この記事のポイント
- 毎月の報酬の未払分は、実際に払うときに源泉徴収するのが原則です
- 1年未払で払ったとみなす定めは、役員の賞与が対象です
- 辞退が課税されないのは、支給日の前に意思を明示した分に限られます
- 支給日の後の放棄は、原則として源泉徴収と会社の債務免除益が生じます
まず結論:払えない役員報酬は「未払」「辞退」「減額」で税金の扱いが変わります
資金繰りが苦しく役員報酬を払えない月の対応は、未払・辞退・減額に分かれます。
| 形 | 会社側 | 社長側 | 源泉徴収 |
|---|---|---|---|
| 未払にする | 定期同額給与に当たるか | 支給日の年分の収入 | 払うとき(賞与は1年で区切り) |
| 支給日の前に辞退 | 減額と同じ論点 | 明示した分は課税なし | なし |
| 支給日の後に放棄 | 原則として債務免除益 | 原則として課税 | 免除の時(例外あり) |
| 途中で減額 | 理由が問われる | 減った額が収入 | 減った額で行う |
大きな分かれ目は、報酬の支給日より前に決めたか、後に決めたかです。

未払にする場合、会社側は「毎月同額」の形を保てるかが問われます
毎月の役員報酬が損金になる入口は、定期同額給与です(法人税法34条1項1号)。
損金は、税金の計算で差し引ける費用です。
定期同額給与は、1か月以下の一定の期間ごとに、同じ額を払う給与です。
法人税基本通達9-2-12は「規則的に反復又は継続して支給されるもの」としています。
未払分を賞与の時期に払い、役員賞与とされた裁決もあります(改正前の規定)。
未払のまま損金にできるかは、未払の理由と支払の実態を含めた個別判断です。
未払分の源泉徴収は払うときが原則で、1年のみなし規定は役員の賞与が対象です
毎月の報酬の未払分は、実際に払うときに源泉徴収するのが原則です(タックスアンサーNo.2526)。
一部だけ払う月は、払う額に対応する部分の税額を源泉徴収します(同)。
源泉徴収する税には、令和9年分以後は防衛特別所得税も加わります(同)。
役員の賞与は別です。
法人の法人税法第二条第十五号(定義)に規定する役員に対する賞与については、支払の確定した日から一年を経過した日までにその支払がされない場合には、その一年を経過した日においてその支払があつたものとみなして、前項の規定を適用する。
(所得税法183条2項)
この賞与は、定期の給与とは別に払う賞与・ボーナスなどです(所得税基本通達183-1の2)。
事前確定届出給与(時期と額を前もって決めた役員給与)も、一部を除き含まれます。
1年で払ったとみなされるのは役員の賞与で、毎月の報酬は払うときに源泉徴収します。
計算例
例1:月額60万円のうち、24万円だけ払った月
源泉徴収額 = 60万円に対する税額 × 24万円 ÷ 60万円 = 税額の4割 残りの36万円を払う月は、税額の6割を源泉徴収します例2:役員の賞与の支払の確定した日が令和8年12月10日で、払えないままの場合
翌年の応当日(令和9年12月10日)の翌日 = 令和9年12月11日に払ったとみなします一定の前提を置いた目安です(按分は所得税基本通達183~193共-1、日の数え方は同183-1)。

辞退は、支給日の前か後かで社長と会社の課税が分かれます
社長の課税は、原則として、支給日の前に辞退を明示したかで分かれます。
給与等の支払を受けるべき者がその給与等の全部又は一部の受領を辞退した場合には、その支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退したものに限り、課税しないものとする。
(所得税基本通達28-10)
支給日の前に辞退の意思を明示した分は、社長に課税されません。
ただし会社側では、支給額の減額と同じ論点が生じます。
国税庁「役員給与に関するQ&A」も、役員が自ら減額した例を減額改定としています。
支給日の後の辞退は、課税しない扱いの対象外です。
支給日が決まった給与は、その支給日が収入の時期です(所得税基本通達36-9)。
会社は、債務の免除を受けた時に払ったものとして源泉徴収します(同181~223共-2)。
債務超過が相当期間続き、払えないと認められる場合の免除では、源泉徴収をしません(同)。
破産など5つの事情の下での辞退も、源泉徴収をしなくて差し支えありません(同181~223共-3)。
