この記事のポイント
- マンション再生法の権利変換を受けるだけなら、譲渡はなかったものとみなされます
- 建替え後の部屋は、古い部屋の取得費と取得の日を引き継ぎます
- 清算金に対応する部分と、参加せず手放した部屋は課税の対象です
- 工事中に権利を売るなら、住まなくなった日から3年後の年末までが3,000万円控除の期限です
まず結論:権利変換を受けるだけなら、譲渡はなかったものとみなされます
権利変換で新しい部屋の権利を得るだけなら、その時点で譲渡所得の税金はかかりません。
建替えは「マンションの再生等の円滑化に関する法律」(以下、マンション再生法)で進めることがあります。
参加した人は「権利変換」で、古い部屋と敷地の権利が新しいマンションの権利に置き換わります。
当該権利変換により譲渡した資産(次項において「変換前資産」という。)の譲渡がなかつたものとみなす。
(租税特別措置法33条の3第6項)
この特例は、確定申告書や証明書類を出さなくても適用されます(租税特別措置法関係通達33の3-4)。
ただし、清算金(差額)に対応する部分と、参加せずに手放した部屋は課税の対象です。
ポイント
対象はマンション再生法による権利変換です。法律によらない建替えには、この特例は使えません。土地を出して建物の一部を受け取る取引は立体買換えの特例の記事をご覧ください。

令和8年4月1日から、法律の名前と税金の条文が変わりました
課税されない仕組みはそのままで、法律の名前と特例の対象が変わりました。
法律の名前は、令和8年4月1日に「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」から改められました。
租税特別措置法の特例も、令和8年度の改正で対象が「マンション再生事業」の権利変換に広がりました。
改正前は「マンション建替事業」で、再生事業は建替え・更新・再建などの総称です。
新しい条文は令和8年4月1日以後の譲渡に使い、同日前の譲渡は従前の例によります。
建替え決議は原則5分の4以上で、耐震性の不足などの事由があれば4分の3以上です(区分所有法62条)。
見直しは令和8年4月1日からで、同日前に招集手続が始まった集会は従前の例です。
参加した人は、古い部屋の取得費と取得の日を引き継ぎます
税金がなくなるのではなく、将来売るときに古い部屋の数字で計算します。
取得の時期は、古い部屋の取得の時期を使います(措置法33条の6第1項)。
取得価額は、古い部屋の取得価額に設備費と改良費を加えた額をもとに計算します。
新しい部屋の価額が古い部屋を超え、その差額を支払ったときは、支払額を加えます(同項3号)。
長期か短期かの区分も、古い部屋の取得の日で判定します(措置法通達31・32共-5)。
計算例
例:平成15年に3,000万円で買った部屋で建替えに参加し、差額600万円を支払った場合
引き継ぐ取得価額 3,000万円 + 600万円 = 3,600万円 取得の時期 平成15年のまま(新しい部屋の完成時ではありません)設備費・改良費も清算金もない、一定の前提を置いた目安です。

清算金(差額)を受け取ると、その部分は課税されます
清算金に対応する部分は、古い部屋を売ったものとみなされます(措置法33条の3第7項)。
新しい部屋の価額が古い部屋より低いと、施行者から差額が交付されます(マンション再生法85条)。
施行者は、建替えの事業を進める組合などです。
売ったとみなされるのは、差額の交付を受けることとなった日です。
清算金の交付を受けることとなった年は、譲渡所得の申告が必要かを確かめます。
新しい部屋の取得価額も、受け取った差額の分を調整して計算します(措置法施行令22条の6)。
注意
「権利変換だから申告はいらない」と思い込むと、清算金の申告が漏れます。施行者の通知と入金の記録を保管してください。
参加しない人は、売却と同じく譲渡所得の対象です
手放して受け取るお金は、譲渡所得の対象です。
参加しない人は、時価での売渡しを請求されることがあります(区分所有法63条5項など)。
金銭の給付を申し出て、補償金を受け取ることもできます(マンション再生法56条1項)。
| 特別控除 | 使える場面と主な限定 |
|---|---|
| 3,000万円控除(措置法35条) | 自分が住んでいた部屋のとき。ほかの要件も必要です |
| 1,500万円控除(措置法34条の2第2項22号) | マンション再生法の請求や申出による譲渡が対象です。政令の「やむを得ない事情」があり、施行者が審査委員の過半数の確認を得た場合に限ります。土地等の部分に使えます |
