この記事のポイント
- 1億円以下かは、家や土地を相続したほかの相続人の売却も合わせて判定します
- 共有で売ると、ほかの相続人の持分も適用前譲渡として合計に入ります
- 特例を受けた売却の翌年から3年後の年末までに超えたら4か月以内に修正申告と納税です
- 特例を受ける人は他の相続人に通知し、売った相続人も金額などを知らせる義務があります
まず結論:1億円は、ほかの相続人の売却も合わせて判定します
相続した実家を売ると、要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
譲渡所得とは、売却のもうけのことです。
家と土地を相続した人が3人以上なら、控除は1人2,000万円までです(令和6年1月1日以後の売却)。
要件のひとつが、売却代金1億円以下です。
その譲渡の対価の額が一億円を超えるものを除く
(租税特別措置法35条3項)
1億円以下かは、家や土地を相続したほかの相続人の売却や、分けて売った分も合わせて判定します。
対象は平成28年4月1日から令和9年12月31日までの売却です(令和8年10月時点の条文)。
要件の全体は相続した実家の売却の記事にあります。

合計に入るのは「適用前譲渡」と「適用後譲渡」です
特例を受ける売却(対象譲渡)の前後に、同じ家と土地を売ると合計に入ります。
数えるのは、家か土地を相続した相続人(居住用家屋取得相続人)の売却です。
特例を受ける本人や、家だけ・土地だけを相続した人も含みます(措置法通達35-21)。
| 区分 | 期間 | 合計が1億円を超えると |
|---|---|---|
| 適用前譲渡 | 相続の時から、対象譲渡をした年の12月31日まで | はじめから特例は使えません(35条6項) |
| 適用後譲渡 | 対象譲渡の翌年1月1日から、対象譲渡の日以後3年を経過する日の属する年の12月31日まで | さかのぼって使えなくなり、修正申告(申告の出し直し)が必要です(35条7項・9項) |
当該適用前譲渡に係る対価の額と当該対象譲渡に係る対価の額との合計額が一億円を超えることとなるときは、適用しない。
(租税特別措置法35条6項)
特例を受ける売却と同じ年なら、その後に売った分も適用前譲渡に入ります。
数えるのは、相続の直前に被相続人の住まいと一体だった家と土地です(措置法通達35-22)。
収用交換等による譲渡など、政令で定める譲渡は合計に入れません(35条6項・7項)。

共有で売るときは、ほかの相続人の持分も足して判定します
持分ごとに1億円以下でも、相続人の持分を合わせて1億円を超えると使えません。
共有なら、まず自分が相続した持分の売却代金で判定します(措置法通達35-20)。
ほかの相続人の持分は、次の扱いです。
当該譲渡資産に係る他の共有持分のうち居住用家屋取得相続人の共有持分については、適用前譲渡に係る対価の額となることに留意する。
(措置法通達35-20(1)の注)
計算例
例1:兄弟3人が3分の1ずつ相続した実家を、3人そろって売る(ほかの要件は満たすものとします)
売却代金1億2,000万円 ÷ 3人 = 1人あたり4,000万円 4,000万円 + ほかの2人の持分8,000万円 = 1億2,000万円 1億円を超える → 3人とも特例は使えません 売却代金が9,000万円なら、合計9,000万円 → 3人とも対象数値は一定の前提を置いた目安です。
この場合の控除は、相続人が3人なので1人2,000万円までです(35条4項)。
共有名義の売却の全体は共有不動産の売却の記事をご覧ください。
家と土地を分けて売る・数年に分けて売るときも合計します
先に一部を売った分も、期間内に後で残りを売る分も、同じ家と土地なら合計に入ります。
たとえば、庭の部分を先に2,000万円で売り、翌年に家と残りを8,500万円で売ったとします。
合計1億500万円で1億円を超えるため、翌年の売却に特例は使えません。数値は一定の前提を置いた目安です。
家が残ったまま敷地の一部だけを売ると、その売却は特例の対象外です(措置法通達35-17)。
その売却は特例の対象外でも、1億円の合計には入ります。
ポイント
贈与や著しく安い売却は、その時の時価で合計に入ります(租税特別措置法施行令23条15項)。著しく安いとは、通常の取引価額の2分の1に満たない金額です(措置法通達35-24)。
特例を受けられるのは、同じ相続の家と土地について1人1回です(35条3項)。

