この記事のポイント
- 配偶者居住権を消滅させて対価を受け取ると譲渡所得になります(所基通33-6の8)
- 取得費はゼロではありません。所得税法60条3項で計算します
- 建物・土地を売る側も、取得費から配偶者居住権の分が引かれます(同条2項)
- 国税庁の計算明細書を使って、権利ごとに取得費を分けます
まず結論:対価を受け取れば、譲渡所得の収入金額になります
配偶者居住権は、遺された配偶者が自宅に住み続けられるようにする権利です。
建物の所有権は子が相続し、住む権利だけを配偶者が持つ、という分け方ができます。
その後、施設に移るなどの事情で自宅を売ることになる場合があります。
このとき、配偶者は建物を持っていないので「売っていない」と感じます。
けれども、配偶者居住権を消滅させて対価を受け取れば、それは譲渡所得の収入金額になります。
所得税基本通達33-6の8が、この点をはっきり示しています。
補足
通達は「配偶者居住権又は当該配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供される土地を当該配偶者居住権に基づき使用する権利の消滅につき対価の支払を受ける場合における当該対価の額は、令第95条に規定する譲渡所得に係る収入金額に該当する」としています。所得税法施行令95条は、資産の消滅に伴い一時に受ける補償金その他これに類するものの額を譲渡所得の収入金額とする規定です。
実務では、配偶者居住権を消滅させることに合意し、その対価を受け取る形が中心になります。

誰が何を持っているのかを整理します
配偶者居住権がある自宅は、権利が2つに分かれています。
この分かれ方が分かると、売却の場面も理解しやすくなります。
| 持っている人 | 持っているもの | 売却時に受け取るもの |
|---|---|---|
| 配偶者 | 配偶者居住権(建物を使う権利)と敷地利用権(その敷地を使う権利) | 権利を消滅させることの対価 |
| 建物・土地の所有者(多くは子) | 配偶者居住権の負担がついた建物と土地の所有権 | 建物と土地の売却代金 |
買主が自由に使える状態で引き渡すには、2つの権利が両方そろう必要があります。
そのため、実際の売却では配偶者と所有者が同時に動くことになります。
そして、2人ともそれぞれに譲渡所得の計算が生じます。
前提として、相続で引き継いだ資産の扱いを押さえておきます。
所得税法60条1項は、贈与・相続・遺贈により取得した資産を譲渡した場合について定めています。
その者が引き続きこれを所有していたものとみなす、というのが原則です。
亡くなった方が買ったときの取得費と取得の時期を、そのまま引き継ぐという意味です。
配偶者居住権のルールは、この原則の上に置かれた特別な定めになります。

配偶者側の取得費はゼロではありません
ここがいちばん間違えやすいところです。
お金を出して買った権利ではないので、取得費がないと考えてしまいがちです。
しかし、所得税法60条3項が取得費の計算方法を定めています。
ポイント
相続または遺贈により取得した配偶者居住権が消滅したときは、その権利を取得した時に建物を譲渡したとしたならば計算される取得費のうち、配偶者居住権の価額に相当する金額に対応する部分として政令で定めるところにより計算した金額により取得したものとされます。その金額から、配偶者居住権の存続する期間を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を控除した額が取得費になります。
敷地利用権についても、同じ考え方の定めが同項2号に置かれています。
つまり、亡くなった方が建物を買ったときの金額が、配偶者側にも引き継がれるということです。
取得費をゼロとして申告すると、納めすぎになります。
注意
この場合、所得税法38条2項の規定は適用しませんと明記されています(同条3項後段)。38条2項は、建物の取得費から所有期間中の減価の額を控除する規定です。代わりに、存続期間を基礎とした減価が控除される仕組みになっています。二重に減らさないための整理です。

