この記事のポイント
- 傷害保険料は原則期間の経過に応じて損金です。本人・遺族受取で役員など特定の人だけ加入なら給与です
- 本人がけがで受け取る保険金は非課税、会社が受け取れば益金です
- 見舞金が非課税なのは社会通念上相当な額までです。保険金が原資でも同じです
- 業務上の死亡で就業規則等による災害補償金などを退職手当金等としない扱いは、役員を除きます
まず結論:保険料は受取人と加入する人で、保険金は受け取る人で税金が決まります
業務災害補償保険(いわゆる労災上乗せ保険)は、従業員の仕事中のけがなどに備えて会社が入る保険です。
けがで保険金が出る契約の保険料は、原則として期間の経過に応じて損金(税金の計算で引ける費用)です。
ただし、受取人を本人や遺族にして、役員など特定の人だけを加入させると、保険料はその人への給与です。
保険金は、本人がけがで受け取れば非課税です。会社が受け取れば益金(税金の計算で収入に数えるもの)です。
会社が受け取った保険金を渡すときは、名目と額で課税が分かれます。

役員・従業員を被保険者とする傷害保険は「第三分野保険」として扱います
役員や従業員のけがで保険金が出る契約(傷害保険)は、法人税では第三分野保険として扱います。
第三分野保険とは、保険業法第3条第4項第2号に掲げる保険(これに類するものを含み、例えば、被保険者が病気や怪我等の一定の事由に該当した場合に保険金または給付金が支払われる保険)をいいます。
(タックスアンサー No.5364)
保険料の扱いは法人税基本通達9-3-5が定めています。受取人が会社でも本人・遺族でも、原則は期間の経過に応じた損金です。
補償の中身は契約ごとに違うので、まず保険証券と約款で確かめます。
補足
保険期間3年以上で最高解約返戻率50%超の契約は、原則として一部を資産にします(9-3-5の2)。積立型や年払いの按分は、損害保険料の記事で説明しています。
役員だけを加入させると、保険料が給与になることがあります
役員など特定の人だけを被保険者(保険の対象になる人)にすると、保険料が給与になる場合があります。
受取人が本人や遺族のときです(法人税基本通達9-3-5(2)ただし書)。受取人が会社の場合を定めた(1)には、このただし書がありません。
所得税でも、この場合は掛捨て部分の保険料が給与等とされます(所得税基本通達36-31の7)。
給与になると、会社は所得税を差し引いて納める源泉徴収をします(所得税法183条1項)。
給与とされた役員の保険料も、経常的な負担なら定期同額給与です(タックスアンサー No.5364)。定期同額給与は、毎月同額で払う役員給与の型の一つです。
ポイント
「特定の使用人のみ」かは、基準が恣意的かで見ます(源泉所得税の質疑応答事例)。海外の特定危険地域で働く全従業員を一律に対象とする契約は、当たらないとされました。
役員を加入させるなら、受取人と加入の基準を、加入の前に決めておきます。

保険金は、本人が受け取るか会社が受け取るかで税金が変わります
けがの保険金は、本人受取なら非課税、会社受取なら益金です。
所得税法施行令30条1号は、「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」を非課税としています。ただし、死亡保険金はこれに当たりません(所得税基本通達9-20の注)。
遺族が受け取る死亡保険金は、原則として相続税の対象です。会社負担の保険料も、本人の負担とみるからです(相続税法基本通達3-17)。
会社が受取人なら、保険金は益金に算入します(法人税法22条2項)。本人に渡すお金は、会社からの支払として課税を考えます。
計算例
例:業務中のけがの入院・通院で、保険金300,000円が出た場合
① 受取人が本人 本人は300,000円が非課税/会社の益金は0円 ② 受取人が会社 益金300,000円 - 見舞金30,000円 = 会社の所得が270,000円増える 見舞金30,000円は、社会通念上相当なら本人は非課税(所得税基本通達9-23)金額は一定の前提を置いた目安です。30,000円は規程で定めた額の例で、非課税の上限ではありません。社会通念上相当かは、受け取る人の地位や会社との関係などに照らして判断します。
会社から渡すお金は、名目ごとに本人や遺族の税金が違います
名目が違えば、受け取る人の税金も違います。
| 名目 | 受け取る人の税金 | 根拠 |
|---|---|---|
