この記事のポイント
- 同じ年の売却は、長期・短期の区分ごとに損益を合計します
- 区分全体で残った損は、もう一方の区分の益から引きます
- 損は、特別控除を使わない物件の益から先に引く扱いです
- 引ききれない損は株式等とは通算できず、給与などとも一定のマイホームの特例を除き通算できません
まず結論:同じ年の売却は、区分ごとに合計してから差し引きます
土地・建物の損は、ほかの土地・建物の益から差し引けます(タックスアンサー No.3203)。
順序は、長期・短期の区分ごとに合計し、残った損をもう一方の区分の益から引く形です。
長期・短期は、売った年の1月1日の所有期間が5年を超えるかどうかで分けます(No.3202)。
引ききれない損は、株式等の所得とは差し引けません。
給与などの所得とも、一定のマイホームの特例を除き差し引けません。

差し引きは「物件ごと→区分ごと→区分の間」の順に進みます
結論として、益と損の差し引きは次の4段階で進みます。
- 物件ごとに、売った金額から取得費(買った代金など)と譲渡費用(仲介手数料など)を引いて損益を出す
- 長期と短期に分け、区分ごとに損益を合計する
- 区分の合計が損なら、もう一方の区分の益から引く
- それでも残る損は、原則として生じなかったものとみなされる
建物の取得費は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します(No.3202)。
区分の間の扱いは、国税庁の通達が次のように定めています。
分離短期譲渡所得の損失の金額は、分離長期譲渡所得の譲渡益から控除し、なお控除しきれない損失の金額は生じなかったものとみなす。
(租税特別措置法関係通達31・32共-2(1))
長期の損を短期の益から引くときも同様で、残る損には一定のマイホームの例外があります(同(2))。
同じ区分に益があれば、損はまずその益と差し引かれます。
計算例:長期の益2,000万円と短期の損600万円を同じ年に売った場合
結論として、この例では短期の損600万円を、長期の益2,000万円から引きます。
計算例
例1:A物件(土地・長期)とB物件(投資用マンション・短期)を同じ年に売却
A物件 5,000万円 -(取得費+譲渡費用)3,000万円 = 益2,000万円 B物件 2,400万円 -(取得費+譲渡費用)3,000万円 = 損600万円 長期譲渡所得の金額 2,000万円 - 600万円 = 1,400万円 所得税 1,400万円 × 15% = 210万円 復興特別所得税(令和8年分) 210万円 × 2.1% = 44,100円 住民税 1,400万円 × 5% = 70万円 合計 2,844,100円(B物件の損を差し引かないと4,063,000円で、差は1,218,900円)税率は、長期が所得税15%・住民税5%です(No.3208)。
令和8年分の復興特別所得税は、所得税額の2.1%です(同)。
令和9年分からは、復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%になり、合計は同じです。
自宅の3,000万円控除などの特別控除は使わない前提です。
所得控除はほかの所得から引ききれているとした、一定の前提を置いた目安です。

引ききれない損は、原則としてないものとされます
結論として、区分の間でも引ききれない損は、原則として切り捨てです。
この場合において、長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす。
(租税特別措置法31条1項後段。短期は32条1項後段に同じ定め)
給与や事業所得、株式等の譲渡所得とは、原則として損も益も互いに差し引けません(No.2250)。
例外は、長期に当たるマイホームの譲渡損失です(No.3203)。
一定の要件を満たせば、給与などと通算できる特例が2つあります。
要件はマンションの譲渡損失の記事で扱っています。
適用期限は、令和8年度改正で令和9年12月31日まで2年延長されました。
特別控除を使う物件があるときは、損は特例のない益から先に引きます
結論として、損は、特別控除を使わない物件の益から先に差し引く扱いです。
差し引いた後に残る益は、特別控除の対象となる物件の益から成るものとされます(31・32共-3)。
区分の間で引く場合も、政令に同じ順序の定めがあります(租税特別措置法施行令20条7項・21条7項)。
計算例
例2:自宅と貸家(ともに長期)は益、土地(短期)は損
