この記事のポイント
- 初めての決算は、開業日から12月31日までの帳簿を締めて所得を計算します
- 開業前の準備の費用は開業費です。資産の購入代金と前払費用は含みません
- 年の途中で使い始めた資産の減価償却費は、1年分を月割りにして計算します
- 55万円・65万円の控除は正規の簿記と期限内の申告などが要件で、令和9年分から変わります
まず結論:開業1年目は、12月までに帳簿の締め方と経費の扱いを確かめます
令和8年に開業した方は、令和9年に初めての確定申告をします。
期間は、原則として2月16日から3月15日までです(No.2020)。
その前に、開業日から12月31日までの帳簿を締め、所得を計算します。
初めての決算で確かめたいのは、帳簿の締め・開業費・減価償却・青色申告の要件の4つです。
開業した年は、開業日と12月31日の2つの時点の記録が、決算の土台になります。
年末の支払いの区切りは、個人事業主が年末にやることの記事で扱っています。

帳簿は、開業日と12月31日の2つの時点で整理します
青色申告の方は、開業日の在庫や預金などの残高を整理して記録します(所得税法施行規則60条2項)。
12月31日には棚卸しなどの整理をします(同条1項)。正規の簿記なら、貸借対照表と損益計算書も作ります(同規則61条1項)。
12月31日の前後には、次の4つを確かめます。
- 通帳・請求書・領収書と帳簿が合っているか
- 12月までの納品で、未入金の売上を入れたか
- 12月までに確定した、未払いの経費を入れたか
- 売れ残りの商品や材料を数えて記録したか
ポイント
請求を20日で締めていても、12月21日から31日の納品分は、原則として令和8年分の売上です。国税庁の解説も、12月31日付で売掛金に計上する例を示しています。
青色申告では、私用分が混ざり分けにくい支払いを、年末にまとめて整理できます(同規則57条2項)。
開業前に払った準備の費用は「開業費」として扱います
開業前の支出のうち、開業準備のために特別に払った費用は「開業費」です(所得税法施行令7条1項1号)。
国税庁の手引きは、開業準備の広告宣伝費・接待費、開業までの給料賃金などを例示しています。
パソコンなど資産の購入代金と前払費用は、開業費に入りません(同項)。
開業費を経費にする方法は2つです。60か月で均等に割るか、範囲内で選んだ額を申告書に書くかです(同令137条)。
国税庁の質疑応答事例は、一度に全額でも、全く経費にしなくてもよいと回答しています。経費にできるのは、開業した年分からです。
注意
白色申告の年の赤字は、ほかの所得から引ききれない分を原則として繰り越せません(所得税法70条)。赤字の年に開業費を経費にするかは、翌年以後の見込みと並べて決めます。後の年に回すなら、開業費の内容と未計上であることを示せるようにします(同事例)。
退職と開業が重なった方は、退職して独立した年の確定申告の記事もご覧ください。

開業前後にそろえた備品は、使い始めた日から経費にします
備品などの減価償却資産は、原則として耐用年数に応じて少しずつ経費にします(No.2100)。
金額による扱いは次のとおりです(同)。
- 10万円未満:使い始めた年に全額を経費にします
- 10万円以上20万円未満:3年間で均等に経費にできます
- 10万円以上40万円未満:青色申告の中小事業者は、使い始めた年に全額を経費にできます
40万円未満の特例は令和8年4月1日以後の取得分で、それより前は30万円未満です。上限は年300万円で、開業した年は月割りです(租税特別措置法28条の2)。
年の途中で使い始めた資産は、1年分の償却費を月割りにします(所得税法施行令132条)。1か月未満の端数は1か月と数えます。3年で均等に経費にする方法は、月割りせず3分の1ずつです。
計算例
例1:令和8年10月に、取得価額100万円・耐用年数10年の設備を使い始めた場合(定額法)
1年分の償却費 1,000,000円 × 0.100 = 100,000円 令和8年分(10月〜12月の3か月) 100,000円 × 3/12 = 25,000円 12か月分で計算した場合との差 100,000円 − 25,000円 = 75,000円例2:令和8年10月1日に開業した年の、40万円未満の特例の上限
3,000,000円 ÷ 12 × 3か月 = 750,000円償却率0.100は、国税庁No.2106の具体例の率です。金額は一定の前提を置いた目安です。
備品などの償却の方法は、開業した年分の申告期限までに届け出れば選べます。建物・建物附属設備・構築物は定額法だけです(No.2100)。届け出なければ一般に定額法です(同令123条2項・125条)。
私用の車などを事業に使うときは、事業に使う前の期間の減価を引いて償却します(No.2109)。
青色申告の65万円控除は、帳簿の形と申告の方法で決まります
まず、青色申告承認申請書を期限内に出したかを確かめます。1月16日以後の開業なら、開業した日から2か月以内です(所得税法144条)。
期限内に出し、12月31日までに承認も却下もなければ、承認されたとみなされます。11月1日以後に開業した方は、翌年2月15日です(同法147条)。
届出書の全体は、開業したら出す届出書の記事にまとめています。
令和8年分の控除額は、次のように分かれます(No.2072)。
| 控除額 | 主な要件(令和8年分) |
|---|---|
| 55万円 | 正規の簿記(複式簿記)で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添えて期限内に申告 |
| 65万円 | 55万円の要件に加え、e-Taxで期限内に送信するか、優良な電子帳簿を保存(届出が必要) |
| 10万円 | 上の要件に当たらない青色申告 |
期限を過ぎた申告では、還付申告でも55万円・65万円の控除は受けられません。控除は最高10万円になります(No.2072)。
1年目の所得が少ないときは、控除前の所得の金額が控除の上限です(租税特別措置法25条の2)。
補足
令和9年分からは、正規の簿記と期限内のe-Taxで65万円です。優良な電子帳簿の保存などの要件も満たせば、75万円です。書面で申告すると、控除は最高10万円です(令和8年法律第12号附則33条、国税庁)。優良な電子帳簿は、その年の初めから要件を満たす必要があります。

