この記事のポイント
- 解約すると資産計上額を上回る解約返戻金が益金になります
- 役員退職金は株主総会の決議等で額が確定した期の損金です
- 両者を同じ事業年度にそろえることが出口の設計です
- 解約だけ先に済ませると、当期に益金だけが立ちます
まず結論:解約の益金と退職金の損金は、同じ事業年度にそろえる設計が出発点です
法人保険の出口は、解約する期と退任する期をそろえる設計から始まります。
保険を解約すると、解約返戻金が会社に入ります。
受け取った額が資産に計上していた保険料を上回れば、その差額は益金です。
益金とは、税金の計算で利益に足す金額のことです。
同じ事業年度に役員退職金の額が確定し損金になれば、益金と損金は同じ期に並びます。
損金とは、税金の計算で利益から引く金額のことです。
退職金の損金の時期は、株主総会の決議等で額が確定した日の属する事業年度です。
根拠は法人税基本通達9-2-28です。
解約だけ先に済ませ、退任が翌期にずれると、当期は益金だけが立ちます。
出口の設計とは、この2つの期を合わせることです。
「出口で必ず相殺できる」とは言えません。同じ期に立つかどうかを、契約と決議の両面から詰める作業です。

解約すると、資産に計上していた保険料を取り崩し、差額が益金になります
解約時の益金は、解約返戻金と資産計上額の差額として生じます。
法人が受取人の養老保険の保険料は、契約の解除などで契約が終了する時まで資産に計上します。
根拠は法人税基本通達9-3-4(1)です。
令和元年7月8日以後に契約した定期保険や第三分野保険も、似た仕組みです。
最高解約返戻率が50%を超えると、保険料の一部を一定期間資産に計上します。
根拠は法人税基本通達9-3-5の2です。
資産計上額は所定の期間が過ぎると取り崩し、損金に算入します(タックスアンサーNo.5364-2)。
区分ごとの割合や期間は、令和元年の通達改正で法人保険の扱いがどう変わったかで解説しています。
解約で契約が終わると、資産に計上していた保険料は帳簿に残せません。
解約返戻金がその資産計上額を上回る部分が、法人税法22条2項の収益の額として益金になります。
ポイント
通達に「解約時はこう計算する」という算式が置かれているわけではありません。契約終了まで資産に計上するという定め(9-3-4(1))があります。取引に係る収益の額は益金という定め(法人税法22条2項)もあります。この2つの帰結として、差額が益金になります。
資産計上額は契約ごとに違います。取崩期間に入っていれば、年ごとに減っていきます。
そのため、どの期に解約するかで益金の額も変わります。
役員退職金は「額が具体的に確定した日」の事業年度の損金です
退職金の損金の時期は、金額が具体的に確定した日で決まります。
株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度の損金です。
法人税基本通達9-2-28がそう定めています。
ただし、支払った日の属する事業年度に損金経理した場合は、それも認められます。
逆に、確定する前に未払金へ計上しても損金にはなりません。
取締役会で内定した金額を未払金に計上しても、その時点の損金にはなりません。
タックスアンサーNo.5208の注1が、この点を明記しています。
背景には、債務の確定しない費用は損金に含めないという原則があります(法人税法22条3項2号)。
年金の形で払う場合は、支給すべき時の損金です。
年金の総額を未払金に計上しても、その額を損金にはできません(法人税基本通達9-2-29)。
金額の決め方と適正額の考え方は、役員退職金の損金算入で解説しています。

計算例:同じ期にそろえた場合と、翌期にずれた場合
同じ期にそろうかどうかで、その期の所得への影響は大きく変わります。
計算例
例:解約返戻金3,000万円/その契約について資産に計上している保険料の累積額1,800万円
前提:同じ事業年度に株主総会の決議で役員退職金2,500万円が確定し、支給した 3,000万円 - 1,800万円 = 1,200万円(資産計上額を取り崩した差額=益金) 1,200万円 - 2,500万円 = △1,300万円(同じ期に損金算入した場合の所得への影響)仮に置いた数値による目安です。税率を使った税額は示していません。
| 場面 | 当期の所得への影響 | 翌期の所得への影響 |
|---|---|---|
| 解約と退職金の確定・支給が同じ期 | +1,200万円 - 2,500万円 = △1,300万円 | 0円 |
| 解約は当期、退職金の確定が翌期 | +1,200万円 | △2,500万円 |
期がずれると、当期は益金1,200万円だけが立ち、翌期に損金2,500万円だけが立ちます。
2期を足した数字は同じでも、当期の所得は1,200万円増えたまま申告することになります。
退職金2,500万円のうち、相当と認められる金額を超える部分は損金になりません。
根拠は法人税法34条と法人税法施行令70条2号です。
出口でよくある失敗パターン3つ
失敗は、解約・退任・規程の3つがばらばらに進むときに起きます。
注意
①解約だけ先に済ませる
資金繰りのために先に解約し、退任は来期という進め方です。当期に益金だけが立ちます。
②退任時期が決まっていない
解約返戻率が最も高くなる時期は、契約ごとに決まっています。退任の時期がそれに合うとは限りません。
③退職金規程と株主総会の準備がない
株主総会の決議等で額が確定しなければ、損金の時期は来ません。金額の根拠がなければ、相当性の説明もできません。
保険の日程は契約で固定され、退任の日程は会社が決めます。合わせるのは会社の側です。
保険契約そのものを退職金の一部として役員に渡す方法もあります。
契約者を役員に変える扱いは、法人保険の名義変更で解説しています。
補足
解約ではなく払済保険に変更した場合も、差額がその期の益金または損金になります。原則として、変更時の解約返戻金相当額と資産計上額との差額を算入します。算入する期は変更した日の属する事業年度です(法人税基本通達9-3-7の2)。解約を先延ばしにしても、差額が消えるわけではありません。

