この記事のポイント
- 任意組合型の持分の売却で、土地建物の部分を分離課税とした裁決があります
- 建物の取得費は償却費の累積額を引いた額。買値より安くても益が出ることがあります
- 特定組合員の組合事業の不動産所得の損失は、ほかの所得と差し引けません
- 匿名組合型の利益の分配は原則として雑所得。扱いは契約ごとに確かめます
まず結論:税金の扱いは、契約の型と中身で決まります
持分を売ったときの税金は、どの型の契約かで大きく変わります。
ここでは、不動産特定共同事業法の契約で少額ずつ出資する商品を扱います。
代表的な型は、任意組合型・匿名組合型・賃貸委任契約型です(国土交通省)。
任意組合型の持分の売却を組合財産の持分の売却とみて、土地建物の部分を分離課税とした裁決があります。
匿名組合型の利益の分配は、原則として雑所得です。
扱いは商品ごとの契約で変わるため、契約書で確かめます。

任意組合型と匿名組合型では、不動産の持ち主が違います
任意組合型は組合員全員の共有、匿名組合型は営業者の財産です。
| 項目 | 任意組合型 | 匿名組合型 |
|---|---|---|
| 不動産の持ち主 | 組合員全員の共有(民法668条) | 営業者(商法536条1項) |
| 毎年のもうけ | 分配割合に応じて各組合員の利益・損失 | 利益の分配は原則として雑所得 |
各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属する。
(民法668条)
組合の利益や損失は、分配割合に応じて各組合員のものになります(所得税基本通達36・37共-19)。
ただし、分配割合に経済的合理性がないと認められる場合は、この限りではありません。
計算は、組合の収入・費用・資産・負債を、分配割合で自分のものとする方法が原則です。
補足
所得税基本通達36・37共-20は、この方法を(1)として原則とします。(1)が困難で、(2)や(3)の方法を継続しているときは、その計算も認められます。(3)では、利益や損失は主な事業に応じて不動産所得などの一つの所得になります。
任意組合型の持分の売却を、組合財産の持分の譲渡とした裁決があります
国税不服審判所の平成28年3月7日裁決は、賃貸事業の組合の持分を売った事案です。
売った人は、総合課税の譲渡所得として損失をほかの所得と通算していました。
審判所の判断は、次のとおりです。
本件譲渡契約による本件持分の譲渡は、本件持分が表象する本件組合財産に対する持分の譲渡という性格を有するものというべきである。
(国税不服審判所 平成28年3月7日裁決)
土地建物の持分の部分は、分離課税の長期譲渡所得に当たるとされました。
組合の現預金に対応する部分は、収入金額に入れないとされました。
土地建物の譲渡の損失は、給与などとは損益通算できません(租税特別措置法31条1項・32条1項)。
税率は、売った年の1月1日で所有期間が5年を超えるかで変わります(短期と長期の判定の記事)。
取得費は、建物の償却費の累積額を差し引いて計算します
賃貸に使われた建物の取得費は、取得価額から毎年の償却費の累積額を引いた額です。
根拠は所得税法38条2項1号です。
償却費を必要経費にしていない年があっても、合計に含めます(タックスアンサーNo.3261)。
計算例
例:持分を500万円(土地相当200万円・建物相当300万円)で取得。売った年の1月1日で5年超、480万円で売却。償却費の累積額は40万円
取得費 200万円 +(300万円 - 40万円)= 460万円 譲渡所得 480万円 - 460万円 = 20万円 所得税 20万円 × 15% = 30,000円(復興特別所得税 630円) 住民税 20万円 × 5% = 10,000円 合計 40,630円買値より20万円安く売っても、この例では20万円の譲渡益が出ます。
数値は、現預金の部分と譲渡費用がない前提を置き、令和8年分の税率で端数処理を省いた目安です。
令和9年分以後は、復興特別所得税が1.1%になり、防衛特別所得税1%が加わります。
どちらも所得税額にかかり、合計の2.1%は変わらないため、この例の税額も同じです。
取得費は賃貸物件の売却の記事、費用は取得費と譲渡費用の記事もご覧ください。

持っている間の不動産所得の損失は、ほかの所得と差し引けません
特定組合員の組合事業による不動産所得の損失は、ご自身の賃貸物件の黒字や給与とも差し引けません。
