この記事のポイント
- 保険料の政令では、所得割は譲渡所得の特別控除後の額で計算します
- 一方、7割・5割・2割の軽減の判定は特別控除前の額で見ます
- 介護保険料の所得段階や窓口負担の所得判定も、特別控除後の額です。住民税の課税・非課税の判定は控除前です
- 3,000万円控除は確定申告書への記載と明細書の添付が要件です。税額ゼロでも同じです
まず結論:所得割は特別控除後、軽減の判定は特別控除前で見ます
不動産を売った翌年度は、国民健康保険料が変わることがあります。
保険料は、前年の所得をもとに計算するためです。
政令の基準では、土地建物の譲渡所得も保険料の計算に入ります。
所得割(所得に応じた部分)は、譲渡所得から3,000万円控除などを引いた後の額で計算します。
一方、保険料の軽減(7割・5割・2割)の判定は、特別控除前の額で見ます。
扶養への影響は合計所得金額の記事で扱っています。この記事は保険料と窓口負担に絞ります。

国保料の所得割は「特別控除後」の譲渡所得で計算します
市町村の国民健康保険料は、政令の基準に沿って計算します。
現行の政令は、4つの賦課額を合算します(国民健康保険法施行令(国保令)29条の7第1項)。
医療分・後期高齢者支援金等分・介護納付金分・子ども・子育て支援納付金分です。
どの所得割も「基礎控除後の総所得金額等」に按分して計算します(同条2項4号など)。
これは、前年の所得の合計から住民税の基礎控除を引いた額です。
分離課税の譲渡所得の扱いは、国保令27条の2第1項1号の定義によります。
これらの規定の適用により同法第三十一条第一項に規定する長期譲渡所得の金額から控除する金額を控除した金額
(国保令27条の2第1項1号。国保令29条の7第2項4号も、この定義を使います)
「これらの規定」は、租税特別措置法(措法)33条の4・34条・35条などの特別控除です。
3,000万円控除(措法35条1項)も含みます。
特別控除で譲渡所得がゼロになれば、所得割の基礎には入りません。
広島市・長野市の令和8年度の説明も、譲渡所得は特別控除後の額としています。
特別控除の種類は特別控除7種類の記事をご覧ください。
補足
国民健康保険は、市町村により「保険料」か「保険税」で集めます。この記事の条文は保険料の政令です。保険税も、地方税法附則36条1項で同じ書き分けです。
軽減の判定は「特別控除前」の額で見ます
所得の少ない世帯は、均等割などが7割・5割・2割軽くなります(国保令29条の7第6項)。
この判定に使う所得の定義には、特別控除を引く括弧書きがありません。
判定に入るのは、地方税法附則34条4項の長期譲渡所得の金額です(国保令29条の7第6項1号)。
附則34条4項は、控除前を「長期譲渡所得の金額」、控除後を「課税長期譲渡所得金額」と呼びます。
分離譲渡所得(土地建物等)は、特別控除前の所得額で判定
(長野市「国民健康保険料の計算・軽減・減免」)
自宅を売って税金がゼロでも、翌年度に軽減が外れることがあります。
判定は、世帯主と世帯の被保険者の所得を合算して行います。家族の売却も影響します。
後期高齢者医療も同じ書き分けです。
根拠は高齢者の医療の確保に関する法律施行令(高齢者医療令)18条5項1号です。

数字で見る:特別控除の有無で所得割の基礎が変わります
同じ300万円の譲渡所得でも、特別控除を使えるかで結果が分かれます。
計算例
例:前年に土地建物を売り、特別控除前の譲渡所得が300万円(所得割率は仮に合計10%)
① 自宅で3,000万円控除を使う:300万円 − 300万円 = 0円 → 所得割の増加 0円 ② 特別控除のない売却:300万円 × 10% = 30万円 → 所得割が30万円増える 軽減の判定に入る譲渡所得:①も②も300万円所得割率を仮に置いた、一定の前提による目安です。
基礎控除はほかの所得から引ききり、上限額に届かない前提としています。
実際の料率と上限額(賦課限度額)は、市町村ごとに違います。
窓口負担・高額療養費・介護保険料も、前年の所得で変わります
保険料のほか、医療費の自己負担の割合や区分も前年の所得で決まります。
次の表の判定に使う所得は、軽減の判定を除き特別控除後の額です。
| 項目 | 譲渡所得の扱い | 政令の根拠 |
|---|---|---|
| 国保料の所得割 | 特別控除後 | 国保令29条の7第2項4号 |
