この記事のポイント
- 800万円控除は、条文の各号に当たる手続での譲渡に使えます
- 控除は対象の土地の譲渡益が限度。余りは対象外の土地に回せません
- 税額がゼロでも、申告書への記載と証明書類の添付が要件です(例外規定あり)
- 対象の土地の一部でも事業用資産の買換え・交換の特例を受けると使えません
まず結論:800万円控除は「どの手続で売ったか」で決まります
農地を売って利益が出たとき、譲渡益から最大800万円を差し引ける特例があります。
租税特別措置法34条の3の「農地保有の合理化等」のための特別控除です。
譲渡益は、売った金額から取得費と売る費用を引いたもうけです。
使えるのは、条文の各号に当たる手続で譲渡したときです。農地を売ったというだけでは使えません。
34条の3の本文は、令和8年度改正の前後で変わっていません。条文に適用期限の定めもありません。
農地法の許可と申告する年分は、農地の売却と譲渡所得の記事で扱っています。

対象になる売り方は、条文の6つの号で決まっています
34条の3第2項の各号は、法律に基づく勧告・調停・あっせん・計画・事業などを通した譲渡です。
| 売り方 | 条文 | 添付する主な証明書類 |
|---|---|---|
| 市町村長の勧告に基づく協議で譲渡 | 2項1号 | 市町村長の勧告を証する書類か、通知書の写し |
| 都道府県知事の調停で譲渡 | 2項1号 | 知事の調停を証する書類か、調停案の写し |
| 農業委員会のあっせんで譲渡 | 2項1号 | 農業委員会のあっせんを証する書類 |
| 一定の農地中間管理機構に、農地売買等事業のため農用地区域内の農地等を譲渡 | 2項1号・施行令22条の9 | 機構の買入れの証明、農業委員会の届出受理の証明、機構に当たる旨の知事の証明など |
| 農用地区域内の土地等を、農用地利用集積等促進計画の定めにより譲渡 | 2項2号 | 農用地区域内である旨の市町村長の証明と、公告の証明など |
| 産業導入地区内の農用地等の譲渡、土地改良・交換分合の清算金、森林組合等に委託した山林の土地の譲渡 | 2項3号〜6号 | 号ごとに定めあり |
証明書類は、租税特別措置法施行規則18条2項が売り方ごとに定めています。
農用地区域は、市町村が定める「農用地等として利用すべき土地の区域」です(農振法8条2項1号)。
農地売買等事業は、機構が農地などを買い入れ、売渡し・交換・貸付けをする事業です。
農林水産省のチラシも、計画による「農地バンク」への譲渡と、あっせんによる譲渡を挙げています。
こうした手続を通さずに一般の買主へ売った場合は、どの号にも当たりません。
補足
第1号と第2号は、2,000万円控除と1,500万円控除の一部の号が適用される場合を除いています。除かれるのは、34条2項7号と34条の2第2項25号が適用される場合です。同じ農地中間管理機構への売却でも、根拠の手続で控除が変わります。1,500万円の号は1,500万円控除の記事で扱っています。

控除はその土地の譲渡益が限度で、短期の売却にも使えます
対象の土地の譲渡益が800万円未満なら、控除はその譲渡益までです。
800万円は、その年の対象の土地すべてを合わせた上限です。余った枠を、対象外の土地の利益から引くことはできません。
条文は長期(31条)と短期(32条)の両方を読み替えており、所有期間は問いません。
短期と長期の両方があれば、短期から先に引き、合わせて800万円までです。
ほかの特別控除と合わせた上限は、その年を通じて5,000万円です(36条)。
タックスアンサー No.3223の控除の順序では、800万円控除は7つのうち6番目です。
総枠の考え方は特別控除の5,000万円の総枠の記事をご覧ください。
計算例
例:令和8年中に、対象の農地Aと対象外の土地Bを売った(どちらも長期)
農地A 譲渡価額 6,000,000円、概算取得費 300,000円、譲渡費用 200,000円 農地Aの譲渡益 6,000,000円 - 500,000円 = 5,500,000円 土地B 一般の買主に売却し、譲渡益 10,000,000円 控除額 800万円のうち、農地Aの譲渡益 5,500,000円まで 課税長期譲渡所得金額 15,500,000円 - 5,500,000円 = 10,000,000円 所得税 1,500,000円/復興特別所得税 31,500円/住民税 500,000円 税額の合計 2,031,500円 誤り 残り2,500,000円を土地Bから引くと1,523,625円 → 507,875円の申告漏れ農地Aは相続で取得し、取得費が分からないため概算取得費(譲渡価額の5%)を使う前提です。
税率は令和8年分です(タックスアンサー No.3208)。端数処理前の、一定の前提を置いた目安です。
令和9年分以後は、所得税額に復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%がかかります。合計の2.1%は同じため、計算例の税額の合計は変わりません。
税額がゼロでも、申告書への記載と証明書類の添付が要件です
確定申告書に適用を受ける旨を書き、証明書類を添付した場合に限り適用されます。
根拠は34条の3第3項です。証明書類の発行者は、市町村長・知事・農業委員会など売り方で変わります。
収用等の5,000万円控除と2,000万円控除は、控除後も申告が要る人に限って記載と添付を求めます。
根拠は33条の4第4項と34条4項です。
34条の3第3項には、この限定がありません。
控除で税額がゼロになる場合も、申告をしなければ原則として適用されません。
ポイント
例外の規定もあります。申告書の提出や記載・添付がなかったことに、税務署長がやむを得ない事情があると認めるときです。記載した書類と証明書類の提出を条件に、税務署長は適用できます(34条の3第4項)。国税庁の措置法関係通達34の3-1は、証明書類を別表5で一覧にしています。