根拠は租税特別措置法41条の4の2です。
対象は「特定組合員」で、重要な業務の決定に関わり、かつ交渉なども自ら行う組合員以外の人です。
業務の執行を全部任せている組合員は、特定組合員に当たります(同法施行令26条の6の2第3項)。
当該損失の金額に相当する金額は、同法第二十六条第二項及び第六十九条第一項の規定その他の所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかつたものとみなす。
(租税特別措置法41条の4の2第1項。「同法」は所得税法)
確定申告では、組合事業の不動産所得の明細書を添付します(同法施行令26条の6の2第6項)。
決算書も、組合事業の分を分けて作ります(措置法通達41の4の2-1)。
匿名組合型は、不動産を持たずに利益の分配を受ける立場です
営業者から受ける利益の分配は、原則として雑所得です。
匿名組合型では、出資したお金は営業者の財産になります(商法536条1項)。
営業者と共に経営していると認められる場合は、営業の内容に応じて事業所得などになります。
出資の払戻しとして受け取るものは、利益の分配に含まれません(所得税基本通達36・37共-21)。
利益の有無にかかわらず一定額や一定割合を受け取る分配は、金銭の貸付けから生じる所得です。
損益通算の対象に、雑所得の損失は挙がっていません(所得税法69条1項)。
償還や地位の譲渡の扱いは、契約で個別に確かめます。
相続や贈与で引き継いだ持分は、取得の時期と評価を確かめます
相続や贈与で取得した持分を売るときは、前の持ち主の取得の時期と取得費を基に計算します。
贈与・相続・遺贈で取得した資産は、引き続き所有していたとみなされるためです(所得税法60条1項)。
ただし、限定承認に係る相続などは除かれます。
民法では、組合員の死亡は脱退の事由の一つです(民法679条1号)。
相続人が持分をどう引き継ぐかは、契約の定めで確かめます。
相続税等の評価では、令和8年度税制改正の大綱が次の見直しを示しました。
その取得の時期にかかわらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。
(令和8年度税制改正の大綱)
国税庁の通達案(令和8年9月公表)は、任意組合型・賃貸委任契約型・信託受益権型を対象としています。
令和9年1月1日以後の相続等による取得に適用する案で、令和8年10月時点で未確定です。
ポイント
評価の見直しは相続税・贈与税の話で、売ったときの所得税とは別に確かめます。

申告でつまずきやすいのは、この5つです
- 持分の売却を総合課税で申告した ― 裁決では分離課税とされました
- 売却の損失を給与などと通算した ― 通算できません
- 建物の償却費を取得費から引いていない ― 取得費が過大になります
- 届出のない償却方法で計算していた ― 裁決では法定の償却方法で計算し直されました
- 組合事業の損失をほかの所得と差し引いた ― 特定組合員の損失はないものとみなされます
注意
計算例で償却費を引き忘れると、取得費は500万円になります。20万円の譲渡益が、20万円の損失に見えてしまいます。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
資料をそろえるところまではご自身でできますが、区分と金額の判断は個別です。
- 契約書で、任意組合型か匿名組合型かを確かめる
- 取得時の資料で、土地・建物・現預金などの内訳を確かめる
- 事業者の毎年の報告書と、過去の確定申告書の償却費をそろえる
- 売却や償還の精算書で、代金と差し引かれた費用を確かめる
ここから先は、取得の日、現預金の切り分け、計算方法、特定組合員の判定で結論が変わります。
物件の売却による償還の計算も、契約と計算方法で確かめます。

税理士が入ると変わるのは、内訳の整理と取得費の根拠です
ひとつめは、契約書と報告書から持分の内訳を整理することです。
ふたつめは、償却費の累積額を確かめ、建物の取得費を出すことです。
みっつめは、所有期間を判定し、内訳書と申告書に反映することです。
よっつめは、組合事業の明細書と決算書を区分して作ることです。
小松公認会計士・税理士事務所では、資料の読み取りから適正申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 任意組合型の持分を売ったら、総合課税の譲渡所得ですか?
