この記事のポイント
- 建物の取得費は、古家付きなら取得費、売るための取壊しなら譲渡費用で引きます
- 特例を使わなければ、差は主に売値の差と取壊し費用で決まります
- 自宅を壊して売るなら、取壊しから1年以内の契約と契約まで土地をほかの用途に使わないことなどが要件です
- 相続した空き家は、令和6年1月1日以後の譲渡なら売った年の翌年2月15日までの取壊し等も対象です
まず結論:差を生むのは、売値と取壊し費用、そして特例の期限です
古い家が建つ土地は、家ごと売るか、壊して更地で売るかを選べます。
税金がかかるのは譲渡所得で、売った金額から取得費と譲渡費用を引いたもうけです。
取得費は買ったときの代金など、譲渡費用は売るために直接かかった費用です。
建物の取得費は、古家付きでも、売るための取壊しでも差し引けます。
そのため特例を使わなければ、差は主に売値の差と取壊し費用で決まります。
大きな差が出るのは、3,000万円控除の期限と要件を満たせるかどうかです。
この記事では、計算の違いと判断の順番を比べます。

計算で変わるのは、建物の引き方と取壊し費用です
建物の取得費とは、購入代金などから使った分(減価償却費相当額)を引いた額です。
| 項目 | 古家付きのまま売る | 取り壊して更地で売る |
|---|---|---|
| 売る金額 | 家と土地の代金 | 土地の代金 |
| 建物の取得費 | 取得費として引く | 損失額として譲渡費用で引く(売るための取壊しが明らかな場合) |
| 取壊し費用 | 売主の負担なし | 譲渡費用で引く |
| 自宅の3,000万円控除の期限 | 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで | 同じ期限に加え、取壊しから1年以内に契約 |
| 住まなくなった後の使い方 | どのような用途でもかまわない | 取壊し後、契約まで貸駐車場などに使わない |
取壊し費用は、土地を売るための取壊しなら譲渡費用です(所得税基本通達33-7)。
建物の損失額には、次の条件が付いています。
その取壊し又は除却が当該譲渡のために行われたものであることが明らかであるときは、
(所得税基本通達33-8)
損失額は、取壊しの日に売ったとみなした建物の取得費です(所得税法施行令142条)。
ポイント
古家付きなら取得費、売るための取壊しなら譲渡費用として、建物の分を差し引きます。取壊しで出た資材(発生資材)に値段が付けば、その額は損失額から引きます。
数字で比べる:特例がなければ、税額が同じになることもあります
令和8年中に、売った年の1月1日で所有期間が5年を超える自宅を売る例です。
計算例
例:土地の取得費1,500万円、建物の取得費300万円、仲介手数料など100万円。古家付きは3,900万円、更地は4,100万円で売れ、取壊し費用は200万円
古家付き 3,900万円 -(1,500万円 + 300万円)- 100万円 = 2,000万円 更地 4,100万円 - 1,500万円 -(100万円 + 200万円 + 300万円)= 2,000万円 税額(両方) 所得税300万円 + 復興特別所得税6.3万円 + 住民税100万円 = 406.3万円 手取り(古家付き) 3,900万円 - 100万円 - 406.3万円 = 3,393.7万円 手取り(更地) 4,100万円 - 100万円 - 200万円 - 406.3万円 = 3,393.7万円金額はすべて仮の数字で、一定の前提を置いた目安です。
建物の取得費は取壊し時と売却時で、仲介手数料などは両案で同じ額と仮定しました。
税率は所得税15%と住民税5%、復興特別所得税は所得税額の2.1%です(No.3208)。
売値の差が取壊し費用と同じなら、税額も手取りも変わりません。
一方、3,000万円控除を使えれば、この例の税額は0円です。
更地にして控除の要件を満たせないと、406.3万円の差になります。
補足
令和9年分以後は、復興特別所得税が1.1%になり、防衛特別所得税1%が加わります。合計の割合(所得税額の2.1%)は変わりません(防衛財確法5条の9ほか)。

自宅を壊して売るなら、「1年以内の契約」と「ほかの用途に使わない」が要件です
自宅を売ると、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります(No.3302)。
家を取り壊して敷地を売る場合は、要件が2つあります。
1つは、取り壊した日から1年以内に契約し、期限までに売ることです。
期限は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日です。
もう1つは、次のとおりです。
(ロ) 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
(国税庁 タックスアンサー No.3302)
古家付きで売るなら、この1年の期限はありません。
更地にすると、壊した日から「1年以内に契約」の期限が始まります。
壊した後に自分で建物を建てて一緒に売る場合は、この扱いの対象外です。
引き家(家を壊さずに移すこと)をした場合も、対象になりません(措置法通達35-2)。
要件の細目は自宅を取り壊して土地を売るときの記事で扱っています。

相続した実家は、令和6年以後の譲渡なら売った後の取壊しも対象です
相続した実家には、被相続人(亡くなった方)の居住用財産の特例があります(No.3306)。
令和9年12月31日までの譲渡なら、最高3,000万円を控除できます。
亡くなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることも必要です。
令和6年1月1日以後の譲渡で、取得した相続人が3人以上なら2,000万円までです。
| 売り方 | 家についての主な条件 |
|---|---|
| 家ごと売る | 売る時に一定の耐震基準を満たす |
| 壊してから土地を売る | 壊した後、売るまで建物や構築物の敷地にしない |
| 家ごと売り、後で工事をする | 売った年の翌年2月15日までに耐震基準を満たすか、全部を取り壊す(令和6年1月1日以後の譲渡) |
どの売り方も、相続の時から売る時まで、事業・貸付け・居住に使っていないことが条件です。
売った後の工事は買主の協力が要るため、売買契約で取り決めます。
国土交通省のQ&Aも、譲渡後の買主の協力が不可欠だとしています。
昭和56年5月31日以前の建築などの要件は相続した実家を売るときの記事をご覧ください。

