この記事のポイント
- 売るときの建物の取得費からは、入れ忘れた年の分も含めて毎年の償却費が引かれます
- 貸している間の修繕費は家賃収入の経費ですが、売るときの譲渡費用にはなりません
- 入居者への立退料は、売るための立退きなら譲渡費用、それ以外は家賃収入の経費です
- 償却の入れ忘れは、法定申告期限から5年以内なら更正の請求ができる場合があります
まず結論:売る前の年の申告と準備が、売る年の税金につながります
賃貸物件を売るときの税金は、売った金額から取得費と譲渡費用を引いて計算します。
取得費は買ったときの代金など、譲渡費用は売るために直接かかった費用です。
立退料は目的によって差し引く所得が変わり、修繕費は時期によって差し引けるかが変わります。
売る前の年に確かめたいのは、償却の記録・修繕の時期・入居者の状況の3つです。
売る年の税額の計算と特例は、賃貸物件を売ったときの譲渡所得の記事で解説しています。
この記事は、売る前の年の家賃収入の申告と準備に絞ります。

減価償却の累計が、売るときの建物の取得費を決めます
貸している建物の取得費は、取得価額から、貸していた間の償却費の合計を引いた額です。
貸していた期間は、経費に算入される償却費の累積額を引きます(所得税法38条2項1号)。
国税庁のタックスアンサー(よくある質問への回答)は、次のように案内しています。
仮に毎年の減価償却費の額を必要経費としていない部分があったとしても、毎年の減価償却費の額を合計することに変わりはありません。
(国税庁タックスアンサー No.3261)
償却費を入れ忘れた年があっても、売るときの取得費からはその分も引かれます。
入れ忘れた年は、家賃収入の所得を多く申告していたことになります。
計算例
例:令和2年1月に新築し、同月から貸している木造アパートを令和9年に売る予定の場合
建物の取得価額 20,000,000円(定額法・耐用年数22年・償却率0.046) 1年分の償却費 20,000,000円 × 0.046 = 920,000円 令和2年から令和8年までの7年分 920,000円 × 7年 = 6,440,000円 令和9年1月1日の未償却残高 20,000,000円 - 6,440,000円 = 13,560,000円 令和5年分を入れ忘れていても、令和8年までの分として引く額は 6,440,000円 のままです耐用年数と償却率は、耐用年数省令の別表第一・別表第八によります。
金額は一定の前提を置いた目安です。未償却残高とは、まだ償却していない残りの金額です。
平成19年4月1日以後に取得した建物は、定額法で償却します(所得税法施行令120条の2)。
売る年の償却費の扱いは、売った年の家賃収入の申告の記事で解説しています。
注意
入れ忘れた年分は、法定申告期限から5年以内なら、更正の請求ができる場合があります。納め過ぎた税金を正すよう、税務署に求める手続です(国税通則法23条1項)。最終的な税額などが変わらないときは、請求できません(No.2026)。
売る前の年のうちに、過去の申告書の減価償却の欄を年ごとに並べて確かめます。

修繕は、貸している間にするかどうかで行き先が変わります
貸している建物の修繕費は、その年の家賃収入の所得(不動産所得)の必要経費です(No.1370)。
通常の維持管理や修理のための支出が対象です(No.1379)。
一方で、修繕費は売るときの譲渡費用になりません。
したがって、修繕費や固定資産税などその資産の維持や管理のためにかかった費用、売った代金の取立てのための費用などは譲渡費用になりません。
(国税庁タックスアンサー No.3255)
修繕費は売るときの計算で差し引けないため、貸している間の修繕かどうかが分かれ目です。
価値を高めたり、使える期間を延ばしたりする部分は、資本的支出です(No.1379)。
資本的支出は、減価償却で各年の必要経費にします(同)。
売るときは改良費として取得費に入り、償却した分を差し引きます(所得税法38条1項・2項)。
修繕費か資本的支出かは、名目ではなく実質で判定します(No.1379)。
修繕費は、その年に債務が確定しないと、その年の経費になりません(所得税法37条1項)。
ポイント
貸すのをやめた後の修繕費が、家賃収入の経費になるかは個別の判断です。工事は、貸し続けている間に行うかも含めて、発注の前に確かめます。
入居者の状況で、立退料と敷金の行き先が変わります
空室にしてから売るか、入居者がいるまま売るかで、お金の行き先が変わります。
賃貸している建物やその敷地を譲渡するために支払う立退料は、譲渡に要した費用として譲渡所得の金額の計算上控除されます。
(国税庁タックスアンサー No.1382)
売るためでない、入居者を立ち退かせるための立退料は、家賃収入の必要経費になります(同)。
同じ立退料でも、売るための立退きかどうかで、差し引く所得が変わります。
退去で返さないことになった敷金は、家賃収入の収入金額に入ります(No.1370)。
入居者がいるまま売るときの精算は、オーナーチェンジで売るときの記事で解説しています。
取得費から引く額は、業務に使っていた期間とそれ以外の期間で計算が違います(所得税法38条2項)。
業務以外の期間は、耐用年数の1.5倍の年数で旧定額法に準じて計算します(所得税法施行令85条)。
貸すのをやめてから売るまでの期間がどちらに当たるかは、個別の判断です。