| 休業補償(労働基準法76条) | 非課税 | 所得税法施行令20条1項2号 |
| 就業規則で休業補償に上乗せする付加給付金 | 非課税 | タックスアンサー No.1905 |
| 休業手当(会社都合の休業) | 給与所得 | 同 No.1905 |
| 見舞金 | 社会通念上相当なら非課税 | 所得税基本通達9-23 |
| 遺族補償・葬祭料(同法79条・80条) | 所得税は非課税 | 所得税基本通達9-1 |
| 死亡退職金 | 相続税の対象(相続人は非課税枠あり) | 相続税法3条1項2号・12条1項7号 |
業務上のけがで休む間の休業補償は、平均賃金の60%が法律の水準です(労働基準法76条1項)。就業規則でこれを超えて払う付加給付金も、非課税です。
心身の損害への慰謝料に当たるためです(同 No.1905)。
会社が受取人の保険金と同額を、遺族補償として払った事例があります。勤務に基づく支給として、死亡退職金と同じ退職手当金等とされました(国税庁の質疑応答事例)。
従業員の業務上の死亡で、就業規則などによる災害補償金や遺族見舞金は扱いが違います。労働基準法の遺族補償などに準ずるものは、退職金に代わる部分を除き、退職手当金等に当たりません。
根拠の相続税法基本通達3-23(13)は対象を従業員とし、役員を除いています。
非課税枠や弔慰金の枠の計算は、死亡退職金と弔慰金の記事にまとめています。

失敗パターン:通達や裁決とずれる3つの処理
次の3つは、通達や裁決とずれる処理です。
- 役員だけ加入・本人や遺族受取の保険料を福利厚生費にした ― 9-3-5(2)で給与です。源泉徴収も要ります。
- 役員の業務上の死亡に3-23(13)を当てはめた ― 役員は対象外です。
- 会社受取の入院給付金の半額を、規程どおり役員に渡した ― 一部が賞与とされました。
平成14年6月13日の裁決は、会社が受取人の定期保険の事案です。規程は、入院給付金の半額を役員に見舞金で払う定めでした。
請求人が保険金を受領することと、見舞金の引き当てとして保険に加入し、これを原資として見舞金を支払うこととは本来全く別個の問題であると解すべきである。
(平成14年6月13日裁決、裁決事例集No.63 309頁)
審判所は、見舞金が損金になるかを、額が社会通念上相当かで判断しました。規程どおりか、保険金が原資かでは左右されないとしています。
同業同規模の会社の規程と支給例から、役員の見舞金は入院1回50,000円が上限とされました。
1回目の1,770,000円のうち、1,520,000円が賞与とされました。入院5回分の250,000円を超える部分です。源泉徴収の対象にもなりました。
保険金が原資でも、見舞金の額は世間の水準で測られます。
注意
当時の規定(役員賞与の損金不算入)での事案です。入院1回50,000円は、その事案の地域・業種・規模から認定した額で、一般的な上限ではありません。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
保険証券と規程の突き合わせまでは、ご自身でできます。
- 保険証券で、契約者・被保険者の範囲・受取人・保険期間を確かめる
- 約款で、入院・通院・後遺障害・死亡のどれに保険金が出るかを確かめる
- 設計書で、満期返戻金や解約返戻金の有無を確かめる
- 就業規則や見舞金・退職金の規程に、保険金の扱いがあるかを確かめる
見舞金の相当額、業務上の死亡に当たるか、役員を加入させる形は、事実に応じた個別判断です。
遺族へ払うお金の名目と額は、支払の前に規程と照らして決めておきます。

税理士が入ると変わるのは、契約・規程・経理のつながりです
小松公認会計士・税理士事務所では、加入や更新の前から次の作業を行います。
ひとつめは、保険証券と約款から、どの通達で処理するかの判定です。
ふたつめは、受取人と加入範囲の案を、税金の面で比べる表の作成です。
みっつめは、見舞金・退職金・弔慰金などの規程と、保険金の関係の確認です。
よっつめは、保険金の益金計上と、支払ごとの区分・源泉徴収の要否の判定です。
いつつめは、ご遺族の相続税申告での、死亡保険金・退職手当金等・弔慰金の区分です。
むっつめは、規程と支払記録をそろえた、税務調査の想定問答の準備です。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 労災上乗せ保険の保険料は、払った期に全額を損金にできますか?