平成28年3月7日の裁決では、持分の譲渡を組合財産に対する持分の譲渡とみて、土地建物の部分を分離課税の長期譲渡所得としました。組合の現預金に対応する部分は、収入金額に入れないとされました。結論は契約の内容で変わり得ます。
Q2. 組合の不動産所得が赤字になったら、給与と差し引けますか?
業務の執行を全部任せている組合員は、特定組合員に当たります(租税特別措置法施行令26条の6の2第3項)。特定組合員の組合事業による不動産所得の損失は生じなかったものとみなされ、給与とは差し引けません(租税特別措置法41条の4の2)。
Q3. 匿名組合型の分配金は、何所得になりますか?
営業者から受ける利益の分配は、原則として雑所得です。営業者と共に経営していると認められる場合は、営業の内容に応じて事業所得などになります。出資の払戻しとして受けるものは、利益の分配に含まれません(所得税基本通達36・37共-21)。
Q4. 相続した持分を売るとき、取得の時期はいつになりますか?
贈与・相続・遺贈で取得した資産は、引き続き所有していたものとみなされます(所得税法60条1項。限定承認に係るものなどを除く)。亡くなった方の取得の時期と取得費を基に計算します。持分の引き継ぎ方は契約で確かめます。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。不動産特定共同事業法2条3項、民法668条・679条、商法536条1項、所得税法38条2項・60条1項・69条1項、租税特別措置法31条・32条・41条の4の2、同法施行令26条の6の2、所得税基本通達36・37共-19から36・37共-21まで、措置法通達41の4の2-1、国税不服審判所の平成28年3月7日裁決、国税庁タックスアンサー No.3208・No.3261・No.3270、令和8年度税制改正の大綱、所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)、国税庁の「貸付用不動産の評価について」の通達案の内容を扱っています。賃貸委任契約型と信託受益権型の商品の課税、匿名組合型の出資の償還と地位の譲渡の所得区分、組合が物件を売って清算するときの所得区分の結論、出資して組成時に取得した持分の取得の日、計算方法(2)(3)による具体的な計算、所有期間が5年以下の場合の税率、相続税・贈与税の財産評価の具体的な方法と通達案の内容、住民税の申告手続、消費税は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は契約の内容、取得価額、償却費の累積額、売却代金の内訳、所有期間によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税不服審判所 公表裁決事例(平成28年3月7日裁決)https://www.kfs.go.jp/service/JP/102/06/index.html
- 国税庁 所得税基本通達〔組合の所得計算〕(36・37共-19〜36・37共-21の2)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/16.htm
- e-Gov法令検索 租税特別措置法https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/20251226taikou.pdf
- 国土交通省 不動産特定共同事業の許可とはhttps://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/tochi_fudousan_kensetsugyo_tk5_000001_00009.html
不動産小口化商品を売る前に、持分の内訳と取得費を確かめませんか
任意組合型の持分は、土地・建物・現預金に分けて考え、建物は毎年の償却費の累積額を引いた額が取得費になります。組合事業の損失の扱いや、匿名組合型との違いでも結果が変わります。代表税理士が、契約書と事業者の報告書から持分の内訳と取得費の根拠を整え、譲渡所得の内訳書と申告書まで一貫して作成します。売却や償還の前に、資料がそろった段階でご相談ください。
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