不動産譲渡所得

マイホームを買い換えて売却損が出たら?
損益通算と繰越控除の要件と失敗例

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 買い換えた旧宅の売却損は、要件を満たせば給与などと差し引けます
  • 引ききれない損は、翌年以後3年内に繰り越せます
  • 新居の年末の住宅ローンと毎年の確定申告が条件です
  • 親子への売却や所有期間5年以下など、1つ外すと使えません

まず結論:買い換えた旧宅の売却損は、要件を満たせば給与と差し引けます

旧宅を売って損が出ても、要件を満たせば給与などの所得から差し引けます。

土地建物の売却損は、原則として他の所得と差し引けません。

この場合において、長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす。

(租税特別措置法31条1項後段)

この原則の例外が、租税特別措置法41条の5の特例です。

損益通算(損をほかの所得と差し引くこと)で残った損は、翌年以後3年内に繰り越せます。

対象は、旧宅を令和9年12月31日までに売った場合です(タックスアンサー No.3370)。

住宅ローンが売却代金を上回るときの別の特例は、譲渡損失の損益通算と繰越控除の記事で扱いました。

マイホームを買い換えて旧宅の売却で損が出たら、給与などと差し引ける特例があります
マイホームを買い換えて旧宅の売却で損が出たら、給与などと差し引ける特例があります

旧宅の要件:売った年の1月1日で所有期間5年超が出発点です

旧宅は、売った年の1月1日に所有期間が5年を超えている必要があります。

国内にあり、次のいずれかに当たる家屋とその敷地が対象です(No.3370・No.3375)。

  • 今住んでいる家屋 ― 2つ以上あるときは、主に住んでいる1つに限ります
  • 以前住んでいた家屋 ― 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るもの
  • 取り壊した家屋の敷地 ― 取り壊しから1年以内に契約し、その間に貸駐車場などに使っていないこと等
  • 災害で滅失した家屋の敷地 ― 災害の区分に応じた期限までに売るもの(No.3370)

配偶者や直系血族(親・子など)への売却は、特例の対象外です(No.3376)。

生計を一にする親族、売却後にその家に同居する親族、内縁の相手、同族会社なども対象外の相手です。

前年・前々年に3,000万円の特別控除などを使った方も、対象外です(No.3370)。

新居の要件:取得時期・床面積・入居・住宅ローンの4つです

新居は国内にあることに加え、次の4つをすべて満たす必要があります(No.3370)。

要件中身
取得時期売った年の前年1月1日から、売った年の翌年12月31日まで
床面積住む部分の床面積が50平方メートル以上
入居取得した年の翌年12月31日までに住む(見込みを含む)
住宅ローン取得した年の12月31日に、償還期間10年以上の住宅ローンがある

住宅ローンは、銀行や住宅金融支援機構などからの借入金が対象です(No.3377)。

償還期間は、最初の返済の月から返済が終わる月までで数えます。

新居を現金で買うと、年末の住宅ローンの要件を満たせません。

補足

令和10年1月1日以後に住む、建築後使用されたことのない家屋には除外があります。災害危険区域等内に建てられた一定のものは、新居の対象外です(No.3370)。

新居は取得時期・床面積・入居・年末の住宅ローンの4つをすべて満たす必要があります
新居は取得時期・床面積・入居・年末の住宅ローンの4つをすべて満たす必要があります

数字で見る:1,500万円の損を、3年かけて給与と差し引く例です

損益通算で引ききれない分を、翌年から順に繰り越します。

計算例

例:令和8年に旧宅を3,000万円で売却(取得費4,300万円・譲渡費用200万円)。同じ年に新居を住宅ローンで購入して入居。給与所得は毎年600万円

譲渡損失 3,000万円 - 4,300万円 - 200万円 = △1,500万円 令和8年(損益通算) 600万円を差し引く → 所得0円・残り900万円 令和9年(繰越1年目) 600万円を差し引く → 所得0円・残り300万円 令和10年(繰越2年目) 300万円を差し引く → 所得300万円・残り0円 差し引いた合計 1,500万円

数値は一定の前提を置いた目安です。取得費は建物の減価償却費相当額を引いた後の額です。

給与所得は給与所得控除後の額で、所得控除と住民税は考えていません。

令和8年の損なら、令和11年分まで繰り越せます。

繰越控除は、毎年の確定申告と年末のローン残高が条件です

繰越控除は、損が出た年の申告だけでは終わりません。

前項の規定は、当該個人が居住用財産の譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき第二項の確定申告書をその提出期限までに提出した場合であつて、その後において連続して確定申告書を提出しており、かつ、前項の確定申告書に同項の規定による控除を受ける金額の計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。

(租税特別措置法41条の5第5項)

損が出た年分は、期限内に申告する必要があります。

その後も、毎年連続して確定申告書を出すことが条件です。

繰り越す各年の12月31日に、新居の住宅ローンが残っていることも必要です。

所得が大きい年は、繰越控除を使えません。

ただし、当該個人のその年分の所得税に係るその年の所得税法第二条第一項第三十号の合計所得金額が三千万円を超える年については、この限りでない。

(租税特別措置法41条の5第4項ただし書)

使えないのは3,000万円を超えた年だけです(No.3370)。

旧宅の敷地が500平方メートルを超える部分に対応する損も、繰越控除の対象外です。

繰越控除を受けるには、所得がない年も毎年連続して確定申告書を出します
繰越控除を受けるには、所得がない年も毎年連続して確定申告書を出します

要件を1つ外すと使えません:よくある失敗は6つです

  • 所有期間を売った日で数えた ― 判定は売った年の1月1日です
  • 住まなくなってから何年もたって売った ― 3年を経過する日の属する年の年末を過ぎると対象外です
  • 親や子に売った ― 直系血族への売却は対象外です
  • 新居を現金で買った ― 取得した年の年末に住宅ローンがありません
  • 翌年分の申告を出さなかった ― 連続して申告しないと繰越控除が途切れます
  • 繰上返済でローンを完済した ― 年末に住宅ローンがない年は差し引けません

