法60条1項1号)

「引き続きこれを所有していたものとみなす」とあります。贈与の時の時価が、新しい取得費になるわけではありません。

つまり、持分を贈与しても売ったときの譲渡益そのものは減りません。取得費の引継ぎは贈与や相続でもらった不動産を売るときの取得費の記事で詳しく説明しています。

取得の時期も同じように引き継ぎます。所有期間が贈与の日から数え直しになることはありません。

贈与税がかからなくても、かかる税金と手続があります

贈与税がゼロでも、費用がゼロになるわけではありません。登録免許税と不動産取得税は、別途かかります。名義を移す登記の実費や、司法書士への報酬も生じます。

手続も増えます。配偶者控除を受けるには、贈与税の申告書に一定の書類を添えて提出します。

提出書類は3種類です。贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された、戸籍の謄本または抄本と、戸籍の附票の写しが必要です。

あわせて、贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証する登記事項証明書その他の書類を添えます。

売った年には、譲渡所得の確定申告も必要です。3,000万円の特別控除を受ける場合は、譲渡所得の内訳書を添えます。

補足

本記事では、贈与税・登録免許税・不動産取得税の税率は扱っていません。費用と手間まで含めて見ると、贈与そのものが目的に合うかどうかの見え方が変わります。

贈与税がかからなくても登録免許税と不動産取得税は別途かかります
贈与税がかからなくても登録免許税と不動産取得税は別途かかります

ここまではご自身で確認できます/ここからは個別判断

手を動かせることがあります。出発点は、婚姻期間と、その家に住み続けるお考えがあるかどうかです。

  1. 戸籍で、婚姻期間が20年を過ぎているかを確かめる
  2. 贈与を受ける配偶者が翌年3月15日までに現実に住み、その後も住み続ける見込みかを整理する
  3. その家が、ご夫婦の主たる住まいかを確かめる
  4. 売った年の前年・前々年に3,000万円控除などを受けていないかを確かめる
  5. 買主が特別の関係にある人に当たらないかを確かめる
  6. 購入時の売買契約書と領収証を探す(取得費が分かります)

ここから先は個別判断です。贈与が要件を満たすか、譲渡の側で適用除外に当たらないかは、ご事情と時系列を見ないと決められません。

小松公認会計士・税理士事務所では、要件を1つずつ突き合わせ、入れ忘れを防ぐことに力を入れています。ご資料と経緯を拝見し、実態に合う道すじを整理してお伝えします。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

小松公認会計士・税理士事務所 代表 小松優馬 登録者6,900人超

小松公認会計士・税理士事務所 代表

小松 優馬公認会計士・税理士

  • お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
  • 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
  • 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます

YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる

初回相談は無料です。相談だけで終えていただいて構いません。

あわせて読みたい

よくある質問(FAQ)

Q1. 妻に持分を贈与すれば、3,000万円控除は2人分使えますか?

3,000万円の特別控除は譲渡した人ごとに判定されます。ただし贈与税の配偶者控除には「引き続き住む見込み」という要件があり、No.3302には控除目的だけの入居を除外する定めもあります。個々の事情で結論が変わります。

Q2. 婚姻期間20年は、いつの時点で数えますか?

国税庁タックスアンサーNo.4452は「夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと」を要件としています。贈与の時点で20年を過ぎている必要があり、20年に満たない時期の贈与は対象になりません。

Q3. 贈与を受けた不動産の取得費は、贈与時の時価になりますか?

なりません。所得税法60条1項1号により、引き続き所有していたものとみなされます。取得費も取得の時期も贈与した人から引き継ぐため、贈与によって譲渡益が小さくなるわけではありません。

Q4. 贈与税がかからなければ、費用はかかりませんか?

登録免許税と不動産取得税は別途かかります。配偶者控除を受けるには、戸籍の謄本または抄本、戸籍の附票の写し、登記事項証明書などを添えて贈与税の申告が必要です。売った年には譲渡所得の申告も必要です。

免責事項

本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。国税庁タックスアンサーNo.4452・No.3302および所得税法60条1項1号の範囲を扱っています。贈与税の税率表と具体的な贈与税額、登録免許税・不動産取得税の税率、「特別の関係にある人」の範囲の具体的な列挙、相続開始前の生前贈与加算との関係、共有で売ったときの税額の試算、贈与税および譲渡所得の申告書の書き方は扱っていません。本記事には税額の計算例を含めていません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

贈与するかどうかを決める前に、要件を突き合わせませんか

持分を移してから売るという順番は、贈与税の側と譲渡所得の側の両方で要件が問われます。登記を入れてしまうと後戻りができません。婚姻期間・今後の住まい方・売却の予定を伺えれば、どの要件が論点になるのかを整理してお伝えします。代表税理士が直接ご対応します。

無料相談を申し込む 不動産売却の確定申告サポートを見る 約60秒で料金を自動見積り

小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者6,500人超)。

関連記事

不動産譲渡所得の料金
令和8年分 確定申告 お引き受け開始中

不動産売却の料金を約60秒で確認

譲渡対価規模・特例適用を選ぶだけ。今なら全項目10%OFF後の特価がその場で分かります

個人 60秒見積り

夫婦間の不動産の贈与と売却のご相談

初回相談は無料です。代表が直接ご対応します。

不動産売却の確定申告サポートを見る
法人60秒見積り 個人60秒見積り