この記事のポイント
- 業務関連+故意・重過失なしなら給与以外の損金です
- 重過失や業務外なら、まず社員・役員への債権です
- 示談前でも相手方に申し出た額は、保険で埋まる分を除き未払計上できます
- 罰金・交通反則金は業務中でも損金になりません
まず結論:業務中で、故意・重過失がなければ損金になります
決め手は、業務の遂行に関連するかと、故意又は重過失があるかの2つです。
(1) その損害賠償金の対象となった行為等が法人の業務の遂行に関連するものであり、かつ、故意又は重過失に基づかないものである場合には、その支出した損害賠償金の額は給与以外の損金の額に算入する。
(2) その損害賠償金の対象となった行為等が、法人の業務の遂行に関連するものであるが故意又は重過失に基づくものである場合又は法人の業務の遂行に関連しないものである場合には、その支出した損害賠償金に相当する金額は当該役員又は使用人に対する債権とする。
(法人税基本通達9-7-16)
(1)に当たれば、払った損害賠償金は給与以外の損金です。

会社が払うのは、使用者責任があるからです
社員の事故の賠償は、法律上、会社も負います。
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
(民法715条1項)
同条3項は、会社から社員への求償権(立て替えた分を返してもらう権利)の行使を妨げないとしています。
| 事故の状況 | 会社の処理 | 根拠 |
|---|---|---|
| 業務中・故意重過失なし | 給与以外の損金 | 9-7-16(1) |
| 業務中・故意重過失あり | 社員・役員への債権 | 9-7-16(2) |
| 業務と関係ない | 社員・役員への債権 | 9-7-16(2) |
払った相手が被害者でも、会社の損金になるとは限りません。
重過失かどうかは、事故の中身で判断します
法人税基本通達9-7-16に、重過失の具体例はありません。
国税庁は、個人事業者の所得税の説明でこう例示しています。
例えば、交通事故の場合ですと、無免許運転、高速度運転、酒気帯び運転、信号無視などによる事故は、特別の事情がない限り重大な過失があったとされます。
(国税庁タックスアンサー No.1710)
法人の判定でも、事故報告書や警察の記録で事故の中身を確かめることが出発点です。
重過失なら、いったん社員への債権にします
故意・重過失の事故は、払った額をまず社員・役員への債権にします。
回収できない部分は、貸倒れとして損金経理できます(9-7-17)。
損金経理とは、決算で費用として処理することです。
ただし、回収できる部分まで落とすと給与になります。
ただし、当該貸倒れ等とした金額のうちその役員又は使用人の支払能力等からみて回収が確実であると認められる部分の金額については、これを当該役員又は使用人に対する給与とする。
(法人税基本通達9-7-17)
計算例
例1:社員の酒気帯び運転の事故で、会社が2,000,000円を賠償した
社員への求償債権 2,000,000円 支払能力からみて回収が確実な部分 500,000円 貸倒れとして損金経理できる額 2,000,000円 - 500,000円 = 1,500,000円 全額を貸倒れにした場合 500,000円は社員への給与金額は目安です。貸倒れの考え方は貸倒損失の記事をご覧ください。

示談の前でも、申し出た額は未払計上できます
法人が、その業務の遂行に関連して他の者に与えた損害につき賠償をする場合において、当該事業年度終了の日までにその賠償すべき額が確定していないときであっても、同日までにその額として相手方に申し出た金額(相手方に対する申出に代えて第三者に寄託した額を含む。)に相当する金額(保険金等により補塡されることが明らかな部分の金額を除く。)を当該事業年度の未払金に計上したときは、これを認める。
(法人税基本通達2-2-13)
本来、費用は決算日までに債務が確定したものだけが損金です(法人税法22条3項2号)。
2-2-13は、その例外として申し出た額の未払計上を認めています。
計算例
例2:決算日までに相手方へ5,000,000円を申し出た。保険で3,000,000円の補塡が明らか
当期に未払金に計上できる額 5,000,000円 - 3,000,000円 = 2,000,000円 翌期に5,200,000円で示談成立 翌期に所得から減る額 5,200,000円 - 3,000,000円 - 2,000,000円 = 200,000円債務確定の考え方は未払費用と債務確定の記事で扱っています。
人身事故の内払は、払った期の損金にできます
人身事故では、示談前に治療費などを払うことがあります。
自動車による人身事故(死亡又は傷害事故をいう。)に伴い、損害賠償金(9-7-16(2)に係る損害賠償金を除く。)として支出した金額は、示談の成立等による確定前においても、その支出の日の属する事業年度の損金の額に算入することができるものとする。
(法人税基本通達9-7-18)
その代わり、同じ額の保険金を益金に算入します。
限度は、保険金見積額から既に益金に入れた額を引いた残額です。
計算例
例3:保険金見積額3,000,000円。当期に800,000円、翌期に2,500,000円を内払
当期 損金800,000円/益金に算入する保険金800,000円 翌期の限度 3,000,000円 - 800,000円 = 2,200,000円 翌期 損金2,500,000円/益金に算入する保険金2,200,000円故意・重過失の事故や業務と関係ない事故は、この取扱いの対象外です。