数値例で令和9年中に完済すると、残り900万円は差し引けなくなります。

注意

損益通算をした後に要件を欠くと、修正申告が必要です。新居を期限までに取得しない、取得した年の年末にローンがない、期限までに住まない場合です。期限は、それぞれの日から4か月以内です(租税特別措置法41条の5第13項・No.3383)。期限内に申告と納付をすれば、加算税や延滞税はかかりません。取得した年の翌年以後に完済しても、この修正申告はいりません。その年以後の繰越控除が使えなくなります。

住宅ローン控除とは、併用できます

国税庁は、この特例と住宅ローン控除を併用できるとしています。

(注)この特例と住宅借入金等特別控除制度は併用できます。

(タックスアンサー No.3370)

繰越控除で毎年出す残高証明書は、住宅ローン控除用の証明書で代用できます。

調書方式の金融機関に「住宅ローン控除の適用申請書」を出した方は、添付が不要です(No.3379)。

ポイント

旧宅の売却で利益が出るときは、この特例ではなく、買換え特例や3,000万円控除を比べます。買換え特例と3,000万円控除の記事をご覧ください。3,000万円控除と住宅ローン控除の関係は、併用の可否の記事で扱っています。

旧宅と新居の資料をそろえて、要件を1つずつ確かめます
旧宅と新居の資料をそろえて、要件を1つずつ確かめます

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です

ご自身で確かめられるのは、次の4点です。

  1. 旧宅の登記事項証明書で取得の日を確かめ、売った年の1月1日で5年を超えるか数える
  2. 旧宅に住まなくなった日と、売却の日を書き出す
  3. 新居の取得日・床面積・入居日を、契約書と登記事項証明書で確かめる
  4. 新居の住宅ローンの借入先と償還期間を確かめる

ここから先は個別判断です。

取得費の計算、敷地500平方メートル超の按分、繰上返済の時期で結論が変わります。

税理士が入ると変わるのは、損失額の確定と3年間の申告管理です

ひとつめは、旧宅の取得費と減価償却費相当額を計算し、損失額を確定する作業です。

ふたつめは、旧宅と新居の要件を、登記事項証明書や契約書で1つずつ照合する作業です。

みっつめは、付表と計算書を作り、損が出た年の申告書に反映する作業です。

よっつめは、翌年以後の申告と残高証明書の添付を、繰越の最終年まで管理する作業です。

いつつめは、繰上返済や転居の予定が、要件に触れないかの事前確認です。

小松公認会計士・税理士事務所では、売却前の要件確認から繰越控除の最終年まで担当します。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

小松公認会計士・税理士事務所 代表 小松優馬 登録者6,900人超

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よくある質問(FAQ)

Q1. マイホームを売って損が出ても、給与と差し引けないのですか?

土地建物の売却損は、原則として他の所得と差し引けません(租税特別措置法31条1項後段)。ただし、新居に買い換えて要件を満たすと、租税特別措置法41条の5の特例で給与などと差し引けます。旧宅を令和9年12月31日までに売った場合が対象です(No.3370)。

Q2. 新居を現金で買った場合も、この特例を使えますか?

使えません。新居を取得した年の12月31日に、償還期間10年以上の住宅ローンがあることが要件です(No.3370)。対象となるのは、銀行や住宅金融支援機構などからの借入金です(No.3377)。繰り越す各年の年末にも、ローンが残っている必要があります。

Q3. 繰越控除を受ける年は、毎年申告が必要ですか?

必要です。損が出た年分を期限内に申告し、その後も連続して確定申告書を出すことが条件です(租税特別措置法41条の5第5項)。各年の年末の住宅ローンの残高証明書も添付します。住宅ローン控除用の年末残高等証明書で代用できます(No.3379)。

Q4. 住宅ローン控除と、この特例は一緒に使えますか?

国税庁は併用できるとしています(No.3370)。ただし、この特例の繰越控除は、合計所得金額が3,000万円を超える年は使えません(租税特別措置法41条の5第4項ただし書)。両方を使うときの効果は、所得の額によって変わります。

免責事項

本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。租税特別措置法31条1項後段・41条の5(1項・4項・5項・7項・13項)、租税特別措置法施行令26条の7、国税庁タックスアンサー No.3370・No.3375・No.3376・No.3377・No.3379・No.3383の内容を扱っています。住宅ローンが売却代金を上回る場合の特例(租税特別措置法41条の5の2)、住宅ローン控除そのものの要件と控除額、両制度を併用したときの控除の順序と税額への効果、親族などからの借入金が対象の住宅ローンに当たるか、所得税・住民税の還付額や軽減額、所得控除が控除しきれない年の扱い、純損失の繰越控除との順序、措置法通達の細目、特定非常災害や東日本大震災による期限の延長、災害危険区域等の具体的な範囲、死亡した年の扱いは扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は取得費・譲渡費用・各年の所得によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

マイホームの買い換えで売却損が出たら、申告の前に要件を確かめませんか

旧宅の売却損を給与と差し引き、3年間繰り越すには、旧宅の所有期間、新居の取得時期と床面積、年末の住宅ローン、毎年の連続申告のすべてが必要です。1つ外すと差し引けず、修正申告が必要になることもあります。代表税理士が、取得費の計算から要件の照合、付表と計算書の作成、繰越の最終年までの申告を担当します。売却や繰上返済の前にご相談ください。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者7,000人超)。

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