失敗パターン:売る前の年の申告で起きる4つのずれ
次の4つは、売る年の取得費や譲渡費用の計算にも響くずれです。
- 償却費を入れ忘れた年がある ― 取得費からは引かれます(No.3261)。家賃収入の税金を多く払っている場合があります。
- 修繕費を、売るときの譲渡費用に回した ― 修繕費は譲渡費用になりません(No.3255)。
- 価値を高める工事を、全額修繕費にした ― 資本的支出は減価償却します(No.1379)。売るときの取得費もずれます。
- 売るための立退料を、家賃収入の経費にした ― 譲渡所得の計算で差し引く費用です(No.1382)。
取得費が分からないときは、売った金額の5%を取得費とすることができます(No.3258)。
記録は売る年を待たずに、売る前の年のうちにそろえます。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
売る前の年に、ご自身でそろえられるのは次の5つです。
- 買ったときの売買契約書や請負契約書で、建物と土地の金額を確かめる
- 過去の青色申告決算書や収支内訳書の減価償却の欄を、年ごとに並べる
- 予定の工事の見積書を取り、内容と完了の時期を書き出す
- 賃貸借契約書で、入居者ごとの契約期間と敷金の額を一覧にする
- 立ち退きの話し合いの経緯と、立退料の約束を書面で残す
修繕か資本的支出か、立退料が売るためか、空室の期間の扱いは個別判断です。
過去の申告を直すかどうかも、税額への影響と期限を見て判断します。

税理士に頼むと変わるのは、過去の申告の点検と売る年の見込みです
小松公認会計士・税理士事務所では、売る前の年に次の作業を行います。
- 過去の申告書から償却費を年ごとに洗い出し、未償却残高を確かめる
- 入れ忘れが見つかった年分について、更正の請求をするかを判断し、書類を作る
- 工事の見積書を見て、修繕費か資本的支出か、どの年の経費かを判断する
- 売る年の取得費と譲渡所得の見込みを、売買の契約の前に計算する
- 売る前の年の青色申告決算書(または収支内訳書)と確定申告書を作り、電子申告で出す
書類のやり取りから申告まで、全国どこからでもオンラインで完結します。
料金の目安
基本料金32,000円(税込35,200円)に、当てはまる所得・控除ごとの単価を足した額が料金です。個人の確定申告は最低料金65,000円(税別・税込71,500円)からお引き受けしています。償却の入れ忘れを直す更正の請求も、同じ料金体系です。
通常料金での計算例:会社員で、家賃収入が年300万円以下の1物件の場合です。基本料金に、給与所得6,000円・家賃収入35,000円・その他控除セット6,000円を足します。合計は32,000円+6,000円+35,000円+6,000円=79,000円です。税込みでは86,900円です。計算例は一定の前提を置いた目安です。
家賃収入が300万円を超えるときや複数の物件では、料金が変わります。ご自身の料金は60秒見積りで確かめられます。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
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よくある質問(FAQ)
Q1. 売る前の年に修繕しておくと、売るときの税金は軽くなりますか?
貸している間の修繕費は、その年の不動産所得の必要経費です(No.1370)。一方、修繕費は売るときの譲渡費用にはなりません(No.3255)。価値を高める工事は資本的支出として償却し、売るときは取得費の計算に入ります(所得税法38条)。
Q2. 過去に減価償却費を入れ忘れた年があります。売るときに取り戻せますか?
貸していた建物は、経費にしていない年の分も合計して取得費から引きます(No.3261)。売るときの取得費で取り戻すことはできません。入れ忘れた年分は、法定申告期限から5年以内なら更正の請求ができる場合があります(No.2026)。
Q3. 入居者に退去してもらってから売るとき、立退料はどう扱いますか?
賃貸している建物やその敷地を売るために払う立退料は、譲渡費用として差し引きます(No.1382)。これに当たらない、入居者を立ち退かせるための立退料は、不動産所得の必要経費です。どちらに当たるかは、立ち退きの目的や時期などの事実で判断します。
Q4. 来年に売るか、再来年に売るかで、税金は変わりますか?
売った年の1月1日に所有期間が5年を超えると、長期譲渡所得です(No.3208)。5年以下だと短期譲渡所得です(No.3211)。税率は長期が所得税15%・住民税5%、短期が所得税30%・住民税9%です。このほか、復興特別所得税などがかかります。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法37条1項・38条1項・2項、所得税法施行令85条1項・120条の2第1項、国税通則法23条1項、減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第一・別表第八、所得税基本通達33-7、タックスアンサーNo.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」・No.1379「修繕費とならないものの判定」・No.1382「立退料を支払ったとき」・No.2026「確定申告を間違えたとき」・No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」・No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」・No.3255「譲渡費用となるもの」・No.3258「取得費が分からないとき」・No.3261「建物の取得費の計算」、弊所の料金表の内容を扱っています。売る年の譲渡所得の計算と特例、売る年の不動産所得の月数按分と固定資産税の精算金、入居者付きで売るときの敷金の引継ぎの細目、修繕費と資本的支出の形式基準と資本的支出の償却の方法、中古で取得した建物の耐用年数、平成19年3月31日以前に取得した建物の償却、貸付けをやめてから売るまでの期間の判定基準とその期間の費用の扱い、立退料の金額の相当性、事業的規模の判定と青色申告特別控除(令和9年分以後の見直しを含む)、消費税、借入金の利息、損益通算、復興特別所得税・防衛特別所得税と住民税の細目、更正の請求の手続の細目と修正申告・加算税、取得費の合理的な算定、相続や贈与で取得した物件の取得費は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は物件や申告の内容によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「所得税法」(37条・38条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 国税庁 タックスアンサー No.3261「建物の取得費の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3255「譲渡費用となるもの」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1382「立退料を支払ったとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1382.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2026「確定申告を間違えたとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2026.htm
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