自宅 益1,000万円(3,000万円控除の対象)、貸家 益500万円、土地 損300万円 損300万円は、特例のない貸家の益から先に引く → 貸家 200万円 自宅 1,000万円 - 3,000万円控除(益が限度)1,000万円 = 0円 課税長期譲渡所得金額 200万円 → 所得税・復興特別所得税・住民税の合計 406,300円 損を自宅の益から先に引く計算にすると、税額は約61万円多く出ます数値は一定の前提を置いた目安です。
特別控除を2つ以上使う年は、合計5,000万円の上限と控除の順序もあります(No.3223)。
詳しくは特別控除の年間5,000万円枠の記事をご覧ください。

申告は1年分をまとめ、内訳書は契約ごとに作ります
結論として、同じ年の売却は、その年分の確定申告書1通にまとめて申告します。
物件ごとの代金や取得費は、譲渡所得の内訳書という計算明細書に書きます。
この内訳書は、一の契約ごとに1枚ずつ使用して記載し、「確定申告書」とともに提出してください。
(国税庁 譲渡所得の内訳書【土地・建物用】1面「記載上の注意事項」(令和7年分以降用))
長期・短期のそれぞれで契約が2つ以上あれば、いずれか1枚の計算欄の上段に合計額を書きます。
第三表(分離課税用)には、取引が複数なら区分ごとの合計額を書きます(国税庁 令和7年分の記載例)。
ポイント
損が出た物件も、内訳書を作って申告に含めます。含めないと、同じ年の益と差し引かれないまま税額が計算されます。
つまずきやすいのは、この4つです
結論として、申告に含める範囲、売った年、取得費の扱いが分かれ目です。
- 損が出た物件の申告を省いた ― 例1では税額が1,218,900円多くなります
- 年をまたいだ売却の損も引けると考えた ― 翌年の損は、その年の益とは差し引けません
- 取得費の資料を探さず5%で計算した ― 本来は損の物件が、益の計算になることがあります
- 長期・短期の区分を誤った ― 差し引く相手と税率が変わります
売った年は、原則として引渡しの日で決まります。
契約の効力発生の日を選んで申告することもできます(所得税基本通達36-12)。
注意
取得費が分からないときは、売った金額の5%を取得費(概算取得費)にできます(No.3258)。実際の取得費が5%より少ないときも同じです。資料を探さずに5%で計算すると、本来は損の物件が益になり、差し引ける損が消えることがあります。

ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
物件ごとの資料集めはご自身でできますが、区分と順序の判断は個別です。
- その年に売った土地・建物を、すべて書き出す
- 物件ごとに、売買契約書で売った金額と引渡しの日を確かめる
- 購入時の契約書と領収書で、取得費の資料をそろえる
- 仲介手数料など、売るための費用の領収書をそろえる
長期・短期の判定、特別控除の要件、取得費の確かめ方、損を引く順序は、資料と事情で結論が変わります。
補足
長期で税率の特例を使う物件があるときも、損を引く順序の定めがあります(通達31-1)。優良住宅地の特例や、10年超のマイホームの軽減税率です。この通達31-1の順序と異なる計算で申告したときも、その計算を認めるとされています。
税理士が入ると変わるのは、物件ごとの根拠と差し引きの検算です
ひとつめは、物件ごとに取得の日を確かめ、長期・短期を判定することです。
ふたつめは、取得費と譲渡費用を資料で確かめ、5%の概算取得費と比べることです。
みっつめは、区分ごとの合計と、区分の間の差し引きを検算することです。
よっつめは、特別控除を使う物件の、損を引く順序と控除の上限の確認です。
いつつめは、契約ごとの内訳書と、第三表の区分ごとの合計額をそろえることです。
小松公認会計士・税理士事務所では、資料の読み取りから内訳書の作成、適正申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
登録者6,900人超
小松公認会計士・税理士事務所 代表
小松 優馬公認会計士・税理士
- お話を伺って、「あなたの場合はどうなるか」をはっきりお答えします
- 必要な書類のご案内から申告まで、まるごとお任せいただけます
- 料金は先にお見積り。全国どこでも、オンラインで完結できます
YouTube「税理士 小松ゆうまチャンネル」(登録者6,900人超)で、税金の話を分かりやすく解説しています。動画を見てみる
初回相談は無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 損が出た物件は、申告しなくてもよいですか?
