この記事のポイント
- 受益者等課税信託では、子が売っても譲渡所得は受益者のものです
- 委託者も受益者も親1人なら、信託した時は譲渡に当たりません
- その場合、取得費と取得日は親が買ったときのもので計算します
- 3,000万円控除は、住んでいた家か・売った相手・期限などの個別判断です
まず結論:税金がかかるのは、名義人の子ではなく受益者です
家族信託で子が親の家を売っても、譲渡所得は受益者のものとして扱われます。
家族に財産を託す信託は、家族信託(民事信託)と呼ばれます。
託す人を委託者、託される人を受託者、信託の利益を受ける人を受益者といいます。
信託した家は受託者に属する財産になり(信託法2条3項)、登記の名義も子に移ります。
税金の上では、所得税法13条1項が次のように定めています。
信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、この法律の規定を適用する。
(所得税法13条1項)
受益者が親なら、家は親が持っているとみなされ、売ったもうけも親の譲渡所得です。
この扱いを受ける信託を、受益者等課税信託といいます。集団投資信託・退職年金等信託・法人課税信託は除かれます(同項ただし書)。
ポイント
信託の変更権限を持ち、信託財産の給付を受けることになっている人も、受益者とみなされます(同条2項)。軽微な変更の権限だけの人は除かれます。

信託した時点では、親にとって「売った」ことになりません
委託者も受益者も親1人の信託なら、家を託しても譲渡所得の課税は生じません。
所得税基本通達13-5は次のとおりです。
委託者と受益者がそれぞれ一であり、かつ、同一の者である場合の受益者等課税信託においては、次に掲げる移転は受益者である委託者にとって資産の譲渡又は資産の取得には該当しないことに留意する。
(所得税基本通達13-5)
対象は、信託による受託者への移転と、信託の終了で受託者から受益者へ戻す移転です。
前提は、委託者と受益者がそれぞれ1人で同じ人であることです。
夫婦の共有の家を2人で託すなど、委託者や受益者が複数なら前提が変わります。
注意
適正な対価を払わずに、親以外の人を受益者にすると扱いが変わります。その人は、信託に関する権利を委託者から贈与で取得したものとみなされます(相続税法9条の2第1項)。
取得費と取得日は、親が買ったときを基準に計算します
売ったときの取得費は、親がその家を持ち続けていたものとして計算します。
措置法通達31・32共-1の3(4)が、取得費をこの前提で計算するとしています。
委託者も受益者も親1人なら、取得の日も親が取得した日です(同(2))。
信託した日や、その日の時価に置き換えて計算するのではありません。
信託中に受託者が買った資産なら、取得の日は信託財産になった日です(同(2)の注)。
長期か短期かは、売った年の1月1日に所有期間が5年を超えるかで決まります(措置法31条1項)。
計算例
例:親が平成12年4月に買った土地(自宅以外)を令和5年6月に信託(委託者も受益者も親1人)。令和8年に受託者の子が売却。課税譲渡所得金額2,000万円
正しい判定 平成12年4月から数え、令和8年1月1日で25年超 → 長期 長期 所得税300万円+復興特別所得税63,000円+住民税100万円=4,063,000円 誤った判定 信託した令和5年6月から数え、2年6か月余り → 短期 短期 所得税600万円+復興特別所得税126,000円+住民税180万円=7,926,000円 差額 7,926,000円-4,063,000円=3,863,000円令和8年分の税率による、一定の前提を置いた目安です。住民税は長期5%、短期9%です。
令和9年分以後は、復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%になり、この例の合計は同じです。

確定申告は受益者の親が行い、受託者は信託の計算書を確かめます
売買契約を結び、代金を受け取るのが子でも、確定申告は受益者の親が行います。
| 立場 | 主な手続き | 根拠 |
|---|---|---|
| 親(受益者) | 譲渡所得の確定申告 | 所得税法13条1項 |
| 子(受託者) | 信託の計算書を毎年1月31日までに提出 | 所得税法227条 |
| 子(受託者) | 信託の終了などがあった月の翌月末日までに、受益者別の調書を提出(不要な場合あり) | 相続税法59条3項 |
信託の計算書は、各人別の収益の額の合計が3万円以下なら、原則として提出不要です。
計算の期間が1年未満なら、1万5千円以下が基準です(所得税法施行規則96条2項)。
申告は親、信託の計算書と調書は受託者の子と、手続きが分かれます。

3,000万円控除が使えるかは、要件ごとの個別判断です
結論は、事実関係を確かめたうえでの個別判断です。
措置法通達31・32共-1の3は、信託財産の土地建物の譲渡にも所得税の法令を適用するとしています。
特例を受けるときの添付書類は、受託者の証明を受けたものとする扱いに準じます(同(5))。
そのうえで、タックスアンサーNo.3302の主な要件を確かめます。
- 売ったのが、親が住んでいる家か、以前に住んでいた家とその敷地か
- 以前の家なら、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却か
- 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に売ったものでないか
- 前年・前々年に、この特例などの適用を受けていないか
信託した家にこれらをどう当てはめるかは、個別判断です。
基本は3,000万円控除の記事、期限は住まなくなった家の3年の期限をご覧ください。