罰金・交通反則金は、業務中でも損金になりません
被害者への賠償と、罰金・反則金は別物です。
内国法人が納付する次に掲げるものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 罰金及び科料(通告処分による罰金又は科料に相当するもの及び外国又はその地方公共団体が課する罰金又は科料に相当するものを含む。)並びに過料
(法人税法55条5項)
法人がその役員又は使用人に対して課された罰金若しくは科料、過料又は交通反則金を負担した場合において、その罰金等が法人の業務の遂行に関連してされた行為等に対して課されたものであるときは法人の損金の額に算入しないものとし、その他のものであるときはその役員又は使用人に対する給与とする。
(法人税基本通達9-5-12)
注意
被害者への賠償金と反則金を1つの科目にまとめないでください。反則金は別表四で加算します。租税公課と罰金の記事もご覧ください。
補足
被害者が個人なら、受け取る損害賠償金は所得税が非課税になる場合があります。心身の損害や、突発的な事故による資産の損害に基因するものです。ただし、商品(棚卸資産)の損害や必要経費を補う部分は収入金額です。根拠は所得税法9条1項18号と国税庁タックスアンサー No.1700です。
否認・指摘を受けやすいのは、この5つです
- 飲酒運転の事故の賠償金をそのまま損金にした ― 重過失なら、まず債権です
- 休日の私用運転の事故を会社が払い、雑損失にした ― 業務と関係なければ債権です
- 求償債権を払える役員の分まで貸倒れにした ― 回収確実な部分は給与です
- 示談前に、保険で戻る分まで未払計上した ― 補塡が明らかな部分は除きます
- 反則金を賠償金と一緒に経費にした ― 業務中でも損金不算入です
指摘の中心は、金額より「事故の中身の記録」です。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
決算の前にご自身で用意できるのは4点です。
- 事故報告書と、業務中だったことがわかる運行記録や日報を集める
- 警察の記録や違反の内容を確かめ、反則金の支払いを分けておく
- 相手方への申出書や示談書、支払いの記録を日付順に並べる
- 保険会社への請求額と、入金された保険金を一覧にする
重過失に当たるか、求償するか、どこまで回収できるかは個別判断です。

税理士が入ると変わるのは、判定の記録と期ズレの処理です
ひとつめは、9-7-16(1)と(2)のどちらに当たるかの判定と文書化です。
ふたつめは、求償債権の計上と貸倒れの金額の検討です。
みっつめは、申出額から保険で補塡される分を除いた未払計上額の計算です。
よっつめは、人身事故の内払と保険金の益金算入を、期をまたいで管理します。
いつつめは、反則金の別表四での加算と、給与とされる部分の確認です。
小松公認会計士・税理士事務所では、事故の記録から申告書まで通して担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 社員が営業車で事故を起こし、会社が示談金を払いました。損金になりますか?
業務の遂行に関連し、故意又は重過失に基づかない事故なら、給与以外の損金です(法人税基本通達9-7-16(1))。業務中でも故意・重過失があれば、払った額はまず社員への債権になります(同(2))。
Q2. 飲酒運転の事故の賠償金を会社が払いました。社員に請求しないといけませんか?
故意・重過失の事故なら、払った額は社員への債権です。社員の支払能力からみて求償できない部分は、貸倒れとして損金経理できます(9-7-17)。回収が確実な部分まで貸倒れにすると、その部分は給与とされます。
Q3. 決算日に示談がまとまっていません。今期の損金にできますか?
業務に関連し、故意・重過失のない事故が前提です(法人税基本通達9-7-16(1))。決算日までに相手方に申し出た金額は、未払金に計上できます(同2-2-13)。保険金等で補塡されることが明らかな部分は除きます。自動車の人身事故の内払は、支出した期の損金にできます(同9-7-18)。その場合、同じ額の保険金を保険金見積額の範囲で益金に入れます。
Q4. 社員の交通反則金を会社が払いました。経費にできますか?
業務に関連する反則金なら、できません。業務の遂行に関連して課された交通反則金を会社が負担したときは、損金の額に算入しないとされています(法人税基本通達9-5-12)。業務と関係ない反則金を負担すると、社員への給与になります。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法22条3項・55条5項、民法715条、所得税法9条1項18号、法人税基本通達2-2-12・2-2-13・9-5-12・9-7-16・9-7-17・9-7-18、国税庁タックスアンサー No.1700・No.1710の内容を扱っています。法人税の税率と税額への影響、法人税基本通達9-7-16自体に例示のない重過失の具体的な判定、裁決・判例、役員に対する給与とされた部分の定期同額給与などの損金算入の判定と源泉徴収の要否、使用者責任の免責の可否、会社自身が被害者として受け取る損害賠償金の益金計上の時期、保険金の益金算入時期の一般的な取扱い、損害賠償金に係る消費税の取扱い、自賠責保険・任意保険の補償内容、個人事業者の必要経費の取扱いは扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は事故の内容・示談の経過・保険金の額によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第7節第4款「その他」(9-7-16から9-7-18まで)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_07_04.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第2章第2節第2款「販売費及び一般管理費等」(2-2-12・2-2-13)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_02_02.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第5節第6款「罰科金」(9-5-12)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_05_06.htm
- e-Gov法令検索「法人税法」(22条・55条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- 国税庁 タックスアンサー No.1710 事業主・使用人が加害者として損害賠償金を支払ったときhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1710.htm
社員の事故の賠償金、損金か債権かを決算の前に確かめませんか
社員や役員の事故で会社が払った損害賠償金は、業務の遂行に関連し、故意又は重過失がなければ給与以外の損金です。重過失や業務外の事故なら、まず社員・役員への債権になり、回収が確実な部分まで貸倒れにすると給与とされます。示談前でも相手方に申し出た額は未払計上でき、罰金や交通反則金は業務中でも損金になりません。代表税理士が、事故の記録からの判定、求償債権と貸倒れの検討、示談前の未払計上、人身事故の内払と保険金の管理、申告書への反映まで通して対応します。事故が起きて示談の話が始まった段階でご相談ください。
無料相談を申し込む 法人顧問サービスの詳細を見る 約60秒で料金を自動見積り決算と申告だけのご依頼は、決算申告のみのプランをご覧ください。