失敗しやすいのは、この6つです
どれも、日付と土地の使い方、資料の残し方で決まります。
- 壊してから1年を過ぎて契約した ― 自宅の3,000万円控除の要件を外れます
- 壊した後、売るまで駐車場として貸した ― 自宅の特例の要件を外れます。相続した空き家も、貸付けに使うと対象外です
- 売った後の取壊しを契約で決めていない ― 翌年2月15日までに工事が済まないおそれがあります
- 売った後、工事をせずに耐震基準の証明書だけを取った ― 期間中の耐震改修工事が必須です(国土交通省)
- 売るための取壊しだと説明できない ― 建物の損失額は、譲渡のためと明らかなときに譲渡費用になります
- 取壊しの契約書や領収書を残していない ― 費用の額と日付を示せません。空き家の特例で売った後に壊す場合は、取壊しを証する書類の添付が要ります(No.3306)
注意
固定資産税は、毎年1月1日の現況で課税されます(地方税法359条)。1月1日に家が無いと、原則としてその年度は住宅用地の特例(税を軽くする仕組み)の対象外です。固定資産税は譲渡費用にもなりません(No.3255)。
判断の順番:ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
壊すかどうかは、使える特例と期限を確かめてから決めます。
- 自宅か、相続した実家かで、使える特例を確かめる
- 住まなくなった日や相続の日から、売る期限を日付で出す
- 古家付きと更地の売値の見込みと、取壊しの見積りを取る
- 購入時の契約書など、建物の取得費の資料をそろえる
ここから先は、資料と事情で結論が変わります。
建物の取得費の計算、取壊しが「譲渡のため」と言えるか、特例の選び方です。
売った後に工事をする場合は、売買契約の特約の内容も確かめます。
税理士が入ると変わるのは、期限の管理と取得費の根拠です
ひとつめは、購入時の資料から建物の取得費を計算し、根拠を残すことです。
ふたつめは、住まなくなった日・取壊し日・契約日を並べ、特例の期限を確かめることです。
みっつめは、古家付きと更地の手取りを、同じ前提で比べる表を作ることです。
よっつめは、空き家の特例の確認書などの書類の準備と、申告書への反映です。
小松公認会計士・税理士事務所では、取り壊す前の比較から適正申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 古家付きで売ると、建物の分は損になりますか?
建物の取得費(購入代金などから減価償却費相当額を引いた額)は、取得費として差し引けます。取り壊して売るなら、売るための取壊し費用は譲渡費用です(所得税基本通達33-7)。建物の損失額も、譲渡のためと明らかなら譲渡費用です(同33-8)。
Q2. 自宅を取り壊してから1年を過ぎると、3,000万円控除は使えませんか?
取り壊した日から1年以内に敷地の譲渡契約を結ぶことが要件です(No.3302)。住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることも必要です。取壊し後、契約までは貸駐車場などに使わないでください。
Q3. 相続した実家を古家付きで売り、後で買主が壊す場合も空き家の特例を使えますか?
令和6年1月1日以後の譲渡なら、対象になり得ます(No.3306)。売った年の翌年2月15日までに、全部の取壊し等か耐震改修工事を済ませます。令和9年12月31日までの譲渡などの要件もあり、工事は契約で取り決めます。
Q4. 更地にすると、固定資産税の住宅用地の特例はいつから外れますか?
固定資産税は毎年1月1日の現況で課税されます(地方税法359条)。1月1日に家が無いと、原則としてその年度は住宅用地の特例の対象外です。具体的な扱いは市区町村にご確認ください。固定資産税は譲渡費用にもなりません(No.3255)。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税基本通達33-7・33-8、所得税法施行令142条、租税特別措置法35条、措置法通達35-2、地方税法349条の3の2・359条、国税庁タックスアンサー No.3202・No.3208・No.3255・No.3261・No.3302・No.3306、防衛財確法5条の5・5条の9、国税庁「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」、国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置」の内容を扱っています。建物の取得費(減価償却費相当額)の具体的な計算、事業用・賃貸用の建物の扱い、10年超所有の軽減税率の特例(措置法31条の3)と取壊し時の所有期間の要件、一部だけ取り壊した場合や区画して売る場合、相続した空き家の特例の要件の全体(老人ホームに入所していた場合、1億円の判定、確認書の手続き、取得費加算の特例との選択など)、住宅ローン控除との関係、固定資産税の税額の計算と住宅用地の特例の例外、令和9年分以後の確定申告での防衛特別所得税の適用関係の細目は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は取得費・売値・取壊し費用・所有期間・使える特例によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3302 マイホームを売ったときの特例https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 所得税基本通達 法第33条《譲渡所得》関係(33-7 譲渡費用の範囲・33-8 資産の譲渡に関連する資産損失)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/07.htm
- 国税庁 租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて 措置法第35条関係(35-2 居住用土地等のみの譲渡)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti35/01.htm
- 国土交通省 空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html
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