| 国保料の軽減の判定 | 特別控除前 | 国保令29条の7第6項1号 |
| 70歳未満の高額療養費の区分 | 特別控除後 | 国保令29条の3第2項 |
| 70歳以上の国保の3割負担の判定 | 特別控除後 | 国保令27条の2第1項 |
| 後期高齢者医療の所得割 | 特別控除後 | 高齢者医療令18条1項3号 |
| 後期高齢者医療の軽減の判定 | 特別控除前 | 高齢者医療令18条5項1号 |
| 後期高齢者医療の2割・3割負担の判定 | 特別控除後 | 高齢者医療令7条 |
| 65歳以上の介護保険料の所得段階 | 特別控除後 | 介護保険法施行令38条1項6号イ |
| 介護サービスの2割・3割負担の判定 | 特別控除後 | 介護保険法施行令22条の2 |
70歳未満の高額療養費の区分は、住民税非課税の区分を除き、世帯の基準所得額の合計で決まります。
この区分は、令和9年8月1日から細かく分かれます(令和8年政令第240号)。
窓口負担と高額療養費は、療養のあった月が1〜7月なら前々年の所得で判定します。
たとえば令和8年に売った所得は、令和9年8月から令和10年7月までの判定に使われます。
注意
国保の70歳以上と後期高齢者医療の3割負担には、収入の額による例外もあります。根拠は国保令27条の2第3項と高齢者医療令7条5項です。収入の例外は本記事では扱いません。介護保険料の段階には住民税の課税・非課税で分かれる部分もあり、その判定には特別控除前の譲渡所得が入ります(地方税法附則34条6項)。

確定申告をしないと、3,000万円控除は保険料の計算でも引かれません
3,000万円控除は、確定申告書への記載と明細書の添付が要件です(措法35条12項)。
この特例の適用を受けるためには、一定の書類を添えて確定申告をすることが必要です。
(国税庁 タックスアンサー No.3302)
やむを得ない事情があると税務署長が認めるときの例外もあります(措法35条13項)。
特例を使わなければ、保険料の計算でも特別控除は差し引かれません。
政令は、特別控除の規定の「適用がある場合」に控除すると定めているためです。
ポイント
確定申告書を出すと、住民税の申告書も出したものとみなされます(地方税法317条の3第1項)。ただし、政令で定める場合は除かれます。確定申告書には、住民税に必要な事項を付記します(同条3項)。
長野市は、住民税の申告がないと所得が不明のため、軽減を適用できないとしています。
つまずきやすいのは、この5つです
- 税額ゼロなので申告しない ― 3,000万円控除が使えず、保険料の計算でも引かれません
- 所得割だけを見る ― 軽減は特別控除前の額で判定します
- 自分の売却だけで考える ― 軽減と高額療養費の区分は世帯で合算します
- 特別控除の要件に当たらない売却 ― 譲渡所得が所得割の基礎にそのまま入ります
- 翌年度だけで終わると考える ― 窓口負担の判定は翌々年7月まで続きます
住民税の納付時期と資金の準備は売却翌年の住民税の記事をご覧ください。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
使う特例と世帯の所得を並べるところまでは、ご自身でできます。
- 売る物件に使える特別控除があるかを、国税庁の案内で確かめる
- 特別控除の前と後の譲渡所得を、それぞれ見積もる
- 世帯全員の前年の所得と、65歳・70歳・75歳の年齢区分を書き出す
- 住所地の市町村のページで、保険料か保険税か、料率と上限額を確かめる
ここから先は、要件と世帯の事情で結論が変わります。
特例の要件の判定、売る時期の比較、軽減と区分の見通しは個別に判断します。

税理士が入ると変わるのは、2つの所得の試算と申告書への反映です
ひとつめは、取得費と譲渡費用を確かめ、譲渡所得を計算することです。
ふたつめは、特例の要件を確かめ、明細書と添付書類をそろえることです。
みっつめは、特別控除の前と後の2つの金額を並べた試算表を作ることです。
よっつめは、世帯の所得を合わせ、軽減と区分が変わる線を確かめることです。
いつつめは、計算を確定申告書に反映することです。住民税の申告も兼ねます。
小松公認会計士・税理士事務所では、売る前の試算から確定申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 3,000万円控除を使えば、国民健康保険料は上がりませんか?
