この記事のポイント
- ローンの残高は譲渡所得の計算に出てきません。利益が出る売却なら、変わるのは手取りです
- 返済に伴い自分の借入れの抵当権を外す費用は、公表裁決で譲渡費用と認められていません
- 繰上げ返済の手数料は個別判断です。繰上返済の違約金を譲渡費用と認めなかった裁決があります
- 3,000万円控除は確定申告が必要。残債が残り損が出るなら譲渡損失の特例も確認
まず結論:ローンの残高は、税金の計算に出てきません
住宅ローンが残る家を売っても、譲渡所得の計算は通常と同じです。
譲渡所得とは、家などを売ったもうけのことです。税金がかかる額は、次の式で計算します。
課税長期譲渡所得金額=譲渡価額(収入金額)-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
(国税庁 タックスアンサー No.3208。売った年の1月1日で所有期間が5年を超える場合)
取得費は買ったときの代金や手数料など、譲渡費用は売るために直接かかった費用です。
式にローンの残高はありません。利益が出る売却なら、税額は残高と関係なく決まり、残高で変わるのは手取りです。

売るときに動くお金は、計算に入るものと入らないものに分かれます
譲渡所得の計算で売却代金から引くのは、取得費と譲渡費用です。
| お金の種類 | 譲渡所得の計算での扱い | 確かめた根拠 |
|---|---|---|
| 売却代金 | 収入金額に入る | タックスアンサー No.3208 |
| 仲介手数料・売主が負担した印紙税 | 譲渡費用として引く | タックスアンサー No.3255 |
| ローンの返済(元本) | 計算の式に出てこない | タックスアンサー No.3208 |
| 抵当権の抹消費用 | 公表裁決は譲渡費用に当たらないと判断 | 平成13年6月26日裁決 |
| 繰上げ返済の手数料 | 国税庁の例になく個別判断。違約金を譲渡費用と認めなかった裁決あり | 所得税基本通達33-7 |
費用の線引き全般は測量費や取壊し費用の線引きの記事にまとめています。
扱いを確かめたいのは、抵当権の抹消費用と繰上げ返済の手数料です。
抵当権の抹消費用は、公表裁決で譲渡費用と認められていません
自分の借入れのための抵当権を返済に伴って外す費用は、裁決で譲渡費用に当たらないとされました。
抵当権とは、ローンの担保として家や土地に付ける権利です。返せないときは、銀行がその家や土地から、ほかの債権者より先に回収できます。
通達は、譲渡費用の1つめをこう定めています。
資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用
(所得税基本通達33-7(1))
登記の費用も並んでいますが、全体は「譲渡のために直接要した費用」の例です。
抵当権の抹消費用については、国税不服審判所の裁決があります。
債務者である請求人が債務の担保として供するため設定した抵当権を債務を弁済することに起因して抹消するために支出したものであって、たまたま抵当権が設定されている土地の譲渡の際に支出されたものであり、当該譲渡のために直接要した費用とは認められず
(国税不服審判所 平成13年6月26日裁決・裁決事例集No.61 190頁)
争われたのは、司法書士に払った抵当権の抹消費用でした。
平成2年6月21日の裁決も、抹消を円滑に進めるための支出を譲渡費用と認めていません。
抹消が売却の前提として事実上必要でも、それだけで譲渡費用になるわけではない、という判断です。

繰上げ返済の手数料は、通達の基準に照らして個別に判断します
繰上げ返済の手数料は、タックスアンサー No.3255 の主な譲渡費用に挙がっていません。
通達33-7にも、国税庁の質疑応答事例の「譲渡費用」にも記載はありません。
そのため、通達の「譲渡のために直接要した費用」に当たるかを契約から判断します。
賃貸アパートの売却で、銀行に払った繰上返済の違約金が争われた事例です(平成24年8月10日裁決)。
裁決は、この違約金を、譲渡を実現するために必要な費用とは認めませんでした。
理由の1つは、違約金の支払が売買契約の内容ではないことです。担保に入った物件を売るときに、必ず繰上返済が必要なわけではない、とも述べています。
補足
この裁決は裁決事例集に登載されておらず、要旨が公開されている裁決です。住宅ローンの手数料と事情が同じとは限らず、結論は契約書を見て判断します。
数字で見る:残高が違っても、税額は同じで手取りが変わります