| 2つ以上を使うとき | 合計5,000万円が限度です(措置法36条) |
政令の事情は、次の2つです(措置法施行令22条の8第25項)。
- 建物が、用途地域などの用途の制限に、あとから合わなくなった場合
- 本人や生計を一にする同居の家族が、老齢や身体障害で新しい部屋での生活や事業が難しい場合
1,500万円控除は、3,000万円控除を受ける部分には使えません(措置法34条の2第1項)。
施行者に譲る土地等は、控除に代えて軽い税率(措置法31条の2)を使える場合があります。
計算例
例:令和8年中に売渡し請求で時価3,600万円で売却。取得費2,000万円(償却費相当額の控除後)・譲渡費用なし・所有期間5年超
譲渡所得 3,600万円 − 2,000万円 = 1,600万円 特別控除なし 所得税240万円 + 復興特別所得税50,400円 + 住民税80万円 = 3,250,400円 自宅で3,000万円控除の要件を満たす場合 1,600万円 − 1,600万円 = 0円一定の前提を置いた目安です(税率は国税庁タックスアンサーNo.3208)。
計算の手順はマンション売却の税金の記事で説明しています。

建替え中の仮住まいと、3,000万円控除・住宅ローン控除
仮住まい中に権利を売るなら、住まなくなった日からの期限が分かれ目です。
工事中に新しい部屋を受け取る権利を売ると、その日に古い部屋を売ったとみなされます。
その日が期限内なら、3,000万円控除と軽減税率の判定で、居住用財産の譲渡として扱われます。
期限は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日です。
根拠は措置法33条の3第7項と、措置法通達31の3-17・35-6です。
工事で住まなくなった日から数えるため、工事が長引くと期限を過ぎることがあります。
所有期間は、売ったとみなされる日の属する年の1月1日で判定します。
補足
住宅ローン控除は、その年の12月31日まで引き続き住んでいる年が対象です(措置法41条1項)。例外は、転勤などで家族が住み続ける場合や、災害で一部損壊した家の補修中です。根拠は措置法通達41-2で、建替え工事は挙げられていません。
つまずきやすいのは、この5つの場面です
金額が変わる誤りは、申告漏れや払いすぎにつながります。
- 清算金を受け取ったのに申告を検討しない ― 対応する部分は譲渡とみなされます
- 建替え後の部屋を、完成時に買った前提で計算する ― 取得費も取得の日も引き継ぎます
- 支払った差額を取得価額に入れない ― 将来の譲渡所得が大きくなりすぎます
- 1,500万円控除を当然使えると考える ― 政令の事情と施行者の確認が要ります
- 工事中に権利を売るときの期限を過ぎる ― 3,000万円控除を受けられないおそれがあります
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
書類をそろえるところまではご自身でできますが、金額と特例の判断は個別です。
- 古い部屋の売買契約書と、設備費・改良費の領収書を探す
- 権利変換計画の通知と、清算金(差額)の通知・入金記録を保管する
- 工事のために住まなくなった日と、仮住まいの契約書を残す
- 参加しない場合は、売渡し請求や補償金の書面を保管する
ここから先の、清算金の課税部分、引き継ぐ取得価額、特例の選択、住宅ローン控除は個別判断です。

税理士が入ると変わるのは、引き継ぐ数字と申告の根拠です
ひとつめは、購入時の資料で古い部屋の取得価額を確定することです。
ふたつめは、清算金について、政令に沿って課税される部分を計算することです。
みっつめは、建替え後の部屋の取得価額の計算明細を作ることです。
売るときの確定申告書には、この明細を記載するものとされています(措置法施行令22条の6第5項)。
よっつめは、参加しない場合の特例の比較と、工事中に権利を売る場合の期限の確認です。
小松公認会計士・税理士事務所では、施行者の通知と購入時の資料を拝見し、申告まで担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
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よくある質問(FAQ)
Q1. 建替えに参加すると、確定申告は必要ですか?
