法人税・節税

会社を売るときの税金
株式譲渡と事業譲渡の違いと役員退職金の組み合わせ

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 株式譲渡は社長個人に所得税15%と住民税5%、ほかに復興特別所得税等がかかります
  • 事業譲渡は会社に法人税がかかり、お金を個人へ移すときにも課税されます
  • 退職金の組み合わせは一定の前提で手取りが増えましたが、額が大きいと逆転しました
  • 損金になる退職金は相当な額までで、経営上主要な地位に残ると退職金と扱われないことがあります

まず結論:株式譲渡は社長個人に、事業譲渡はまず会社に税金がかかります

M&A(会社や事業の売買)で会社を売る形は、大きく2つあります。

社長が自分の株式を売る「株式譲渡」と、会社が事業を売る「事業譲渡」です。

株式譲渡では、売却代金が社長に入り、売却益に社長個人の税金がかかります。

事業譲渡では、代金は会社に入り、譲渡益にまず法人税がかかります。

社長が受け取るには、配当や退職金などの形が要ります。

同じ売値でも、売る形と受け取り方で、社長の手取りは変わります。

売る形によって、最初に税金がかかる人が変わります
売る形によって、最初に税金がかかる人が変わります

株式譲渡は、社長個人の譲渡所得としてほかの所得と分けて課税されます

上場株式等に当たらない中小企業の株式は「一般株式等」で、次の形で課税されます。

他の所得の金額と区分して税金を計算する「申告分離課税」となります。

(国税庁 タックスアンサー No.1463)

譲渡所得は、売った代金から取得費(株を手に入れるのにかかった額)などを引いて出します。

税率は、所得税15%(租税特別措置法37条の10第1項)と住民税5%です。

住民税の5%は、道府県民税と市町村民税の合計です(地方税法附則35条の2第1項・5項)。

所得税額の2.1%の復興特別所得税も加わり、合計は20.315%です。

令和9年分以後は、復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%に分かれます。

合計の2.1%は変わりません(復興財確法13条・防衛財確法5条の9)。

注意

売却益が大きい年は、所得税の上乗せも確かめます。令和9年分以後は、株式の譲渡所得を含む基準所得金額の1億6,500万円超の部分に30%を掛けます。これが通常の所得税額を上回ると、差額が加わります(措置法41条の19第1項)。令和8年分までは3億3,000万円と22.5%です(No.2270)。

株式譲渡では、代金が直接社長に入り、課税も社長個人の段階で済みます。

事業譲渡は、会社の法人税のあと、個人へ移すときにも課税されます

事業譲渡の代金は、売った会社の収益として益金になります(法人税法22条2項)。

法人税率は、資本金1億円以下の会社などの年800万円超の部分で23.2%です(No.5759)。

令和8年4月1日以後に開始する事業年度は、防衛特別法人税の対象です(防衛財確法9条・11条)。

社長が受け取る主な方法は、次の3つです。

  • 配当 ― 上場株式等以外の配当は総合課税で、ほかの所得と合算します(No.1330)。
  • 清算での残余財産の分配 ― 一部が配当とみなされます。資本金等の額の対応部分を超える額です(所得税法25条1項4号)。
  • 役員退職金 ― 退職所得になりますが、実質的な退職が前提で、損金は相当な額までです。

清算での退職金と分配の比べ方は、会社をたたむときの退職金の記事にあります。

買い手側ののれんと事業譲渡の消費税は、事業譲渡ののれんの記事をご覧ください。

項目株式譲渡事業譲渡
売る人社長(株主)会社
最初の課税社長個人の譲渡所得会社の法人税
社長の手元へ売却代金が直接入る配当・分配・退職金などで移す
売った後の会社買い手の会社になる社長の会社として残る