後から1億円を超えたら、4か月以内に修正申告をします
適用後譲渡で1億円を超えたら、特例を受けた人は、その売却の日から4か月以内に修正申告と納税をします。
居住用家屋取得相続人がその該当することとなつた適用後譲渡をした日から四月を経過する日までに当該対象譲渡をした日の属する年分の所得税についての修正申告書を提出し、かつ、当該期限内に当該申告書の提出により納付すべき税額を納付しなければならない。
(租税特別措置法35条9項)
期限の起点は、適用後譲渡をした日です。売却を知った日ではありません。
期限内に出した修正申告書は、期限内申告書とみなされます(35条11項・33条の5第3項)。
出さないときは、税務署長が更正(税額を正す処分)をします(35条10項)。
特例を受ける人は、家や土地を相続したほかの相続人へ、売った旨や日付の通知が必要です(35条8項)。
通知を受けた相続人で売った人も、遅滞なく売った日や金額などを知らせる義務があります。
計算例
例2:Aさんが家と甲土地、Bさんが庭だった乙土地を相続(ほかの要件は満たすものとします)
令和8年6月 Aさんが7,000万円で売り、3,000万円控除で申告 令和9年 Bさんが3,500万円で売却(適用後譲渡の期間は令和11年12月31日まで) 7,000万円 + 3,500万円 = 1億500万円 → Aさんは令和8年分を修正申告 長期譲渡所得5,000万円と仮定:所得税 750万円 - 300万円 = 450万円 復興特別所得税 157,500円 - 63,000円 = 94,500円 増える税額 = 4,594,500円数値は一定の前提を置いた目安です。所得税は15%、復興特別所得税はその2.1%(令和8年分)で計算し、住民税は含みません。
家と土地の両方を相続したのはAさんだけです。Bさんは自分では特例を使えません(措置法通達35-9)。
特例が使えなくなる見落としは、この5つです
- 持分ごとに1億円以下なら大丈夫と考えた ― 相続人の持分は合計します
- 先に庭の部分だけ売った分を外した ― 自分の先の売却も適用前譲渡です
- 土地だけ相続したきょうだいの売却を数えていない ― その売却も合計に入ります
- 親族に贈与した持分を数えていない ― 贈与の時の時価で合計に入ります
- 後の売却を知らず、4か月を過ぎた ― 期限の起点はその売却の日です
注意
ほかの相続人から通知がなくても、合計が1億円を超えれば特例は使えません(措置法通達35-25)。申告の前に、相続人全員の売却を確かめます。
ここまではご自身で、ここから先は個別判断です
売却の履歴を集めて合計するところまでは、ご自身でできます。
- 遺産分割協議書と登記事項証明書で、家と土地を相続した人と持分を確かめる
- 相続の時から今までに、その家と土地を売った人・日付・代金を一覧にする
- 特例を受ける売却の日から、適用後譲渡の期間の終わりを書き出す
- ほかの相続人に、売った旨と日付を書面で知らせ、控えを残す
ここから先は、資料と事情で結論が変わります。
どの土地が住まいと一体だったか、贈与した持分の時価、売る順序と時期の判断です。
補足
店舗兼住宅などは、特例を受ける売却を居住部分に対応する代金で判定します(措置法通達35-20)。居住部分がおおむね90%以上なら、全体の代金で判定する扱いもあります。適用前譲渡・適用後譲渡は、店舗部分も合計に入ります(同35-22)。

税理士が入ると変わるのは、売却の合計と期限の管理です
ひとつめは、相続した人と持分を確定し、合計に入る家と土地を判定することです。
ふたつめは、相続後の売却を洗い出し、適用前譲渡と適用後譲渡の合計表を作ることです。
みっつめは、売る順序と時期による違いを、売る前に試算することです。
よっつめは、通知の文面を用意し、期間の終わりまで売却の有無を確かめることです。
いつつめは、確定申告書と譲渡所得の内訳書、必要なときは修正申告書を作ることです。
小松公認会計士・税理士事務所では、売却前の確認から確定申告・修正申告までを担当します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
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よくある質問(FAQ)
Q1. 共有で売るとき、自分の持分が1億円以下なら特例を使えますか?
使えないことがあります。共有は自分の持分の代金で判定しますが、家や土地を相続したほかの相続人の持分は適用前譲渡として合計に入ります(措置法通達35-20)。3人で1億2,000万円で売ると、1人4,000万円でも3人とも使えません。
Q2. 土地だけを相続したきょうだいが売った分も、合計に入りますか?
入ります。家だけ、土地だけを相続した人も居住用家屋取得相続人に含まれます(措置法通達35-21)。被相続人の住まいと一体で使っていた土地の売却は、合計に入ります。期間は、相続から特例を受けた売却の3年後の年末までです。なお、その人自身は特例を使えません(措置法通達35-9)。
Q3. 特例を受けた後に1億円を超えたら、いつまでに何をしますか?
超えることとなった売却の日から4か月以内に、特例を受けた年分の修正申告書を出し、納税します(租税特別措置法35条9項)。期限内に出せば期限内申告書とみなされます(同条11項)。出さないと、税務署長が更正をします(同条10項)。
Q4. ちょうど1億円で売った場合は、対象になりますか?
対象です。条文が除いているのは、対価の額が1億円を超えるものです(租税特別措置法35条3項)。ただし、ほかの相続人の売却や後の売却を合わせて1億円を超えると使えません。通知がなかった場合も同じです(措置法通達35-25)。
免責事項
本記事は令和8年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。租税特別措置法35条3項・4項・6項から11項まで、同法33条の5第3項、租税特別措置法施行令23条14項・15項、所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)附則32条3項、措置法関係通達35-9・35-17・35-20から35-25まで、国税庁タックスアンサーNo.3306の範囲を扱っています。耐震基準への適合や取壊しの要件、老人ホーム等に入所していた場合の要件、店舗兼住宅等の居住部分の按分の算式、用途上不可分の2以上の建築物がある土地の面積の計算、被相続人居住用家屋等確認書などの添付書類、自己の居住用財産を同じ年に売った場合の控除額の調整、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例との選択、通知の方法、期限後に修正申告をした場合や更正を受けた場合の加算税・延滞税、住民税の計算、令和10年以後の売却への適用期限の延長の有無は扱っていません。記事中の計算例は一定の前提を置いた目安であり、実際の税額は取得費・譲渡費用・所有期間・相続人の数と持分によって変わります。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁 措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》関係https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti35/01.htm
- e-Gov法令検索 租税特別措置法https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令https://laws.e-gov.go.jp/law/332CO0000000043
- e-Gov法令検索 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000117
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