不動産譲渡所得

売買契約のあと、引渡しの前に売主が亡くなったら
相続税と譲渡所得はこう分かれます

小松優馬

小松 優馬

公認会計士(登録番号43196)・税理士(登録番号151214)

監査法人での上場企業監査・上場準備CFO経験を経て独立。港区浜松町で個人・法人の税務をサポート。YouTubeチャンネル「公認会計士・税理士 小松ゆうま」運営。

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この記事のポイント

  • 売主が亡くなると、相続財産は不動産ではなく残代金請求権になります
  • 譲渡所得は契約日と引渡日のどちらでも申告できます(所基通36-12)
  • 契約日なら3,000万円特別控除、引渡日なら取得費加算が使えます
  • どちらを選ぶかで税額が数百万円変わることがあります

まず結論:相続したのは「不動産」ではなく「残代金請求権」です

売買契約を結んだあと、引渡しと代金決済が済む前に売主が亡くなることがあります。

高齢の親が実家を売りに出していた、という場面です。

このとき、相続税の計算で相続財産になるのは、その不動産ではありません。

売買契約に基づく、相続開始時における残代金請求権(未収入金)が相続財産になります。

国税庁の質疑応答事例が、売主・買主それぞれについて整理しています。

亡くなった人相続により取得した財産承継した債務
売主売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権(未収入金)
買主売買契約に係る土地等または建物等の引渡請求権等相続開始時における残代金支払債務

残代金請求権の評価は、財産評価基本通達204の貸付金債権の評価によります。

つまり、路線価ではなく金額そのもので評価されます。

注意

小規模宅地等の特例のように、土地であることを前提にした特例は、金銭債権になった段階では検討の土俵が変わります。売る時期と相続の時期が近いときほど、動かす前のご相談が効きます。

引渡し前に売主が亡くなると相続財産は残代金請求権になります
引渡し前に売主が亡くなると相続財産は残代金請求権になります

譲渡所得は「誰の申告か」を選べます

次に、譲渡所得のほうを見ます。ここに選択の余地があります。

譲渡所得の収入すべき時期は、原則として資産の引渡しがあった日です。

ただし、所得税基本通達36-12により、契約の効力発生の日を選ぶこともできます。

通常は契約締結の日です。この選択が、そのまま「誰の申告か」を決めます。

ポイント

契約日を選ぶと、亡くなった方(被相続人)の譲渡所得になり、準確定申告で申告します。引渡日を選ぶと、引渡しの時点の所有者である相続人の譲渡所得になり、その年分の確定申告で申告します。

同じ1件の売却なのに、申告する人も年分も変わります。

そして、使える特例まで入れ替わります。ここが本記事のいちばん大事なところです。

手続きの面でも違いが出ます。

契約日を選ぶと、亡くなった方の準確定申告として申告することになります。

準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月です。

相続税の申告期限である10か月より、半年ほど早く来ます。

つまり、相続税の全体像が固まる前に、譲渡所得の選択を決めなければならないことがあります。

引渡日を選ぶ場合は、引渡しの年の翌年3月15日が期限になります。

引渡しが年末をまたぐと、申告の年分がさらに1年ずれることもあります。

契約日を選ぶと、3,000万円特別控除が使えます

亡くなった方が自分で住んでいた家であれば、契約日を選ぶ意味があります。

国税庁の質疑応答事例に、まさにこの事例があります。

母と子の共有マンション(母のみが居住)で、契約後・決済前に母が亡くなった事案です。

補足

回答は、居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例等は譲渡資産がその譲渡者の居住の用に供されていたものである場合に適用されるとしたうえで、契約の効力発生の日により総収入金額に算入することを選択するとき、すなわち被相続人である母の譲渡所得として申告するときは、特別控除の特例等の適用を受けることができるとしています。

逆に、引渡日を選んで相続人の譲渡所得にすると、この控除は使えません。

相続人自身はその家に住んでいないからです。

住んでいたのは亡くなった方なので、亡くなった方の申告にしないと控除が乗りません。

契約日を選べば被相続人の譲渡所得として3000万円特別控除が使えます
契約日を選べば被相続人の譲渡所得として3,000万円特別控除が使えます

引渡日を選ぶと、取得費加算が使えます

一方、引渡日を選んだ場合には別の特例が使えます。

相続税額の取得費加算の特例(租税特別措置法39条)です。

国税庁の質疑応答事例は、売主に相続が開始した場合について次のとおりとしています。

相続人が収入すべき時期を引渡しがあった日として申告するときは、この特例を適用して差し支えありません。

ポイント

計算に使う譲渡資産の価額は、その譲渡収入金額(残代金請求権+手付金に相当する額)になります。また、譲渡収入金額から残代金請求権の価額を控除した金額(前受金債務に相当する額)は、その相続人の債務控除額に加算します。

ここで、2つの選択肢を数字で比べてみます。

計算例

売買代金5,000万円(手付金500万円・残代金4,500万円)/取得費は概算5%/譲渡費用150万円/所有期間10年

譲渡所得=5,000万円 - 250万円 - 150万円 = 4,600万円

A 契約日を選ぶ(被相続人の準確定申告・亡くなった方が居住)

4,600万円 - 3,000万円 = 1,600万円 1,600万円 × 20.315% = 3,250,400円

B 引渡日を選ぶ(相続人の申告・取得費加算800万円)