ここまではご自身で、ここからは個別判断です
ご自身でできるのは、契約の内容と日付を並べるところまでです。
- 保険証券で、契約日・保険期間・解約返戻金の推移を確認する
- 決算書の資産の部で、その契約の資産計上額を確認する
- 退任を考えている時期と、会社の決算月を書き出す
- 退職金規程の有無と、株主総会を開ける時期を確認する
解約返戻金と資産計上額の差額が、退任予定の期にいくら立つかは、この4点で見えてきます。
ここから先は個別判断です。
契約の種類、契約日、取崩期間の進み具合で、資産計上額は契約ごとに違います。
退職金の額が相当か、決議をいつ行うかも会社ごとに違います。
設計は個社ごとに異なります。数字を置いてから、出口の期を決めてください。

税理士が入ると、解約返戻金の推移表と退任時期の逆算表ができます
税理士が入ると、出口の期を数字で決められるようになります。
小松公認会計士・税理士事務所は保険の販売代理店ではありません。税務の側から出口の期を組み立てます。
具体的にやることは4つです。
- 契約ごとに、各事業年度末の資産計上額と解約返戻金を並べた推移表を作ります
- 退任予定の期に、益金と損金がそれぞれいくら立つかを試算します
- 株主総会の決議と支給の日程を、決算月から逆算して組みます
- 規程・議事録・支給の記録を、申告書の裏づけとしてそろえます
解約が1期早いと、当期の所得が増えます。決議が1期遅いと、損金が翌期に流れます。
推移表があれば、どの期に解約すれば益金と損金が同じ期にそろうかを、数字で確認できます。
契約書と直近の決算書をお持ちいただければ、推移表から一緒に確認します。
この論点で小松公認会計士・税理士事務所ができること
制度は複雑ですが、お客様がすべてを理解する必要はありません。難しいことは、専門家にお任せください。
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小松公認会計士・税理士事務所 代表
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よくある質問(FAQ)
Q1. 解約返戻金を受け取ったら、全額が益金になりますか?
全額ではありません。契約が終了する時まで資産に計上していた保険料を取り崩し、解約返戻金がその資産計上額を上回る部分が益金になります(法人税基本通達9-3-4(1)、法人税法22条2項)。資産計上額は契約ごとに違います。
Q2. 退職金を取締役会で内定して未払金に計上すれば、その期の損金になりますか?
なりません。損金の時期は株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度です(法人税基本通達9-2-28)。内定額を未払金に計上しても、その時点の損金にはなりません(タックスアンサーNo.5208 注1)。
Q3. 退職金を年金の形で払う場合、総額をまとめて損金にできますか?
できません。退職年金は支給すべき時の損金です。年金の総額を計算して未払金等に計上しても、その額を損金に算入することはできません(法人税基本通達9-2-29)。
Q4. 解約せずに払済保険へ変更すれば、益金は立ちませんか?
払済保険への変更でも、原則として変更時の解約返戻金相当額と資産計上額との差額を、変更した日の属する事業年度の益金または損金に算入します(法人税基本通達9-3-7の2)。差額が消えるわけではありません。
免責事項
本記事は令和8年9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な解説です。法人税法22条2項・22条3項2号・34条、法人税法施行令70条2号、法人税基本通達9-3-4(1)、9-3-5の2、9-3-7の2、9-2-28、9-2-29、国税庁タックスアンサーNo.5208「役員の退職金の損金算入時期」、No.5364-2「定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い」の内容を扱っています。最高解約返戻率の区分ごとの資産計上割合や期間、役員退職金の適正額の計算方法、退職所得の所得税の計算、保険契約の名義変更や払済保険の詳細、個別の保険商品の解約返戻率、法人税率を使った税額の試算、消費税の取扱いは扱っていません。記事中の計算例は制度の理解のための仮の設例であり、一定の前提を置いた目安です。実際の益金・損金の額や税額を示すものではありません。具体的な判断は必ず税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害について、当事務所は責任を負いかねます。
参考資料・出典
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第3節「保険料等」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第2節第7款「退職給与」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5208「役員の退職金の損金算入時期」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5208.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.5364-2「定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5364-2.htm
- e-Gov法令検索 法人税法https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
解約する前に、保険証券と決算書をお見せください
解約返戻金の益金と役員退職金の損金が同じ期に立つかどうかは、解約してからでは動かせません。契約ごとの資産計上額と解約返戻金の推移を並べ、退任予定の期に益金と損金がいくら立つかを先に試算します。株主総会の決議と支給の日程は決算月から逆算して組みます。代表税理士が契約書と決算書を伺い、出口の期の決め方から申告書への反映まで通して対応します。
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