成年後見で売る場合とは、手続きの入口が違います
成年後見と家族信託では、売るときの手続きが違います。
成年後見人が本人の居住用の家や敷地を売るには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。施設に入る前に住んでいた家も含みます(裁判所の手続案内)。
受託者には信託財産を処分する権限があり、信託行為で制限することもできます(信託法26条)。
成年後見での売却は認知症の親の自宅を売る場合の記事で扱っています。
成年後見の規定は、令和8年6月24日公布の民法改正で見直されます(施行は政令で定める日)。
失敗につながる5つの場面
名義と税金の上の持ち主が分かれることが、誤りの元になります。
- 名義人の子が、自分の所得として申告した ― 譲渡所得は受益者のものです
- 信託した日を取得日にした ― 短期と誤って判定するおそれがあります
- 信託した日の時価を取得費にした ― 親が持ち続けていたものとして計算します
- 適正な対価なしに受益者を子にした ― 贈与で取得したものとみなされます
- 親の死亡で信託が終わった後、空き家の特例を当てにした ― 受けられないとした回答事例があります
補足
東京国税局の文書回答事例(令和4年12月20日)の事案です。母の死亡で信託が終わり、帰属権利者の子2人が取得した家を翌年に売りました。空き家の3,000万円特別控除(措置法35条3項)は受けられないと回答しています。照会の事実関係を前提とした見解です。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
書類をそろえるところまではご家族でできますが、課税関係の判断は個別です。
- 信託契約書で、委託者・受託者・受益者・帰属権利者を確かめる
- 受託者の売却の権限が、信託契約で制限されていないかを見る
- 親が家を買ったときの売買契約書と領収書を探す
- 親が住まなくなった日を、施設の入所日などで特定する
ここから先は、信託契約と事実関係で結論が変わります。
受益者とみなされる人がいるか、3,000万円控除の要件を満たすか、申告をどう進めるかです。
税理士が入ると変わるのは、契約書の読み解きと申告への反映です
ひとつめは、信託契約書で受益者と課税関係を確かめることです。
ふたつめは、購入時の資料で取得費と取得日を固め、長期か短期かを判定することです。
みっつめは、3,000万円控除の要件確認と、受託者の証明つき添付書類の準備です。
よっつめは、親の確定申告書と譲渡所得の内訳書の作成です。
いつつめは、受託者の信託の計算書と調書が要るかの確認です。
小松公認会計士・税理士事務所では、信託契約書の確認から親の確定申告まで続けて担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
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よくある質問(FAQ)
Q1. 家族信託で子の名義になった親の家を売ると、子に税金がかかりますか?
受益者等課税信託では、受益者が信託財産を持っているとみなされます(所得税法13条1項)。受益者が親なら、売ったもうけは親の譲渡所得です。ただし、信託の変更権限を持ち、給付を受けることになっている人も受益者とみなされます(同条2項)。
Q2. 親の家を信託したときに、所得税や贈与税はかかりますか?
委託者も受益者も親1人の信託なら、受託者への移転は譲渡に当たりません。根拠は所得税基本通達13-5です。適正な対価なしに親以外を受益者にすると、贈与で取得したものとみなされます(相続税法9条の2第1項)。なお、信託の登記には登録免許税がかかります。
Q3. 信託した自宅の売却で、3,000万円の特別控除は使えますか?
措置法通達31・32共-1の3は、信託財産の土地建物の譲渡にも所得税の法令を適用するとしています。特例を受けるときの添付書類の扱いも示しています。ただ、住んでいた家か、売った相手、期限などの当てはめは個別判断です。
Q4. 親が亡くなって信託が終わった後に、子が売るとどうなりますか?
国税庁の質疑応答事例(受託者が信託銀行の事例)では、帰属権利者が親の取得費と取得時期を引き継ぎます。東京国税局の文書回答事例の事案では、空き家の3,000万円特別控除は受けられないとされました。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法13条・227条、所得税法施行規則96条、所得税基本通達13-5、租税特別措置法関係通達28の4-53及び31・32共-1の3、租税特別措置法31条・32条・35条、地方税法附則34条・35条、復興財確法13条、防衛財確法5条の5・5条の9、相続税法9条の2・59条、登録免許税法別表第一、信託法2条・26条、民法859条の3、裁判所の手続案内「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」、国税庁タックスアンサーNo.3208・No.3211・No.3302、国税庁質疑応答事例「信託が終了し帰属権利者が残余財産を相続又は遺贈により取得したものとみなされた場合の取得費」、東京国税局文書回答事例(令和4年12月20日)の内容を扱っています。法人課税信託・受益者が複数いる信託・受益者連続型の信託の課税関係、信託受益権の譲渡、受益者が亡くなった場合の相続税の計算、3,000万円控除と軽減税率の特例・空き家特例の各要件の詳細、信託の計算書と調書の書き方と提出が不要な場合の詳細、登録免許税の税率と計算、親が手続きできない場合の申告の進め方、令和8年6月24日公布の民法等の一部を改正する法律による成年後見制度の見直しの内容は扱っていません。記事中の計算例は令和8年分の税率による一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は取得費・譲渡費用・特例の適用の有無などで変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索 所得税法https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 国税庁 所得税基本通達 法第13条《信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属》関係https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/03/02.htm
- 国税庁 措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》・第32条《短期譲渡所得の課税の特例》共通関係https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti31/01.htm
- 東京国税局 文書回答事例「信託契約における残余財産の帰属権利者として取得した土地等の譲渡に係る租税特別措置法第35条第3項に規定する被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用可否について」https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/joto-sanrin/221220/index.htm
- 国税庁 質疑応答事例「信託が終了し帰属権利者が残余財産を相続又は遺贈により取得したものとみなされた場合の取得費」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/05/16.htm
家族信託した家を売る前に、申告と特例の判断を確かめませんか
受益者等課税信託では、受託者の子が売っても、譲渡所得は受益者のものとして申告します。取得費と取得日の引継ぎ、3,000万円控除の要件の当てはめ、受託者の信託の計算書と、確かめることは親子にまたがります。代表税理士が信託契約書と購入時の資料を読み解き、売却前の税額試算から確定申告まで一貫して担当します。売買契約の前にご相談ください。
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