この記事のポイント
- 自宅の家賃・電気代など生活と仕事の両方にかかわる費用(家事関連費)は、区分できる部分だけ経費にできます
- 「何割まで」という基準はなく、業務に直接必要な部分をはっきり区分できるかが問われます
- 税務調査で問われるのは割合の水準より「なぜその割合か」を説明できるか。基準は毎年一貫させます
- 生計を一にする親族への地代家賃は原則、必要経費になりません。実家で開業する場合は特に注意が必要です
家事関連費とは――生活と仕事が混ざった費用のこと
自宅の家賃や電気代は、仕事に使っている部分を区分できれば、その分だけ経費にできます。「何割まで大丈夫」という決まった基準はなく、問われるのは割合の根拠を説明できるかどうかです。
家賃・電気代・通信費・ガソリン代など生活と仕事に関わる費用を「家事関連費」といい、全額は経費にできません。生活費は経費でなく(所得税法45条)、経費は仕事のための費用だけだからです(所得税法37条)。
ただしこの原則には例外があります(所得税法施行令96条)。国税庁タックスアンサーNo.2210はこの点を次のように説明しています。
個人事業では、店舗併用住宅の水道光熱費など、家事上と業務上の両方にかかわる費用が生じます。これらのうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
押さえるべき言葉は「明らかに区分できる」です。家事按分の話は、すべてここに行き着きます。
問われるのは割合の水準ではなく「説明できるか」
「何パーセントまでなら大丈夫」という基準は、法令のどこにもありません。実態どおりに区分できていれば高い割合でも通り、根拠がなければ低い割合でも説明できません。
ポイント
「家賃は5割まで」という相談をよく受けますが、法令が求めるのは割合でなく区分の明確さです。5割という数字自体に根拠はありません。
実務では、次の順序で考えるのが有効です。
- 業務に使っている部分を物理的・時間的に測る
- 誰が見ても同じ数字になる基準(計算式)に落とす
- その基準を毎年一貫して適用し、根拠資料とあわせて保存する
先に「家賃の何割」と決めて理由を後付けする進め方は避けます。実態が変わらないのに割合だけ動くと、説明を求められます。
費目別・按分基準の考え方
費目ごとに、実態を測りやすい基準は異なります。
| 費目 | 按分の基準 | 裏づけ資料 |
|---|---|---|
| 家賃・地代 | 床面積(業務専用スペース÷住まい全体) | 間取り図、面積計算メモ |
| 電気代 | 使用時間・使用スペース | 作業日報、業務用パソコンのログ |
| 通信費 | 使用時間・使用回数 | 利用明細(業務用回線を分けると明快) |
| 自動車関係費 | 走行距離 | 運行記録、車検証 |
| 水道代・ガス代 | 業種次第(飲食業・美容業は説明しやすい) | 説明できない費目は無理に入れない |
数字で見る:按分の計算例
次の前提で、年間の必要経費算入額を計算します(割合はあくまで説明のための仮定です)。
| 費目 | 年間支出額 | 按分の基準 | 割合 | 必要経費算入額 |
|---|---|---|---|---|
| 家賃(月12万円) | 1,440,000円 | 床面積(業務専用の1室) | 30% | 432,000円 |
| 電気代 | 180,000円 | 使用時間・使用スペース | 40% | 72,000円 |
| 通信費 | 120,000円 | 使用時間 | 70% | 84,000円 |
| 合計 | 588,000円 | |||
計算例
例:税率30%の方が、上表の按分で年588,000円を必要経費に算入した場合
588,000円 × 30% = 176,400円所得税と住民税を合わせて約176,400円の負担減につながります。
そもそも必要経費にならないもの
按分の前に、そもそも必要経費にならない支出を確認します。国税庁タックスアンサーNo.2210は次を挙げています。
- 生計を一にする配偶者やその他の親族に支払う地代家賃・給与など(青色事業専従者給与を除く)
- 所得税・住民税
- 罰金・科料・過料
- 公務員に対する賄賂
実家で開業する場合の注意点
とくに問題になるのが1つ目です。「生計を一にする」とは同じ財布で暮らすことで、家族間でお金を回し所得を分散させる手段になり得るため、この地代家賃は認められません。
注意
実家の一室で開業して親に家賃を払っても、その家賃は経費になりません(所得税法56条)。一方、その親族が負担している固定資産税など実際に生じている費用は事業主の経費として扱えます。