傷害保険の保険料は、原則として期間の経過に応じて損金です(法人税基本通達9-3-5)。支払日から1年以内に終わる保障の保険料は、継続適用なら払った期の損金にできます(同2-2-14)。保険期間3年以上で最高解約返戻率50%超の契約は、原則として一部を資産にします(9-3-5の2)。受取人が本人・遺族で、役員など特定の人だけが加入なら給与です。
Q2. 役員だけを労災上乗せ保険に加入させると、どうなりますか?
受取人を本人や遺族にすると、保険料は役員への給与です(法人税基本通達9-3-5(2))。受取人が会社なら、給与とはせず、原則として期間の経過に応じて損金です(9-3-5(1))。給与とされた保険料も、会社が経常的に負担すれば定期同額給与になります。根拠はタックスアンサーNo.5364です。
Q3. 会社が受け取った保険金を、そのまま本人に渡してもよいですか?
会社は保険金を益金に算入します(法人税法22条2項)。渡すお金は会社からの支払です。見舞金の非課税は社会通念上相当な額までです(所得税基本通達9-23)。保険金が原資でも、額の相当性で判断した裁決があります(平成14年6月13日裁決)。
Q4. 業務中の事故で従業員が亡くなったとき、遺族に払うお金はどう課税されますか?
死亡退職金は、死亡後3年以内に支給が確定すれば相続税の対象です。業務上の死亡で、就業規則等による遺族補償などに準ずる災害補償金などは扱いが違います。退職金に代わる部分を除き、退職手当金等に当たりません(相続税法基本通達3-23(13))。役員は対象外です。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法22条2項、法人税基本通達2-2-14・9-3-5・9-3-5の2・9-3-9、所得税法183条1項、所得税法施行令20条1項2号・30条1号、所得税基本通達9-1・9-20・9-23・36-31の7、相続税法3条1項1号・2号・12条1項7号、相続税法基本通達3-17・3-23、労働基準法76条1項・79条・80条、タックスアンサーNo.1905「労働基準法の休業手当等の課税関係」・No.5364「定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれない場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」、国税庁の質疑応答事例「被相続人の死亡退職に伴い遺族補償金として支給された金額」「海外の特定危険地域在住の従業員を被保険者とする損害保険契約の掛金を会社が負担する場合の経済的利益」、国税不服審判所の平成14年6月13日裁決の内容を扱っています。特定の保険商品の補償内容、会社の賠償責任や補償の負担をてん補する型の保険の保険料、政府の労災保険の保険料と給付内容・特別加入、9-3-5の2による資産計上額と取崩しの計算、満期返戻金のある長期の損害保険契約の積立保険料、解約返戻金相当額のない短期払の保険料の特例、年払保険料の期間按分と短期前払費用の要件の詳細、所得税で受取人が会社の場合の経済的利益の有無、給与とされた保険料の生命保険料控除、会社が受け取った保険金を益金に算入する時期、見舞金の具体的な金額基準、業務上の死亡に当たるかの判定基準、死亡保険金と死亡退職金の非課税限度額の計算、弔慰金等に相当する金額の計算、法人税額・所得税額・相続税額の計算、消費税と社会保険料の扱いは扱っていません。紹介した裁決は当時の規定(役員賞与の損金不算入)による定期保険の入院給付金の事案で、入院1回50,000円はその事案の事実から認定された額です。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の課税関係は契約と規程の内容によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第3節「保険料等」(9-3-5・9-3-5の2・9-3-9)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5364「定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれない場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5364.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1905「労働基準法の休業手当等の課税関係」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1905.htm
- 国税庁 相続税法基本通達〔退職手当金関係〕(3-23)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/01/03.htm
- 国税不服審判所 公表裁決事例(平14.6.13裁決、裁決事例集No.63 309頁)https://www.kfs.go.jp/service/JP/63/21/index.html
労災上乗せ保険の受取人と規程を、加入や更新の前に確かめませんか
けがで保険金が出る労災上乗せ保険の保険料は、原則として期間の経過に応じて損金です。ただし、受取人が本人や遺族で役員など特定の人だけが加入なら、給与になります。会社が受け取った保険金を渡すときは、名目と額で本人やご遺族の税金が変わります。見舞金の損金算入を、保険金が原資かでなく額の相当性で判断した裁決もあります。代表税理士が、保険証券と約款の確認から、規程の整理、受取時の経理まで通して対応します。加入や更新、規程の見直しの前にご相談ください。
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