益が出た物件を申告するときは、損が出た物件も内訳書を作って申告に含めます。含めないと、同じ年の益と差し引かれないまま税額が計算されます。気づいたのが申告後なら、法定申告期限から5年以内は更正の請求を検討できます(国税通則法23条1項)。
Q2. 長期の損を、税率の高い短期の益から先に引けますか?
そうはなりません。まず長期・短期の区分ごとに損益を合計します(租税特別措置法関係通達31・32共-2)。同じ長期の中に益があれば、損はまずその益と差し引かれます。区分全体で損が残ったときに、その残りを短期の益から引きます。
Q3. 引ききれなかった損は、翌年に繰り越せますか?
原則として繰り越せません。引ききれない損は、生じなかったものとみなされます(租税特別措置法31条1項後段など)。例外は、長期に当たるマイホームの譲渡損失で、一定の要件を満たす場合です。翌年以後3年間の繰越控除の特例があります(No.3203)。
Q4. 株式の譲渡損や事業の赤字と、土地・建物の譲渡益を差し引けますか?
差し引けません。事業の赤字など他の所得の損失は、土地・建物の譲渡益と損益通算できません(No.2250(注7))。株式等の譲渡損失も、土地・建物の譲渡益とは損益通算できません(同(注5))。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。租税特別措置法31条1項・32条1項・35条1項・36条・41条の5・41条の5の2、租税特別措置法施行令20条7項・21条7項、租税特別措置法関係通達31・32共-2・31・32共-3・31-1、所得税基本通達36-12、国税通則法23条1項、国税庁タックスアンサー No.2250・No.3202・No.3203・No.3208・No.3223・No.3258、国税庁「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】」(令和7年分以降用)の記載上の注意事項、国税庁「令和7年分 譲渡所得の申告のしかた」、国税庁「個人の方が株式等や土地・建物等を譲渡した場合の令和8年度 税制改正のあらまし」の内容を扱っています。特別控除の合計5,000万円の総枠の計算と控除の順序の細目、マイホームの譲渡損失の2つの特例の要件と計算、長期・短期の判定方法、優良住宅地の特例や10年超の居住用財産の軽減税率がある場合の計算の細目、短期譲渡所得の軽減税率、所得控除や雑損失の控除の順序、純損失の繰越控除との関係、概算取得費の適用範囲の細目、更正の請求の手続、住民税の申告と納付、株式等や総合課税の譲渡所得の計算は扱っていません。譲渡所得の内訳書の記載上の注意事項は令和7年分以降用の様式によっており、令和8年分の様式(国税庁の一覧では令和8年12月頃に公開予定)は確認していません。令和8年分の確定申告書(第三表)の新様式も確認していません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の金額は譲渡価額・取得費・譲渡費用・特例の有無によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 租税特別措置法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 国税庁 措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》・第32条《短期譲渡所得の課税の特例》共通関係(31・32共-2、31・32共-3)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti31/01.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3203.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2250 損益通算https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm
- 国税庁 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】(令和7年分以降用)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/syotoku/pdf/r07_joto_01.pdf
同じ年に複数の不動産を売ったら、申告の前に損益の差し引きを確かめませんか
同じ年に売った土地・建物の益と損は、区分や特例、取得費の根拠で差し引きの結果が変わります。代表税理士が、物件ごとの売買契約書と領収書から取得費と譲渡費用を確かめます。契約ごとの内訳書と第三表まで、一貫して作成します。売却が決まった段階、または申告期限の前に、資料をそろえてご相談ください。
無料相談を申し込む 不動産売却の確定申告サポートを見る 約60秒で料金を自動見積り