つまずきやすいのは、この6つの場面です
- 手続を通さずに売ったのに控除を使った ― どの号にも当たりません
- 税額がゼロなので申告しなかった ― 原則として適用されません
- 証明書類を付けずに申告した ― 添付も要件です(34条の3第3項)
- 余った枠を対象外の土地に回した ― 控除は対象の土地の譲渡益が限度です
- 年分を取り違えた ― 許可が要る農地等は、契約締結日の年分も選べます(所得税基本通達36-12)
- 対象の土地に買換えの特例を使った ― 一部でも受けると、その年は800万円控除が使えません
買換えの特例との関係は、34条の3第1項が次のように定めています。
その者がその年中にその該当することとなつた土地等の全部又は一部につき第三十七条又は第三十七条の四の規定の適用を受ける場合を除き
(租税特別措置法34条の3第1項)
37条は特定の事業用資産の買換え、37条の4は同じく交換の特例です。
注意
国税庁の質疑応答事例は、次の2つを示しています。1つは、37条の買換えの特例を受けた後の扱いです。買換資産を取得せず修正申告する場合も、34条の3への選択替えはできないとしています。もう1つは、許可を受けずに取得した農地の転売です。現実に耕作したことがなければ、対象外としています。転用目的で取得した農地も同様です。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
事実と書類の確認はご自身でできますが、号の当てはめと特例の選択は個別の判断です。
- 売る土地が農用地区域内かを、市町村で確かめる
- 誰から、どの手続で売却の話が来たかを書面で確かめる
- 証明書類を誰が出すかを、手続の窓口に尋ねる
- 同じ年に売るほかの土地と、使う予定の特例を書き出す
どの号に当たるか、2,000万円・1,500万円の号でないか、買換えの特例とどちらを使うかです。
申告する年分も、同じ年のほかの譲渡とあわせて決めます。
税理士が入ると変わるのは、号の特定と書類の段取りです
ひとつめは、手続の書面から、34条の3第2項のどの号に当たるかを特定することです。
ふたつめは、その号で要る証明書類を洗い出し、引渡しの前に発行元へ依頼することです。
みっつめは、同じ年のほかの譲渡を含めて、控除額の限度と5,000万円の総枠を計算することです。
よっつめは、買換えの特例と800万円控除を、最初の申告の前に税額で比べることです。
いつつめは、譲渡所得の内訳書と確定申告書に適用の旨を記載し、証明書類を添付することです。
小松公認会計士・税理士事務所では、売却の話を受けた段階から適正申告までを担当します。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 近所の農家に直接売った場合も、800万円控除は使えますか?
34条の3第2項の各号は、勧告・調停・農業委員会のあっせん・計画などを通した譲渡です。こうした手続を通さずに直接売った場合は、どの号にも当たりません。手続を通したかを書面で確かめてください。
Q2. 譲渡益が500万円しかありません。残りの300万円はどうなりますか?
対象の土地の譲渡益が800万円に満たないときは、その譲渡益が控除の限度です(34条の3第1項)。残りを同じ年の対象外の土地の利益から引くことはできません。翌年に繰り越す定めもありません。
Q3. 控除で税額がゼロになるので、申告しなくてもよいですか?
800万円控除を受けるには、申告が必要です。34条の3第3項は、確定申告書への記載と証明書類の添付がある場合に限り適用するとしています。やむを得ない事情を税務署長が認めれば、書類の提出を条件に適用できる規定もあります(同条4項)。
Q4. 買換えの特例を受けた後で、800万円控除に切り替えられますか?
対象の土地の一部でも、その年中に37条(買換え)・37条の4(交換)を受けると使えません。国税庁の質疑応答事例は、買換資産を取得せず修正申告しても34条の3に選択替えできないとしています。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。租税特別措置法34条の3(第1項から第4項)・36条、同法施行令22条の9、同法施行規則18条2項、比較として同法33条の4第4項・34条4項、租税特別措置法関係通達34の3-1、農業振興地域の整備に関する法律8条2項1号、農業経営基盤強化促進法7条1号、所得税基本通達36-12、国税庁タックスアンサー No.3208・No.3223、国税庁の質疑応答事例(譲渡所得)2件(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づくもの)、農林水産省のチラシ「農地バンクへ農地を売った場合、譲渡所得の特別控除を受けられます!」の内容を扱っています。34条の3第2項3号から6号の要件と証明書類の具体名、農地中間管理機構の法人要件の細目、措置法関係通達の別表5の内容、34条2項7号と34条の2第2項25号の手続の中身、農地法の許可・届出の要否と手続、5,000万円の総枠の計算の細目、短期譲渡所得の税率、所得税の端数処理、住民税の申告手続、相続税・贈与税の納税猶予との関係、法人が農地を譲渡する場合は扱っていません。記事中の計算例は令和8年分の税率による一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は譲渡価額・取得費・譲渡費用・所有期間・同じ年のほかの譲渡によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」(34条の3・36条)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- e-Gov法令検索「租税特別措置法施行規則」(18条)https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50000040015
- 国税庁 タックスアンサー No.3223 譲渡所得の特別控除の種類https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3223.htm
- 国税庁 質疑応答事例「特定の事業用資産の買換えの特例と800万円特別控除の特例」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/17/02.htm
- 農林水産省「農地バンクへ農地を売った場合、譲渡所得の特別控除を受けられます!」https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/nouchi_seido/attach/pdf/zeisei-75.pdf
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