実家で開業するなら「家賃を払う」でなく「実費のうち仕事対応分を拾う」という発想に切り替え、開業前にご確認ください。
青色事業専従者給与という例外
家族への給与にも例外があります。青色申告者の「青色事業専従者給与」、白色申告者の「事業専従者控除」は、どちらも事前の届出・要件が必要です。手伝ってもらう予定があるなら年が始まる前に確認してください。
説明できる根拠の残し方
按分は「計算した」だけでは足りません。「なぜその計算になるのか」を示す資料を、セットで残してください。
按分計算書を残す
費目・年間支出額・基準・割合・算入額を一覧にした書面を年に1枚作成し、翌年以降も同じ形式を使えば割合の一貫性が説明材料になります。記帳は支払時に全額を計上し、決算で生活使用分を「事業主貸」に振り替える方法が一般的です。最終的に経費に残る金額と、その計算の過程が追えることが要点です。
実態が変わったら基準も見直す
引っ越しや業務スペースの変更があれば按分の基準も変わります。実態が変わったのに前年と同じ割合を使い続けると説明の弱点になり、変えるべきときに変えた記録が残っていることが、かえって信頼性を高めます。家事按分は申告後に資料を作り直せないため、その年のうちに整えておいてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 按分割合は何パーセントまでなら認められますか?
「何パーセントまで」という基準は法令にありません。仕事に直接必要な部分を区分できているかで判断されます。実態が9割なら9割、2割なら2割が上限です。数字でなく実態を先に測ってください。
Q2. 持ち家の場合、住宅ローンの返済額を経費にできますか?
住宅ローンの元本部分は費用でないため経費になりません。持ち家では減価償却費・固定資産税・火災保険料などを事業用部分に按分します。住宅ローン控除を受けているなら事業使用割合が控除額に影響することがあるためご確認ください。
Q3. 実家で開業しました。親に家賃を払えば経費になりますか?
生計を一にする親族への地代家賃は原則、経費になりません(所得税法56条、国税庁タックスアンサーNo.2210)。一方、その親族が負担している固定資産税など資産について生じた費用は、事業主の経費とする取扱いがあります。個別にご確認ください。
Q4. 按分の計算書は、確定申告書と一緒に提出する必要がありますか?
提出は不要ですが保存が必要です。申告書には按分後の金額だけが載るため、根拠は帳簿と資料で説明します。青色申告決算書には家事按分の記載欄があるため、あわせてご確認ください。
免責事項
本記事は令和8年8月時点の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な解説です。家事関連費の区分は個別の事実関係によって結論が異なり、本記事で示した按分割合はあくまで説明のための例です。ご自身の実態に合った基準を用いる必要があります。具体的な事案については必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・判例出典
- 国税庁タックスアンサー No.2210「やさしい必要経費の知識」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
- 所得税法37条(必要経費)・45条(家事関連費等の必要経費不算入等)・56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)、所得税法施行令96条(家事関連費)e-Gov法令検索
- 国税庁タックスアンサー No.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
- 国税庁「帳簿の記帳のしかた」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/kicho.htm
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家事按分は、割合そのものよりも「その割合をどう説明するか」で結論が変わります。金額が大きい費目ほど、後から根拠を作り直すことはできません。申告前の段階でご相談いただければ、按分の基準と残すべき資料を具体的にご提案します。まずは無料相談をご利用ください。
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