不動産譲渡所得

不動産を売った年の所得控除
給与から引ききれない分は譲渡所得から引けます

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 所得控除は総所得金額から先に引き、残りを長期譲渡所得から引きます(所法87条2項)
  • 根拠は措法31条3項3号の読み替えです。短期譲渡所得は32条4項で準用されます
  • 引ききれない50万円を譲渡所得から引くと、税額は101,575円減ります(目安)
  • 住民税も同じ仕組みですが、控除額は所得税と異なり得ます(地方税法附則34条)

まず結論:給与や年金から引ききれない所得控除は、譲渡所得から引けます

退職後や年金生活の年に不動産を売ると、給与や年金の所得が少ないことがあります。

一方で、医療費控除や社会保険料控除、基礎控除などの所得控除はその年もあります。

所得控除とは、医療費や保険料などの事情に応じて所得から差し引ける金額のことです。

給与や年金の所得から引ききれなかった所得控除は、分離課税の譲渡所得から差し引けます。

分離課税とは、給与などの所得と分けて、別の税率で税額を計算する仕組みです。

根拠は所得税法87条の「順次控除する」という定めと、租税特別措置法31条3項3号の読み替えです。

この仕組みを知らずに所得控除の資料を集めないと、譲渡所得の税額が増えてしまいます。

この記事では条文の順序、計算例、住民税の扱い、申告で漏れやすい点を順に見ていきます。

給与や年金から引ききれない所得控除は譲渡所得から引けます
給与や年金から引ききれない所得控除は譲渡所得から引けます

条文の順序は「総所得金額 → 長期譲渡所得 → 山林所得 → 退職所得」です

所得控除をどの所得から引くかは、所得税法87条が定めています。

1項は、雑損控除と他の所得控除を行う場合には、まず雑損控除を行うと定めています。

2項は、控除する順番を次のように定めています。

前項の控除をすべき金額は、総所得金額、山林所得金額又は退職所得金額から順次控除する。

(所得税法87条2項)

総所得金額とは、給与所得や年金の雑所得などを合算した金額のことです。

この条文だけを読むと、分離課税の譲渡所得は出てきません。

そこで登場するのが、租税特別措置法31条3項3号の読み替え規定です。

所得税法第七十一条及び第七十二条から第八十七条までの規定の適用については、これらの規定中「総所得金額」とあるのは、「総所得金額、長期譲渡所得の金額」とする。

(租税特別措置法31条3項3号)

読み替えの結果、87条2項の「総所得金額」の後に「長期譲渡所得の金額」が入ります。

つまり所得控除は総所得金額から先に引き、残りを長期譲渡所得の金額から引く順序です。

短期譲渡所得についても、措置法32条4項がこの規定を準用しています。

32条4項では「長期譲渡所得の金額」を「短期譲渡所得の金額」と読み替えます。

ポイント

読み替え後の順序は総所得金額 → 分離課税の譲渡所得 → 山林所得金額 → 退職所得金額です。特別な手続はいりません。確定申告書の計算の流れの中で、この順序どおりに控除されます。所得控除を引いた後の金額を「課税長期譲渡所得金額」と呼びます(措置法31条1項)。

計算例:引ききれない50万円で、税額が101,575円変わります

結論として、譲渡所得から引く50万円の所得控除は、税額にして101,575円の差になります。

一定の前提を置いた目安として、次の例で確かめます。

計算例

例:総所得金額100万円、所得控除の合計150万円、長期譲渡所得2,000万円(特別控除なし)の場合

①総所得金額から控除:100万円 - 150万円 → 課税総所得金額 0円(引ききれない額 50万円)②長期譲渡所得から控除:2,000万円 - 50万円 = 1,950万円(課税長期譲渡所得金額)所得税 = 1,950万円 × 15% = 2,925,000円復興特別所得税 = 2,925,000円 × 2.1% = 61,425円住民税 = 1,950万円 × 5% = 975,000円合計 = 3,961,425円【50万円を引かなかった場合】2,000万円 × 20.315% = 4,063,000円差額 = 101,575円(= 50万円 × 20.315%)

税率は、タックスアンサーNo.3208のとおり所得税15%・住民税5%です。

復興特別所得税は、所得税額に2.1%を掛けて計算します。

所得控除は「使い切れずに消える」のではなく、譲渡所得の税額を減らす形で生きてきます。

この例では、住民税の所得控除額を所得税と同額と置いています。実際は異なり得ます。

所有期間10年超のマイホームには軽減税率の特例がありますが、この例では使っていません。

短期譲渡所得の場合の税率は、所得税30%・住民税9%です(No.3211)。

引ききれない所得控除50万円で税額は101,575円変わります
引ききれない所得控除50万円で税額は101,575円変わります

住民税も同じ仕組みですが、控除額は所得税と異なり得ます

住民税でも、所得控除は総所得金額から先に引き、残りを長期譲渡所得の金額から引きます。

地方税法附則34条3項3号(道府県民税)と同条6項3号(市町村民税)が、読み替えを定めています。

読み替えの対象は、地方税法34条と314条の2です。どちらも見出しは「所得控除」です。

読み替え後は、「総所得金額」が「総所得金額、附則第34条に規定する長期譲渡所得の金額」となります。

つまり住民税でも、引ききれない所得控除は長期譲渡所得から差し引かれます。

ただし、住民税の所得控除の金額は、地方税法34条・314条の2に別に定められています。

所得税の控除額とそのまま同じとは限りません。

補足

長期譲渡所得に対する住民税の税率は、地方税法附則34条に定めがあります。道府県民税2%・市町村民税3%で、合わせて5%です(指定都市は1%・4%)。短期譲渡所得については、附則35条に同じ趣旨の読み替えがあります。