事業譲渡のお金を配当や清算で個人へ移すと、会社と個人の2段階で課税されます。

売る形と受け取り方は、契約や決議の前に比べておきます
売る形と受け取り方は、契約や決議の前に比べておきます

退職金を組み合わせると、一定の前提では手取りが増えます

株式を売る前に、会社から社長へ退職金を払う組み合わせがあります。

退職金は、退職所得控除額を引いた残りの2分の1が退職所得です(所得税法30条2項)。

控除額は、勤続20年超なら800万円+70万円×(勤続年数-20年)です(同条3項)。

退職所得は、原則としてほかの所得と分けて税額を計算します(No.1420)。

住民税は10%です(地方税法50条の4・328条の3)。

計算例

前提:社長1人が全株を保有し、役員の勤続30年、株の取得費1,000万円、ほかの所得なし。買い手が払う総額は2億円で、退職金の分だけ株の売値が下がり、特定役員退職手当等でない退職所得とします。

A 株式だけ (2億円-1,000万円)×20.315%=38,598,500円 B 退職金5,000万円+株式1億5,000万円 退職所得 (5,000万円-1,500万円)×1/2=1,750万円 所得税 1,750万円×33%-1,536,000円=4,239,000円 退職金の税金 4,239,000円+復興等89,019円+住民税175万円=6,078,019円 株式の税金 (1億5,000万円-1,000万円)×20.315%=28,441,000円 Bの合計 34,519,019円(Aより4,079,481円少ない) C 退職金1億円+株式1億円 合計37,163,409円(Aより1,435,091円少ない)

金額は一定の前提を置いた目安です。会社の法人税が減る効果は含めていません。

この前提では、退職金を1億1,900万円にすると、Aより税金が多くなりました。

退職所得は累進税率のため、一定の額を超えると有利さが縮むからです。

ポイント

相当な額の退職金は、会社の損金にもなりえます(No.5203)。その効果を売値に反映させるかは、買い手との交渉です。

退職金は「相当な額」と「実質的な退職」が前提です

退職金のうち不相当に高額な部分は、会社の損金になりません(法人税法34条2項)。

相当かどうかは、業務に従事した期間や退職の事情で判断します。

同業で規模が近い法人の支給状況にも照らします(法人税法施行令70条2号)。

M&Aでは、引継ぎのため売却後も役員に残ることがあります。

法人税で、役員を続けたまま払う退職金が退職金と扱われるのは次の場合です。

分掌変更によって役員としての地位や職務の内容が激変して、実質的に退職したと同様の事情にある場合に退職金として支給したものは、退職金として取り扱うことができます。

(国税庁 タックスアンサー No.5203)

例示は、常勤から非常勤、取締役から監査役、給与のおおむね50%以上の減少の3つです。

どの例示も、経営上主要な地位を占めている場合などは除かれます(No.5203)。所得税の退職所得の判定は、所得税基本通達30-2で別に行います。

注意

未払金等に計上したものは、原則として退職金として支給したものに含まれません(No.5203)。分掌変更の考え方は役員退職金の記事にもまとめています。

経営上主要な地位にとどまれば、法人税で退職金と扱われないことがあります。

退職金は、実質的な退職が前提です
退職金は、実質的な退職が前提です

見落としやすいのは、この5つの場面です

  • 取得費を示せない ― 売値の5%を取得費とする計算も認められています。根拠は措置法通達37の10・37の11共-13です。3,000万円で買った株を売値2億円の5%で計算すると、税金は4,063,000円増えます。
  • 経営の中心に残る ― 経営上主要な地位にあると、分掌変更の例示から除かれます(No.5203)。
  • 退職金が高すぎる ― 相当な額を超える部分は、会社の損金になりません(法人税法34条2項)。
  • 役員の期間が5年以下 ― 退職所得の2分の1の計算がありません(所得税法30条2項・5項)。
  • 事業譲渡の後、お金が会社に残る ― 配当や清算で個人へ移すとき、もう一度課税されます。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

売却の話が出たら、ご自身で用意できるのは次の4点です。

  1. 株主名簿と、設立時の払込や株を買ったときの書類を探す
  2. 登記簿で役員に就任した日を確かめ、勤続年数を数える
  3. 退職金規程と、株主総会の議事録があるかを確かめる
  4. 買い手の提案が株式譲渡か事業譲渡か、退職金を含むかを確かめる

