この記事のポイント
- 横領された額は損金になり、同額の損害賠償請求権も同じ年度の益金にするのが原則です
- 受け取った年度に収益にする通達2-1-43の扱いは、役員・社員には使えないとした裁決があります
- 一部の回収が難しいだけでは、全額を貸倒れにできないとした裁決があります
- 役員が得た会社のお金は、経営の実権を握っているかで給与とされるかが分かれた裁決があります
まず結論:横領の損失と損害賠償請求権は、同じ年度に計上するのが原則です
横領された額は、損失として損金(税金の計算で差し引ける費用)になります(法人税法22条3項3号)。
同時に会社は、本人への損害賠償請求権(損害の穴埋めを求める権利)を持ちます。
国税不服審判所(税務署の処分への不服を審査する機関)の裁決は、次を原則としています。
損失と同額の請求権を、同じ年度に損金と益金に計上します。
損失と請求権が同額なら、その年度の所得金額は変わりません。
商品の盗難では、請求権を仕入値でなく時価と送料で計算しました(令和元年5月16日裁決)。
本記事は法人の場合です。個人の方の盗難は雑損控除の記事で扱っています。

損害賠償金の計上時期は、法人税基本通達2-1-43が定めています
受け取った年度に益金にできるのは、「他の者」から受ける損害賠償金です。
他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。以下2-1-43において同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。
(法人税基本通達2-1-43)
原則は支払を受けることが確定した年度の益金で、実際に受け取った年度の益金にしても認める内容です。
同じ通達の注は、損失を損害が発生した年度の損金にできるとしています。保険金や共済金で補塡される部分は除きます。
会社が賠償金を払う側は、損害賠償金の記事をご覧ください。
社員や役員は「他の者」に当たらないとした裁決があります
横領したのが自社の社員や役員なら、受け取った年度に収益にする扱いは使えないとされています。
ここでいう「他の者」には役員又は使用人は含まれないものと解するのが相当である。
(平成23年2月8日裁決)
社内の人の不正は、外形上、会社自身の行為と区別がつかないためとされています。
当たるかどうかは不正をした時点で判断し、後で退職していても変わりません(同裁決)。
同時に計上する原則にも、例外があります。
権利の存在や内容を把握できず、権利行使が期待できない客観的な状況にあった場合です。
この判断は、通常人(ふつうの人)を基準にします。
注意
平成23年7月6日裁決は伝票の点検不足を、平成30年11月14日裁決は通帳の確認不足を挙げました。令和元年5月16日裁決は、仕入と売上・棚卸しの資料の照合で容易に発覚したとしました。3件とも、例外は認められていません。

過去の年度にまたがる横領は、各年度で計算し直します
横領が何年も続いていたときは、各年度で損失と請求権を計上します。
平成30年11月14日裁決は、同額の請求権も益金になるため、各年度の所得金額は変動しないとしました。
注意が必要なのは、横領が架空の経費で隠されていた場合です。
昭和54年12月12日裁決は、外注加工賃として詐取された額の損金算入を認めませんでした。
計算例
例:社員が3期にわたり、架空の外注費で毎期3,000,000円を抜いていた場合
各期の差引 横領損失 3,000,000円 - 損害賠償請求権 3,000,000円 = 0円 各期の所得の増加 架空の外注費の否認 3,000,000円 + 0円 = 3,000,000円 3期の合計 3,000,000円 × 3期 = 9,000,000円金額は、例外に当たらないことなど一定の前提を置いた目安です。
架空の経費として差し引いていた額は、原則としてその年度の所得に戻ります。
回収できないときは、貸倒れの要件で判断します
本人から回収できないときは、貸倒れ(回収できない債権を損失にする処理)を検討します。
法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。
(法人税基本通達9-6-2)
担保物があるときは、処分した後でなければ貸倒れにできません(同通達)。連帯保証人がいれば、その支払能力も見ます。
令和元年5月16日裁決は、全額の回収不能が客観的に明らかである必要があるとしました。
債務者の資産状況だけでなく、債権者側の事情なども含めて総合的に判断するとしています。
この事案では、当時は在職中で給与収入があり、会社は発覚後遅滞なく訴訟を起こしていました。
ポイント
同じ裁決は、一部の回収が難しいというだけでは、全額が回収不能とはいえないとしました。回収の交渉と入金の記録を、年度ごとに残すことが大切です。
1年以上の取引停止による貸倒れ(通達9-6-3)は売掛債権が対象で、貸付金などは含みません。
貸倒れ全般は、貸倒損失の記事にまとめています。

役員の横領や、消費税・源泉所得税にも影響が及びます
役員の横領も、通達2-1-43の「他の者」に当たらないとされています(平成23年2月8日裁決)。
この裁決では、経営に参画する常務取締役が不正を把握し、加担していました。
そのため例外に当たらず、会社の行為と同視されて重加算税も課されました。
一方、資材の調達を担当する一社員の不正では、会社の行為と同視されませんでした。
重加算税は、過少申告加算税の額を超える部分が取り消されています(平成23年7月6日裁決)。
平成19年10月3日裁決は、架空仕入れ等で出した現金を、代表者への役員賞与と認定しました。
代表者が経営と経理の実権を持つ唯一の者で、現金の使途が不明だった事案です。
代表者への賞与とした源泉所得税の納税告知処分は、適法とされています。
反対に平成30年5月7日裁決は、代表者以外の役員の横領金を、給与等に当たらないとしました。
会社を実質的に支配していたとは認められなかったためです。
2つの裁決では、経営の実権を握っているかが、給与とされるかの分かれ目でした。
補足
令和元年5月16日裁決は、商品を窃取された場合の損害賠償請求権を消費税の課税対象外としました。資産の譲渡等の対価に当たらず、消費税法基本通達5-2-5の例外にも当たらないためです。売上を抜かれた事案では、その売上に係る消費税の更正処分が維持されています(平成23年2月8日裁決)。