一般債権者の損失を軽くするため、やむなく辞退した場合です。
会社側では、放棄を受けた額が原則として益金(税金の計算上の収入)になります(法人税法22条2項)。
受け取っていない報酬でも、社長の課税は原則として残ります。
補足
法人税法34条1項で損金にならなかった未払給与には、特例があります(法人税基本通達4-2-3)。業況不振などのため、取締役会等の決議で全部又は大部分を払わないことにした場合です。一定の基準で額を決めたときは、所得税額を除いた額を益金に算入しないことができます。
途中で減額するなら、一時的な資金繰りの都合は理由になりません
資金繰りで減らすなら、業績悪化改定事由に当たるかが問われます(法人税法施行令69条1項1号ハ)。
業績悪化改定事由は、経営の状況が著しく悪化したことなどをいいます。
通達は、法人の一時的な資金繰りの都合は含まれないとしています(法人税基本通達9-2-13)。
一方、同じQ&Aは次の減額を該当例に挙げます。
- 資金繰りなどが悪化し、取引先等の信用を保つための経営改善計画に減額を盛り込んだ場合
- 取引銀行との返済リスケジュールの協議で、減額せざるを得ない場合
同じ資金繰りの悪化でも、一時的な都合か、第三者との関係で減らさざるを得ないかで分かれます。
要件と記録の残し方は、期の途中で役員報酬を変える2つの事由の記事で解説しています。

失敗パターン:損金不算入や課税につながった4つの場面
資金繰りが理由でも、要件を外れた払い方や減額は否認や課税を招きます。
- ①未払分を賞与の時期に払う ― 報酬の一部を未払金にし、賞与支給日などに払った事案です。その分は役員賞与とされ、損金に算入されませんでした(平成6年4月15日裁決)。給料日に払えない特段の事情は認められず、源泉徴収も支払額だけで計算されていました。従業員の賞与と同じ日に年2回払った事案も同様です(平成19年12月5日裁決)。
- ②業績目標に届かないだけで減額する ― 経常利益が前年より6%減ったことを理由とする減額です。業績悪化改定事由に当たらないとされました(平成23年1月25日裁決)。減額前の月に減額後の額を超えて払った部分は、損金不算入とされました。
- ③届出どおりに払わない ― 事前確定届出給与300万円を、資金繰りで50万円しか払えなかった例です。その50万円は、定めどおりでないため損金不算入とされました(国税庁の質疑応答事例)。前の期に届出どおり払った300万円は、損金算入して差し支えないとされます。届出額と実際の支給額が異なると、原則として全額が損金不算入です(法人税基本通達9-2-14)。
- ④支給日を過ぎてから放棄する ― 社長の課税は原則として残り、会社には債務免除益が生じます。
注意
①の2件は、平成18年度改正前の規定(役員賞与の損金不算入)による裁決です。現在は、定期同額給与など3類型以外の役員給与が、原則として損金不算入です(法人税法34条1項)。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
払えない月が出たら、ご自身で次の4点を整えられます。
- 株主総会や取締役会の議事録で、月額と支給日を確かめる
- 払えなかった月と金額を、支給日ごとに一覧にする
- 辞退するなら、支給日の前に意思を明示した記録を残す
- 一部だけ払う月は、払う割合で源泉徴収額を計算する
所得税基本通達181~223共-1は、支払の債務が消滅する一切の行為を「支払」に含めます。
未払報酬を借入金に振り替える処理も、この点を含めて検討が要ります。
社長が会社に貸したお金の扱いは、役員貸付金・借入金の記事をご覧ください。
未払を続けるか、辞退か減額かは、会社と社長の税額を並べて決める個別判断です。
税理士が入ると変わるのは、3案の比較と払えない月の処理です
小松公認会計士・税理士事務所では、払えない月が出たら次の作業を行います。
ひとつめは、支給日ごとの未払額を確定し、3案で税額を試算することです。
ふたつめは、一部払いの月の源泉徴収額を計算し、年末調整に反映することです。
みっつめは、減額の説明資料(経営改善計画・銀行との協議記録)をそろえることです。
よっつめは、債務免除益と4-2-3の特例を検討し、申告書に反映することです。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 役員報酬を未払にしても、損金になりますか?