どちらの形で売るか、退職金をいくらにするかは個別判断です。

売却後に役員として残るかどうかも、同じく個別判断です。

株の取得費の書類や議事録を、売却の前にそろえます
株の取得費の書類や議事録を、売却の前にそろえます

税理士が入ると変わるのは、手取りの比較と契約前の段取りです

小松公認会計士・税理士事務所では、売却の契約前から次の作業を行います。

  • 株式譲渡と事業譲渡で、社長の手取りを並べた試算表の作成
  • 退職金の額ごとの税額比較と、相当な額の根拠資料の整理
  • 役員の勤続年数と、株の取得費の書類の確認
  • 売却後も役員に残る場合の、職務と報酬の確認
  • 退職金規程と株主総会の議事録の整備
  • 売却した年の確定申告(株式の譲渡所得・退職所得)

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

小松公認会計士・税理士事務所 代表 小松優馬 登録者6,900人超

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よくある質問(FAQ)

Q1. M&Aで株式を売ったときの税率は何%ですか?

一般株式等の譲渡益は、ほかの所得と分ける申告分離課税です。税率は所得税15%と住民税5%です(租税特別措置法37条の10第1項・地方税法附則35条の2)。復興特別所得税を合わせて20.315%です。令和9年分以後は内訳が変わりますが、合計は同じです。売却益が大きい年は、所得税の上乗せがありえます(措置法41条の19)。

Q2. 事業譲渡の後、会社を清算してお金を受け取るとどうなりますか?

残余財産の分配の一部は、配当とみなされます(所得税法25条1項4号)。資本金等の額のうち、その株式に対応する部分を超える額です。上場株式等以外の配当は総合課税です(No.1330)。会社の法人税に加えて、個人でも課税されます。

Q3. 売却後も役員として残る場合、退職金は退職金として扱われますか?

法人税のNo.5203は、分掌変更で地位や職務の内容が激変した場合を挙げています。実質的に退職したと同様の事情にあれば、退職金として扱えます。ただし、経営上主要な地位を占めている場合などは除かれます。未払金等への計上も、原則として含まれません。所得税は通達30-2で別に判定します。

Q4. 株の取得費が分からないときはどうなりますか?

通達は、売った代金の5%を取得費とする計算も認めています。根拠は措置法通達37の10・37の11共-13です。実際の取得費が5%より大きいなら、払込や購入の書類で示せるかを確かめます。示せないと、税金が増えることがあります。

免責事項

本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。租税特別措置法37条の10第1項・41条の19第1項(令和8年法律第12号附則47条を含む)、地方税法附則35条の2第1項・5項、地方税法50条の4・328条の3、所得税法25条1項4号・30条2項・3項・5項、法人税法22条2項・34条2項、法人税法施行令70条2号、復興財確法13条、防衛財確法5条の5・5条の9・9条・11条、措置法通達37の10・37の11共-13、タックスアンサーNo.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」・No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」・No.5203・No.5759・No.1330・No.2260・No.2270の内容を扱っています。株式の売値(株価)の決め方、事業譲渡の消費税の区分と計算、買い手側の会計と税務、地方法人税・法人住民税・法人事業税の税率、防衛特別法人税の計算、特定の基準所得金額の課税の特例の具体的な計算、退職所得の源泉徴収と申告書の手続、短期退職手当等、退職金の相当額の算定方法、所得税で分掌変更後の退職金が退職所得に当たるかの判定、自己株式の取得、解散・清算の手続、事業承継税制、相続税・贈与税、会社分割などの組織再編、分割払いなど契約条件による課税の時期、株主が法人や非居住者の場合、社会保険料は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、売値・退職金の額・取得費・勤続年数によって結論が変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

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株式譲渡なら社長個人に申告分離課税、事業譲渡なら会社に法人税がかかります。事業譲渡のお金を配当や清算で個人へ移すときは、もう一度課税されます。退職金の組み合わせは一定の前提で手取りが増えましたが、額が大きいと逆転しました。相当な額であることと、実質的な退職も前提です。代表税理士が、手取りの試算、退職金の根拠の整理、売却した年の確定申告まで対応します。基本合意や契約の前の段階でご相談ください。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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