保険料の政令では、所得割の基礎に入る譲渡所得は特別控除後の額です(国保令27条の2第1項1号・29条の7第2項4号)。控除でゼロなら所得割は増えません。ただし軽減の判定は特別控除前の額で見るため、軽減が外れることがあります。
Q2. 保険料や窓口負担が変わるのは、いつからですか?
保険料は前年の所得で計算するため、売った翌年度の保険料に反映されます。窓口負担と高額療養費は、療養のあった月が1〜7月なら前々年の所得で判定します(国保令27条の2第1項・29条の3第1項)。
Q3. 75歳以上や65歳以上の保険料も同じ考え方ですか?
後期高齢者医療は、所得割が特別控除後、軽減の判定が特別控除前です(高齢者医療令18条1項3号・5項1号)。65歳以上の介護保険料のうち合計所得金額で分ける段階は、特別控除額を引いた額で判定します(介護保険法施行令38条1項6号イ)。
Q4. 確定申告をしないと、保険料はどうなりますか?
3,000万円控除は、確定申告書への記載と明細書の添付が要件です(措法35条12項。例外は同条13項)。特例を使わなければ、保険料の計算でも控除されません。確定申告書を出せば、原則として住民税の申告をしたものとみなされます(地方税法317条の3第1項)。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。国民健康保険法42条1項、国民健康保険法施行令27条の2・29条の3・29条の7、高齢者の医療の確保に関する法律67条1項、同法施行令7条・18条、介護保険法施行令22条の2・38条、地方税法317条の3・附則34条・附則36条、租税特別措置法35条1項・12項・13項、国税庁タックスアンサー No.3302、広島市・長野市の公表資料(令和8年度)を扱っています。国民健康保険税を採る市町村の計算の細目(地方税法703条の4・703条の5と施行令)、各市町村の料率・均等割額・賦課限度額、軽減の判定基準額、70歳以上と75歳以上の3割負担の収入基準、高額療養費の自己負担限度額と令和9年8月1日施行の改正(令和8年政令第240号)後の区分ごとの基準額、住民税の課税・非課税の判定、介護保険料の非課税段階の判定、各特別控除の適用要件、売却時期による有利不利の判定は扱っていません。記事中の計算例は所得割率を仮に置いた一定の前提による目安であり、実際の保険料は市町村の料率と上限額、世帯の所得と人数によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索 国民健康保険法施行令https://laws.e-gov.go.jp/law/333CO0000000362
- e-Gov法令検索 高齢者の医療の確保に関する法律施行令https://laws.e-gov.go.jp/law/419CO0000000318
- e-Gov法令検索 介護保険法施行令https://laws.e-gov.go.jp/law/410CO0000000412
- 長野市「国民健康保険料の計算・軽減・減免」https://www.city.nagano.nagano.jp/n104500/contents/p000303.html
- 国税庁 タックスアンサー No.3302 マイホームを売ったときの特例https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
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国民健康保険料・介護保険料・後期高齢者医療の保険料は、特別控除の前と後のどちらの所得で判定するかが項目ごとに違います。代表税理士が、譲渡所得の計算と特例の要件確認から、翌年度の所得割の基礎と軽減の判定に入る所得の試算まで行い、確定申告書に反映します。売却の契約前の段階でご相談ください。
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