同じ値段で売って利益が出れば、ローンの残高にかかわらず税額は同じです。
計算例
例:令和8年中に5,000万円で売却。売った年の1月1日で所有期間5年超、取得費3,600万円・譲渡費用200万円
譲渡所得 5,000万円 -(3,600万円 + 200万円)= 1,200万円 所得税 1,200万円 × 15% = 180万円 復興特別所得税 180万円 × 2.1% = 3万7,800円 住民税 1,200万円 × 5% = 60万円 税額の合計 243万7,800円(3,000万円控除を使わない場合) 手取り(残高2,000万円) 5,000万円 - 200万円 - 2,000万円 - 5万3,000円 - 243万7,800円 = 2,550万9,200円 手取り(残高4,000万円) 同じ式で 550万9,200円5万3,000円は、繰上げ返済の手数料3万3,000円と抵当権の抹消費用2万円の仮定値です。
この2つは、試算では譲渡費用に含めていません。数値は一定の前提を置いた目安です。
令和9年1月1日以後に生ずる所得では、復興特別所得税が1.1%に下がります。新たに防衛特別所得税1%が加わり、合計2.1%は変わりません。
マイホームの売却では、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります(No.3302)。
要件を満たせば、この例の税額は0円です。適用を受けるには、書類を添えた確定申告が必要です。

気をつけたい失敗は、この5つです
ローン関係の費用は、入れすぎても入れ忘れても申告を誤ります。
- 抵当権の抹消費用を、そのまま譲渡費用に入れる ― 公表裁決では譲渡費用と認められていません
- 売却代金で返したローンの元本を引く ― 譲渡所得の式に出てこないお金です
- 仲介手数料や印紙税の領収書をなくす ― 引ける費用を説明する資料がなくなります
- 税額が0円になるので申告しない ― 3,000万円控除は確定申告をしないと使えません
- 売った年も住宅ローン控除を受けられると考える ― 住み続けた年が対象です
住宅ローン控除は、その年の12月31日まで住み続けた年が対象です(租税特別措置法41条1項)。新居で受けるなら、旧宅の3,000万円控除との関係も先に確かめます。制限は3,000万円控除と住宅ローン控除の併用の記事で解説しています。
注意
マイホームを売ってもローンが残り、損が出るときは、譲渡損失の特例があります(No.3390)。一定の要件のもとで、損を給与などから差し引き、翌年以後3年間繰り越せます。差し引ける損は、契約前日のローン残高から売却価額を引いた額が限度です。令和9年12月31日までの売却が対象で、要件は譲渡損失の記事で解説しています。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
書類を集めて費用を並べるところまでは、ご自身でできます。
- 売却の売買契約書と精算書で、売却代金と仲介手数料を確かめる
- 金融機関の書類で、返済した額と繰上げ返済の手数料を確かめる
- 抵当権の抹消を頼んだ司法書士の請求書と領収書を残す
- 購入時の売買契約書と領収書を探し、取得費の資料をそろえる
ここから先は、事情で結論が変わります。
繰上げ返済の手数料、3,000万円控除と譲渡損失の特例の要件、新居の住宅ローン控除との関係です。
ポイント
手取りの試算と税額の計算は、分けて行います。税額は売却代金・取得費・譲渡費用・所有期間・特例で決まります。手取りは、売却代金から譲渡費用・返済額・諸費用・税額を引いた額です。

税理士が入ると変わるのは、費用の仕分けと特例の確認です
税理士が入ると、売る前に手取りと税額を分けて確かめられます。
ひとつめは、ローン残高と売却見込み額から、手取りと税額の試算表を作ることです。
ふたつめは、払った費用を譲渡費用・取得費・どちらでもないものに分け、根拠を残すことです。
みっつめは、3,000万円控除、譲渡損失の特例、新居の住宅ローン控除の関係を確かめることです。
よっつめは、譲渡所得の内訳書と確定申告書に数字を反映し、添付書類をそろえることです。
小松公認会計士・税理士事務所では、売る前の試算から確定申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
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よくある質問(FAQ)
Q1. 住宅ローンの残高は、譲渡所得から差し引けますか?