権利変換で新しい部屋の権利を得るだけなら、譲渡はなかったものとみなされます。この特例は確定申告書を出さなくても適用されます(措置法通達33の3-4)。ただし清算金(差額)に対応する部分は譲渡とみなされるため、その年は申告が必要かを確かめます。
Q2. 建替え後の部屋を売るとき、取得費はどうなりますか?
古い部屋の取得価額と取得の時期を引き継ぎます(措置法33条の6第1項)。設備費・改良費も含めます。新しい部屋との差額を払えば支払額を加え、清算金を受け取れば対応する部分を除きます。長期・短期の判定も古い部屋の取得の日で行います(措置法通達31・32共-5)。
Q3. 建替えに参加せずに売り渡すと、1,500万円控除は使えますか?
マンション再生法の請求や申出による譲渡が対象です。政令のやむを得ない事情があり、施行者が審査委員の過半数の確認を得た場合に限ります。土地等の部分に使え、3,000万円控除を受ける部分には使えません。申告が必要な人は、適用の記載と証明書類の添付が要ります。
Q4. 工事中に新しい部屋の権利を売ると、3,000万円控除は使えますか?
売った日に古い部屋を売ったものとみなされます。その日が期限内なら、居住用の家の譲渡として扱われます。期限は住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日です。根拠は措置法通達31の3-17・35-6で、ほかの要件も満たす必要があります。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。租税特別措置法31条1項・31条の2第2項10号・第4項・31条の3・33条の3第6項・第7項・33条の6第1項・34条の2第1項・第2項22号・35条・36条・41条1項、租税特別措置法施行令22条の6第2項7号・第5項・22条の8第25項、租税特別措置法関係通達31の3-17・31・32共-5・33の3-4・35-6・41-2、マンションの再生等の円滑化に関する法律2条1項10号・15条1項・56条1項・75条・85条、建物の区分所有等に関する法律62条1項・2項・63条5項、令和7年法律第47号附則2条2項、令和8年法律第12号附則37条4項、国税庁タックスアンサー No.3208、国税庁「個人の方が株式等や土地・建物等を譲渡した場合の令和8年度税制改正のあらまし」の内容を扱っています。清算金を受け取ったときに課税される部分の具体的な計算(租税特別措置法施行令22条の3第10項)、建替え後の部屋の建物部分の償却費相当額の計算、3,000万円控除と居住用財産の軽減税率のその他の要件、特定の居住用財産の買換え特例、優良住宅地等のための譲渡の軽減税率(租税特別措置法31条の2)の要件の細目と税額、マンション更新事業・再建事業・一括建替等事業・敷地分割事業・マンション等売却事業の扱い、区分所有法63条5項の売渡し請求と1,500万円控除の関係、住宅ローン控除を建替え工事中・建替え後に受けられるかの結論、令和9年1月1日以後に生ずる所得に係る防衛特別所得税、令和8年3月31日以前の譲渡に適用される改正前の規定の細目、借家人・抵当権者・法人の扱い、登録免許税・不動産取得税は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は取得価額・清算金・譲渡価額・建物の構造と所有期間によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索 租税特別措置法https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- e-Gov法令検索 マンションの再生等の円滑化に関する法律https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000078
- 国税庁 措置法第33条の3《換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例》関係(33の3-4)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti33/08.htm
- 国税庁 租税特別措置法関係通達 31の3-17(権利変換により取得した施設建築物等の一部を取得する権利等の譲渡)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti31/07.htm
- 国税庁 個人の方が株式等や土地・建物等を譲渡した場合の令和8年度税制改正のあらまし(令和8年5月)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/joto-sanrin/r08aramashi.pdf
マンション建替えの税金は、権利変換や売渡しの前にご相談ください
建替えに参加するか、売り渡すかで、税金の扱いは変わります。参加する場合も、清算金の有無や支払った差額で、申告の要否と将来の取得費が変わります。代表税理士が、権利変換計画の通知と購入時の資料を拝見します。引き継ぐ取得価額と取得の日を整理し、必要な申告まで担当します。
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