住民税も同じ仕組みですが控除額は所得税と異なり得ます
住民税も同じ仕組みですが控除額は所得税と異なり得ます

申告で漏れやすいのは「所得控除の資料を集めない」ことです

失敗の多くは、条文の理解ではなく資料集めの段階で起きています。

よくあるパターンを挙げます。

  • 「給与がほとんどないから医療費控除は意味がない」と考え、領収書を集めない
  • 年金から天引きされた社会保険料や、家族の国民健康保険料を控除に入れない
  • 生命保険料や地震保険料の控除証明書を、譲渡の申告とは無関係だと思って捨てる
  • 譲渡所得の内訳書だけを作り、申告書の所得控除欄を埋めずに提出する

どのパターンでも、総所得金額から引ききれない分が譲渡所得から引かれないまま終わります。

医療費控除の対象や集め方は医療費控除の記事で確認できます。

注意

所得控除の順序とは別に、譲渡所得が合計所得金額に与える影響も確認が必要です。扶養や配偶者控除の判定については不動産を売った年の合計所得金額の記事をご覧ください。また、譲渡で損失が出た年は、本記事の対象外です。

所得控除の資料を集めないことが最も多い漏れです
所得控除の資料を集めないことが最も多い漏れです

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

所得控除の資料をそろえるところまでは、ご自身で進められます。

  1. 売却した年の給与や年金の源泉徴収票を用意する
  2. 医療費の領収書と、社会保険料・生命保険料・地震保険料の控除証明書を集める
  3. 売買契約書や取得時の資料から、譲渡所得の金額を出す
  4. 総所得金額から所得控除を引き、引ききれない額を確認する

難しくなるのは、ここからです。

所得控除にはそれぞれ要件や計算式があり、どこまで入るかの判断は控除ごとに違います。

取得費が分からない場合や、特別控除・軽減税率を使う場合は、譲渡所得の計算自体が変わります。

雑損控除がある年は、87条1項によりまず雑損控除から行う点も見落としがちです。

住民税の控除額や扶養への影響まで含めると、ご自身で全体像を出すのは簡単ではありません。

税理士が入ると、控除の漏れを申告書の数字で確かめられます

税理士が関わると、資料集めから申告書への反映までが一本につながります。

小松公認会計士・税理士事務所では、次のことを行います。

  • 売却の資料と控除証明書をもとに、必要な資料の一覧をお渡しする
  • 総所得金額と分離課税の譲渡所得を並べ、控除の順序を試算表で示す
  • 引ききれない所得控除が課税長期譲渡所得金額に反映されているかを申告書で確認する
  • 特別控除や軽減税率の適用可否を検討し、内訳書と申告書に反映する
  • 扶養や住民税への影響を、申告前に数字でお伝えする

「税額がこれだけ変わる」と数字で確かめてから提出できることが、最大の違いです。

所得控除の資料がすべてそろっていなくても、分かる範囲でかまいません。

売却した年の資料をもとに、控除の漏れがないかを一緒に確認します。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

小松公認会計士・税理士事務所 代表 小松優馬 登録者6,900人超

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よくある質問(FAQ)

Q1. 退職して給与がほとんどありません。医療費控除は意味がありませんか?

意味があります。所得控除は総所得金額から先に引き、引ききれない分は長期譲渡所得の金額から引きます(所法87条2項・措法31条3項3号)。譲渡所得の税額を減らす形で生きますので、領収書は集めてください。

Q2. 譲渡所得から所得控除を引くために、特別な手続はいりますか?

いりません。確定申告書の計算の流れの中で、順序どおりに控除されます。ただし、申告書の所得控除欄に金額を書かなければ控除されません。控除証明書などの資料をそろえて申告することが前提です。

Q3. 短期譲渡所得でも、引ききれない所得控除を引けますか?

引けます。措置法32条4項が31条3項の規定を準用し、「長期譲渡所得の金額」を「短期譲渡所得の金額」と読み替えます。短期譲渡所得の税率は所得税30%・住民税9%です(No.3211)。

Q4. 住民税でも同じように譲渡所得から引けますか?

同じ仕組みです。地方税法附則34条3項3号・6項3号が、所得控除の規定の「総所得金額」を「総所得金額、長期譲渡所得の金額」と読み替えています。ただし住民税の所得控除額は所得税と異なり得ます

免責事項

本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法87条、租税特別措置法31条1項・3項3号、同法32条1項・4項、地方税法附則34条3項3号・6項3号、国税庁タックスアンサーNo.1100「所得控除のあらまし」、No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」、No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」を扱っています。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、住民税の所得控除額を所得税と同額と置いた簡略計算です。実際の税額は個別の事情により異なります。各所得控除の金額要件や計算式、総所得金額・長期・短期・山林・退職の各所得が同時にある場合の全体の順序、株式等や先物取引に係る所得との順序、住宅ローン控除などの税額控除の順序、住民税の所得控除の具体的な金額、譲渡損失が出た年の所得控除の扱い、居住用財産の特別控除や軽減税率の適用要件については扱っていません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

不動産を売った年の所得控除、引ききれない分まで申告書に反映できていますか

退職後や年金生活の年に不動産を売ると、給与や年金から引ききれない所得控除が出やすくなります。その分は譲渡所得から引けますが、資料を集めていなければ控除されないまま申告が終わります。代表税理士が売却の資料と控除証明書を拝見し、控除の順序を試算表で示したうえで、内訳書の作成から申告まで対応します。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者6,500人超)。

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