裁決で問題になった処理を5つ挙げます
- 損失だけを計上する ― 同額の請求権を益金にしない。
- 受け取るまで収益を先送りする ― 社員や役員の横領に、通達2-1-43の扱いを当てはめる。
- 架空の経費をそのままにする ― 架空の外注費などを、損金のまま申告している。
- 見込みだけで貸倒れにする ― 一部の回収が難しいだけで、全額を損失にする。
- 役員の関与を軽く見る ― 役員が把握していたのに、個人の不正として会社と切り離す。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
横領が分かったら、まず次の4点をご自身で整理してください。
- 横領の期間と金額を、事業年度ごとに一覧にする
- 手口が、売上の抜き取り・架空の経費・商品の持ち出しのどれかを分ける
- 本人の確認書、返済の合意書、訴訟の書類を保管する
- 回収できた額と日付を、継続して記録する
例外に当たるか、どの年度に貸倒れにできるかは、事実に応じた個別判断です。
役員が関わる場合や、過去の年度の申告の直し方も、事案ごとに判断が分かれます。
税理士が入ると変わるのは、年度ごとの計算と説明の資料です
小松公認会計士・税理士事務所では、発覚の段階から次の作業を行います。
ひとつめは、横領損失と請求権を、事業年度ごとに並べた計算表の作成です。
ふたつめは、架空の経費などがあった年度の修正申告の要否の確認と、申告書の作成です。
みっつめは、管理の状況と発覚の経緯をまとめ、例外に当たるかを整理することです。
よっつめは、回収の状況に応じた貸倒れの時期の判定と、その根拠資料の準備です。
いつつめは、役員が関わる場合の源泉所得税と、消費税への影響の確認です。
むっつめは、税務調査に備えた想定問答と、提出資料の準備です。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 社員の横領が分かりました。横領された額は損金になりますか?
損失として損金になります(法人税法22条3項3号)。ただし裁決は、同額の損害賠償請求権を同じ年度の益金に計上するのが原則としています。損失と請求権が同額なら、その年度の所得金額は変わりません。権利行使が期待できない客観的な状況にあった場合は例外です。
Q2. 横領した社員からの賠償金は、受け取った年度の収益にできますか?
法人税基本通達2-1-43は、「他の者」からの賠償金を受け取った年度の収益にする扱いも認めています。ただし裁決は、役員や使用人はこの「他の者」に含まれないとしています(平成23年2月8日裁決ほか)。不正の後に退職していても同じです。
Q3. 横領した元社員にお金がありません。いつ貸倒れにできますか?
回収不能による貸倒れは、全額の回収不能が明らかになった年度に行います(法人税基本通達9-6-2)。損金経理(決算で損失として処理)が要り、担保物は処分が先で、連帯保証人の支払能力も見ます。一部の回収が難しいだけでは足りないとした裁決があります(令和元年5月16日裁決)。
Q4. 役員の横領も、社員の横領と同じ扱いですか?
「他の者」に当たらない点は同じです。ただし、実権を持つ代表者が架空仕入れ等で出した使途不明の現金は、役員賞与とされました。源泉所得税の処分も適法とされています(平成19年10月3日裁決)。実権を持たない役員の横領金は、給与等に当たらないとした裁決もあります。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法22条3項、法人税基本通達2-1-43・9-6-2・9-6-3、消費税法基本通達5-2-5、国税不服審判所の昭和54年12月12日・平成19年10月3日・平成23年2月8日・平成23年7月6日・平成30年5月7日・平成30年11月14日・令和元年5月16日の各裁決の内容を扱っています。権利行使が期待できない客観的な状況に当たる具体的な基準、会計上の過年度の修正(前期損益修正)の処理と法人税の関係、修正申告と更正の請求の手続・期限、更正の期間制限、重加算税・過少申告加算税・延滞税の額、役員賞与とされた場合の法人税の損金算入、架空の経費に係る消費税の仕入税額控除、社員への債務免除の課税関係、保険金で補塡される場合の計算、判例の内容、刑事・民事の手続、個人の雑損控除は扱っていません。紹介した裁決の一部は当時の規定による事案です。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は会社ごとの所得や税率によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 法人税基本通達 第2章第1節第7款「その他の収益等」(2-1-43)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_01_06.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第6節第1款「金銭債権の貸倒れ」(9-6-2・9-6-3)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_06_01.htm
- 国税不服審判所 公表裁決事例(令和元年5月16日裁決)https://www.kfs.go.jp/service/JP/115/11/index.html
- 国税不服審判所 公表裁決事例(平成23年2月8日裁決)https://www.kfs.go.jp/service/JP/82/09/index.html
- 国税不服審判所 公表裁決事例要旨「給与等」(平成19年10月3日裁決・平成30年5月7日裁決)https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/1201000000.html
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