4,600万円 - 800万円 = 3,800万円 3,800万円 × 20.315% = 7,719,700円 差額 4,469,300円

この設例ではAが有利ですが、いつもそうとは限りません。

相続税を多く納めているほど取得費加算が大きくなり、Bが有利に傾きます。

引渡日を選べば相続人の譲渡所得として取得費加算が使えます
引渡日を選べば相続人の譲渡所得として取得費加算が使えます

買主が亡くなった場合はどうなるか

買主側で相続が開始した場合も、考え方は同じ枠組みです。

相続財産は引渡請求権等となり、残代金支払債務を承継します。

引渡請求権等の価額は、原則としてその売買契約に基づく取得価額によります。

注意

ただし、契約の日から相続開始の日までの期間が通常の売買の例に比較して長期間であるなど、取得価額が価額として適当でない場合には、相続開始の日における状況に基づき別途個別に評価した価額によります。契約から決済まで1年以上あくようなケースは、ここが論点になります。

なお、買主に相続が開始した場合は、その土地等または建物等を相続財産として申告しても差し支えありません。

この場合の価額は、財産評価基本通達により評価した価額になります。

相続人がその物件を転売したときは、取得費加算の特例を適用できます。

最後に、農地を売る場合の注意を1つ挙げておきます。

補足

売買について農地法3条1項もしくは5条1項本文の規定による許可、または同項6号の規定による届出を要する農地・採草放牧地などについては、その許可の日または届出の効力が生じた日が「引渡しの日」になります(許可の日等より後に所有権が移転したと認められる場合を除きます)。農地は、引渡しの日そのものの判定から違います。

許可が下りる前に亡くなったのか、後に亡くなったのかで、結論が変わります。

買主が亡くなった場合は引渡請求権等が相続財産になります
買主が亡くなった場合は引渡請求権等が相続財産になります

当事務所での進め方

まず、売買契約書で契約日・引渡日・手付金の額を確認します。

次に、亡くなった方がその家に住んでいたかどうかを確かめます。

ここで3,000万円特別控除の可否が決まるためです。

あわせて、相続税の見込み額を試算し、取得費加算がいくらになるかを出します。

そのうえで、契約日ベースと引渡日ベースの税額を両方計算し、比べていただきます。

準確定申告の期限は相続の開始を知った日の翌日から4か月です。判断に使える時間は長くありません。

この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること

制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 契約は済んでいます。相続財産は売った不動産ですか、お金ですか?

売主が亡くなった場合は、売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権(未収入金)が相続財産になります。評価は財産評価基本通達204の貸付金債権の評価によります。

Q2. 譲渡所得は亡くなった方と相続人のどちらの申告になりますか?

選べます。所得税基本通達36-12により、収入すべき時期は引渡しがあった日が原則で、契約の効力発生の日も選択できます。契約日を選べば被相続人の準確定申告、引渡日を選べば相続人の申告です。

Q3. 亡くなった母が住んでいた家です。3,000万円特別控除は使えますか?

契約の効力発生の日を選び、被相続人である母の譲渡所得として申告するときは適用を受けられます(国税庁質疑応答事例)。相続人の譲渡所得として申告する場合には使えません。

Q4. 取得費加算と3,000万円特別控除は、どちらを選べばよいですか?

税額を計算して比べます。国税庁の質疑応答事例は、特別控除等は被相続人の譲渡所得として申告するときに、取得費加算は相続人が引渡しの日として申告するときに適用できるとしており、申告する人が分かれます。

免責事項

本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。国税庁質疑応答事例「相続開始時点で売買契約中であった不動産に係る相続税の課税」、同「相続開始時点で売買契約中であった不動産の譲渡についての相続税額の取得費加算の特例の適用」、同「居住用財産の譲渡契約を締結した者が所有権移転登記及び代金決済を行う前に死亡した場合」、所得税基本通達36-12、租税特別措置法31条の3・35条1項2項・39条、相続税法2条・13条、財産評価基本通達204を扱っています。取得費加算の具体的な算式の当てはめ、小規模宅地等の特例の要件、準確定申告の手続の細目、農地法の許可・届出を要する農地等における引渡しの日の判定の細目、相続放棄・限定承認、遺産分割が未了の場合の申告、空き家の3,000万円特別控除(措法35条3項)との関係は扱っていません。記事中の計算例は制度の理解のための仮の設例であり、実際の税額を示すものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。

参考資料・出典

準確定申告の4か月が来る前に、比較してから決めましょう

契約日で申告するか引渡日で申告するかは、一度決めて申告すると簡単には戻せません。しかも準確定申告の期限は4か月と短く、相続税の申告期限より先に来ます。亡くなった方が住んでいたか、相続税がいくらになるかで結論は変わります。代表税理士が両方の税額を計算してお示しし、相続税の申告まで一続きで対応します。

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小松 優馬

公認会計士・税理士/元監査法人

大手監査法人にて上場企業の監査業務に従事。税務の専門性を高めるため独立。判例ベースの適正申告・節税にこだわり、お客様の人生設計を支える税務パートナーとして活動中。YouTubeチャンネル「税理士 小松ゆうま」では税務情報を発信中(登録者6,500人超)。

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