毎月の報酬が損金になる入口は、定期同額給与に当たることです(法人税法34条1項1号)。未払分を賞与の時期に払い、役員賞与とされた裁決があります(平成6年4月15日裁決・改正前の規定)。未払の理由と支払の実態を含めた個別判断です。
Q2. 未払の役員報酬は、いつ源泉徴収しますか?
毎月の報酬は、実際に払うときに源泉徴収するのが原則です。一部払いの月は、払う額に対応する部分を徴収します(タックスアンサーNo.2526)。役員の賞与は、支払の確定から1年を経過した日までに払わないと、その日に払ったとみなされます。根拠は所得税法183条2項です。
Q3. 社長が報酬の受け取りを辞退すれば、所得税はかかりませんか?
支給日の前に辞退の意思を明示した分に限り、課税されません(所得税基本通達28-10)。支給日の後の辞退は対象外で、会社は免除の時に源泉徴収するのが原則です(同181~223共-2)。支給日前の辞退も、会社側では減額と同じ論点が生じます。
Q4. 未払報酬を放棄してもらうと、会社に税金はかかりますか?
放棄を受けた額は、原則として会社の益金です。例外は、法人税法34条1項で損金にならなかった未払給与です。業況不振などのため、取締役会等の決議で全部又は大部分を一定の基準で払わない場合です。所得税額を除いた額を、益金から外すことができます(法人税基本通達4-2-3)。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法22条2項・34条1項、法人税法施行令69条1項1号、法人税基本通達4-2-3・9-2-12・9-2-13・9-2-14、所得税法183条1項・2項、所得税基本通達28-10・36-9・183-1・183-1の2・183~193共-1・181~223共-1から共-3、タックスアンサーNo.2526「給与が一部未払の場合の源泉徴収」、国税庁の質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」「特定調停により債権放棄を受けた場合の一般的な取扱い」、国税庁「役員給与に関するQ&A」(平成24年4月改訂・同月1日現在の法令等に基づくもの)、国税不服審判所の平成6年4月15日・平成19年12月5日・平成23年1月25日の各裁決の内容を扱っています。未払報酬に係る社会保険料と住民税の特別徴収、源泉徴収税額表による具体的な税額、年末調整と源泉徴収票の記載方法、源泉所得税の納期の特例、年をまたぐ未払給与への防衛特別所得税の適用の細目、収入金額が回収不能となった場合の所得税法64条の特例と更正の請求、欠損金の損金算入(法人税法57条・59条)、未払報酬を借入金や資本に振り替える処理の課税関係、事前確定届出給与の届出の手続、業績悪化改定事由と臨時改定事由の判定の細目、過大役員給与、役員退職給与、会社法上の報酬決議の手続、相続税・贈与税の論点は扱っていません。紹介した平成6年・平成19年の裁決は平成18年度改正前の規定による事案です。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安です。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2526「給与が一部未払の場合の源泉徴収」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2526.htm
- 国税庁 所得税基本通達 法第28条《給与所得》関係(28-10)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/03.htm
- 国税庁 所得税基本通達 法第181条から第223条まで(源泉徴収)共通関係(181~223共-1から共-3)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/28/01.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第4章第2節第2款「未払給与の免除益」(4-2-3)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/04/04_02_02.htm
- 国税不服審判所 公表裁決事例(平成6年4月15日裁決・裁決事例集No.47 303頁)https://www.kfs.go.jp/service/JP/47/25/index.html
役員報酬を払えない月が出たら、処理を決める前にご相談ください
資金繰りで役員報酬を払えないとき、どの処理を選ぶかで税金の扱いが変わります。会社の損金、社長の所得税、源泉徴収の時期がそれぞれ違います。支給日を過ぎてからの放棄は、社長の課税が原則として残り、会社には債務免除益が生じます。代表税理士が、議事録と未払額の確認から、3案の税額比較まで行います。源泉徴収と年末調整、減額の説明資料、申告書への反映まで通して対応します。次の支給日が来る前の段階でご相談ください。
無料相談を申し込む 法人顧問サービスの詳細を見る 約60秒で料金を自動見積り決算と申告だけのご依頼は、決算申告のみのプランをご覧ください。