差し引けません。譲渡所得は、売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します(タックスアンサー No.3202)。売却代金でローンを返しても、その返済額は計算に出てきません。利益が出る売却なら、残高で変わるのは手取りです。
Q2. 抵当権の抹消費用は、譲渡費用になりますか?
国税不服審判所は、自分の借入れの担保の抵当権を返済に伴って抹消した費用を、譲渡のために直接要した費用とは認めていません(平成13年6月26日裁決)。譲渡費用に入れる前に、この判断を踏まえて確かめます。
Q3. 繰上げ返済の手数料は、譲渡費用になりますか?
タックスアンサー No.3255 の主な譲渡費用には挙がっていません。要旨が公開された裁決では、繰上返済の違約金は譲渡費用と認められていません。通達33-7の「譲渡のために直接要した費用」に当たるかを、売買契約と借入れの契約の内容から個別に判断します。
Q4. 売ってもローンが残るとき、使える特例はありますか?
マイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売って損が出たときは、一定の要件のもと、損を給与などから差し引き、翌年以後3年間繰り越せる特例があります(No.3390)。令和9年12月31日までの売却が対象です。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法33条3項、所得税基本通達33-7、租税特別措置法41条1項・41条の5の2、国税庁タックスアンサー No.3202・No.3208・No.3255・No.3302・No.3390、国税庁「防衛特別所得税及び復興特別所得税の源泉徴収のあらまし(令和9年1月以後の源泉徴収)」、国税不服審判所の平成2年6月21日裁決(裁決事例集No.39)・平成13年6月26日裁決(裁決事例集No.61)と、裁決要旨検索システムで公開されている平成24年8月10日裁決の要旨の内容を扱っています。居住用財産の3,000万円特別控除と譲渡損失の損益通算・繰越控除の各要件と計算、住宅ローン控除の控除額・控除期間と過去に受けた控除の扱い、借入金の利子の取得費への算入、賃貸用・事業用の借入金に係る費用の必要経費への算入、任意売却・競売の場合の取扱い、確定申告と住民税の期限は扱っていません。記事中の数値例は一定の前提を置いた目安であり、実際の税額と手取りは売却代金・取得費・譲渡費用・所有期間・特例の適用・売った年分によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3255 譲渡費用となるものhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm
- 国税庁 所得税基本通達 法第33条《譲渡所得》関係(33-7 譲渡費用の範囲)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/07.htm
- 国税不服審判所 公表裁決事例(平13.6.26裁決、裁決事例集No.61 190頁)https://www.kfs.go.jp/service/JP/61/16/index.html
- 国税庁 タックスアンサー No.3208 長期譲渡所得の税額の計算https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3390.htm
ローンが残る家を売る前に、手取りと税額を分けて確かめませんか
住宅ローンが残る家の売却では、手取りの計算と税額の計算が別々に動きます。抵当権の抹消費用や繰上げ返済の手数料の扱い、3,000万円控除や譲渡損失の特例の要件で、申告の内容が変わります。代表税理士が、売買契約書と金融機関の書類から費用を仕分け、手取りと税額の試算から確定申告まで一貫して担当します。売買契約の前でも、資料がそろった段階でご相談ください。
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