初めての決算での誤りは、申告のやり直しや控除の減少につながります
次の5つは、申告後の手間や負担が増える誤りです。
- 開業前のパソコンを開業費に入れた ― 資産は開業費に入らず、経費の年と額が変わります。
- 途中から使った資産を1年分で償却した ― 修正申告と延滞税が要ることがあります(No.2026)。
- 請求書の日付だけで売上を入れた ― 締め日後の12月の納品分が漏れ、売上が少なくなります。
- 期限を過ぎて申告した ― 55万円・65万円の控除は受けられません。
- 売上の帳簿が不十分だった ― 調査で申告漏れが分かると、加算税が重くなります。上乗せは5%か10%です(No.2026)。
期限の誤り以外は、開業前後の支出の仕分けと、資産・売上の記録で防げます。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
12月までにご自身で進められるのは、次の5つです。
- 開業日と、その日の事業用の預金・現金・在庫を書き出す
- 開業前の領収書を、資産・前払い・準備の費用・私用に分ける
- 備品ごとに、金額・買った日・使い始めた日を一覧にする
- 青色申告承認申請書の控えで、出した日を確かめる
- 12月31日の預金残高・未入金の売上・未払いの経費・在庫を記録する
開業費をいつ経費にするか、どの資産にどの扱いを選ぶかは、個別判断です。
所得の見込みや、青色か白色かで、有利な選び方が変わります。

税理士に頼むと変わるのは、初年度の締め方と要件の確認です
小松公認会計士・税理士事務所では、開業1年目の決算と申告を次の流れで進めます。
- 開業日の残高の確認と、開業前の支出の仕分け
- 備品の一覧づくりと、減価償却・特例の扱いの判定
- 12月31日での帳簿の締めと、貸借対照表・損益計算書の作成
- 開業費を経費にする時期の試算(2年目以後の見込みと並べて)
- 青色申告の要件の確認と、e-Taxでの期限内の提出・控えの保管
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よくある質問(FAQ)
Q1. 開業1年目の確定申告は、いつまでに何を準備すればよいですか?
令和8年分の申告期間は、原則として令和9年2月16日から3月15日までです(No.2020)。それまでに、開業日から12月31日までの帳簿を締めます。55万円・65万円の青色申告特別控除は期限内の申告が要件で、還付申告でも同じです(No.2072)。
Q2. 開業前に買ったパソコンは、開業費にできますか?
できません。開業費は、事業を始めるまでに開業準備のため特別に支出した費用です。資産の購入代金と前払費用は除かれます(所得税法施行令7条1項)。パソコンは、事業で使い始めた日から減価償却資産として扱います。10万円未満なら、使い始めた年に全額を経費にします(No.2100)。
Q3. 開業費は、1年目に全額を経費にしなければいけませんか?
その必要はありません。60か月で均等に割るか、範囲内で選んだ額を確定申告書に書きます(所得税法施行令137条)。国税庁の質疑応答事例は、一度に全額でも、全く経費にしなくてもよいと回答しています。経費にできるのは、開業した年分からです。後の年に回すなら、内容と未計上であることを示せるようにします。
Q4. 11月に開業し、青色申告の承認申請をしました。承認の通知が来ないのですが?
1月16日以後に開業した場合の申請期限は、開業した日から2か月以内です(所得税法144条)。期限内に出し、翌年2月15日までに承認も却下もなければ、承認されたとみなされます(同法147条)。10月31日までの開業なら、その日は12月31日です。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法70条1項・2項・120条1項・144条・147条・149条、所得税法施行令7条1項・123条2項・125条・132条・137条1項1号・3項、所得税法施行規則57条2項・60条1項・2項・61条1項、租税特別措置法25条の2・28条の2、所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)附則33条・35条、タックスアンサーNo.2020「確定申告」・No.2026「確定申告を間違えたとき」・No.2070「青色申告制度」・No.2072「青色申告特別控除」・No.2080「白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」・No.2100「減価償却のあらまし」・No.2106「定額法と定率法による減価償却」・No.2109「新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却」、国税庁の質疑応答事例「償却期間経過後における開業費の任意償却」、国税庁「決算のしかた(青色申告編)」・「白色申告者の決算の手引き(一般用)」、国税庁の令和9年分以後の青色申告特別控除の案内の内容を扱っています。開業費を60か月で均等に経費にする場合の開業した年の月数の数え方、開業費に含められる支出の個別の範囲、元入金の計算、耐用年数と償却率の個別の値、定率法の計算、開業前から持っていた資産を事業に使う場合の具体的な計算、中小事業者の判定、取得価額に消費税を含めるかの判定、貸付けの用に供した資産の扱い、償却資産税、棚卸資産の評価方法、現金主義の特例、家事按分の具体的な割合、青色事業専従者給与、純損失の繰戻し、優良な電子帳簿の要件と届出書、令和9年分以後の青色申告特別控除の細目(前々年の収入金額が1,000万円を超える方の扱いやデジタルシームレス保存など)、過少申告加算税・延滞税の計算、開業届などの届出書の様式と書き方、消費税とインボイス、個人事業税・住民税、予定納税は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は資産の種類や使い始めた時期によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「所得税法」(144条・147条・149条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」(7条・132条・137条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- 国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 国税庁 質疑応答事例「償却期間経過後における開業費の任意償却」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/04/08.htm
- 国税庁「【令和9年分確定申告から適用】優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存により75万円の青色申告特別控除を適用しましょう!」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/0026007-003_02.pdf
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