建物・土地を売る側の取得費も減ります
所有者(多くは子)の側にも影響があります。
所得税法60条2項が、配偶者居住権の目的となっている建物と敷地について定めています。
その建物に配偶者居住権が設定されていないとしたならば計算される取得費から、配偶者居住権の取得費とされる金額を控除します。
土地についても、敷地利用権の取得費とされる金額を同じように控除します。
つまり、もともと1つだった取得費が、2人の間で分け合われる形になります。
注意
所有者の側で、従来どおりの取得費をそのまま使って申告すると、配偶者側と合わせて取得費を二重に使うことになります。配偶者居住権がついた不動産の売却では、2人分をセットで計算するのが前提です。別々の税理士に依頼すると、ここがつながらないことがあります。
国税庁は「配偶者居住権に関する譲渡所得に係る取得費の金額の計算明細書」という様式を用意しています。
この明細書で、権利ごとの取得費を計算して申告します。
権利の価額はどのように決まるのか
取得費の計算には、相続のときの配偶者居住権の価額が使われます。
その価額は、相続税法23条の2により評価します(国税庁タックスアンサーNo.4666)。
建物の相続税評価額をもとに、残りの耐用年数と存続年数を使って計算する仕組みです。
ポイント
耐用年数は住宅用の耐用年数を1.5倍したものを使います。存続年数は、配偶者の平均余命(生命表)によります。国税庁の具体例では、木造の耐用年数22年×1.5=33年、経過年数10年、存続年数12年、複利現価率0.701という数字が示されています。
敷地利用権の価額は、土地の相続税評価額から、複利現価率を乗じた金額を差し引いて求めます。
いずれも、国税庁の「配偶者居住権等の評価明細書」で計算します。
相続のときにこの明細書を作っていれば、売却のときにそのまま使えます。
作っていない場合は、相続時にさかのぼって評価をやり直すことになります。
もう一つ、価額の決まり方から見えてくることがあります。
存続年数は配偶者の平均余命によりますから、配偶者の年齢によって価額が変わります。
同じ建物、同じ相続税評価額でも、配偶者が何歳かで結論が動くということです。
そして、建物の価額は「居住建物の相続税評価額 - 配偶者居住権の価額」で求めます。
配偶者居住権の価額が決まれば、所有者側に残る価額も自動的に決まります。
取得費も、この配分に沿って2人に分かれていきます。
相続のときの分け方が、数年後の売却の計算にまでつながっているということです。

当事務所での進め方
まず、相続のときの資料を確認します。
遺産分割協議書、登記事項証明書、相続税の申告書と評価明細書がそろっているかを見ます。
次に、亡くなった方が建物と土地を取得したときの資料をさかのぼって探します。
これがないと、取得費の出発点が決まりません。
そのうえで、配偶者側と所有者側の取得費を1つの表に並べて計算します。
お2人の申告をまとめてお引き受けするほうが、結果として正確になります。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。相談だけで終えていただいて構いません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 配偶者居住権を手放してお金を受け取りました。申告は必要ですか?
必要になります。所得税基本通達33-6の8は、配偶者居住権または敷地利用権の消滅につき対価の支払を受ける場合の対価の額は、所得税法施行令95条に規定する譲渡所得に係る収入金額に該当するとしています。
Q2. 買ったわけではないので、取得費はゼロですか?
ゼロではありません。所得税法60条3項が、相続または遺贈により取得した配偶者居住権が消滅したときの取得費の計算方法を定めています。ゼロとして申告すると税金を納めすぎることになります。
Q3. 建物を相続した子の取得費はどうなりますか?
減ります。所得税法60条2項により、配偶者居住権が設定されていないとしたならば計算される取得費から、配偶者居住権の取得費とされる金額を控除します。土地についても敷地利用権の分を控除します。
Q4. 相続税の申告で評価明細書を作っていません。売却できますか?
売却はできますが、取得費の計算のために相続のときの配偶者居住権等の価額が必要になります。相続税法23条の2により、相続開始時点にさかのぼって評価し直すことになります。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。所得税法60条2項・3項、所得税法施行令95条、所得税基本通達33-6の8、相続税法23条の2、国税庁タックスアンサーNo.4666「配偶者居住権等の評価」を扱っています。配偶者居住権等の価額および取得費の具体的な算式、政令(所得税法施行令)に定める計算方法の細目、複利現価率・平均余命の具体的な数値の当てはめ、この所得の課税方法の区分(総合課税か分離課税か)および適用できる特別控除の有無、居住用財産の3,000万円特別控除その他の特例の適用関係、配偶者居住権の設定・消滅に係る民法上の手続と登記、贈与税・相続税の課税関係、小規模宅地等の特例との関係は扱っていません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 所得税基本通達 法第33条《譲渡所得》関係(33-6の8)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/07.htm
- e-Gov法令検索 所得税法(60条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索 所得税法施行令(95条)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- 国税庁 タックスアンサー No.4666「配偶者居住権等の評価」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4666.htm
配偶者と所有者、2人分をまとめてご相談ください
配偶者居住権がついた自宅の売却は、配偶者側と所有者側で取得費を分け合う計算になります。別々に申告すると、取得費を二重に使ったり、逆にゼロで申告して納めすぎたりします。相続のときの評価明細書が残っているかどうかでも手間が変わります。代表税理士がお2人分をまとめて計算し、申告まで対応します。
無料相談を申し込む 不動産売却の確定申告サポートを見る 約60秒で料金を自動見積り